病気で療養生活を送っていたら親友と浮気されて婚約破棄を決意。私を捨てたあの人は――人生のどん底に落とします。

佐藤 美奈

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4話

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(困ったな……)

ラウル王子の別宅の門番であるカールは途方に暮れる思いでした。ラウル王子はご在宅ですとつい言ってしまった。言ってから数秒後にはっと気づかされてナタリア公爵令嬢を引き止めるために叫んだ。

ラウルは家にいる。その事に間違いはないがラウルはナタリアが病気なのをいいことに女性を連れ込んで浮気していた。今はその真っ最中なのをカールは思い出した。

「まさか……」

ナタリアは美しさと力強い性格を兼ね備える聡明な女性。何か勘づいた表情に変わった。その瞬間、自然と体が動いて走り出した。

「ナタリア様!お待ちください!」

カールはナタリアの後ろ姿を見つめながら、行っては駄目だと声を限りに叫ぶことしかできなかった。国内でも屈指の大貴族である公爵家の御令嬢の体に気安く触るような真似はできない。門番風情が彼女に触れることは決して許されないのだ。後ろから聞こえるカールの声が走っているナタリアの心に虚しく響いていた。

「え?」
「ナタリア様?」
「どうして……?」

ナタリアとすれ違ったメイドたちは驚いたような声をあげた。邸宅にいるメイドたちも門番のカール同様に顔なじみになっていた。病気療養を理由にラウルと会えないことは知っていたのでメイドたちも心を痛めていた。

ナタリアはここに来る時は決まってメイドたちの好きそうなお菓子や果物を持ってきていた。メイドたちも自分たちに優しく気にかけてくれるナタリアに対して好感を抱いた。ナタリアがお土産を持ってきてくれるのが密かな楽しみだった。

それなのに今のナタリアは怒りにふるえて感情を昂ぶらせている風に見える。その時メイドも何かを感じ取った。

「そうだ!今はラウル王子は浮気相手を連れ込んでいるのよ」
「これから恐ろしい修羅場になるんだわ」
「ナタリア様がおかわいそう……」

メイドたちにとって恋愛感情のもつれは健全な娯楽のひとつであった。メイドたちは胸をわくわくさせて期待の目でナタリアの背中を追いかけた。中には気の毒そうに眉尻を下げるメイドもいたが、事の顛末てんまつを見届けておきたい気持ちが勝り無意識に後を追う形となった。
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