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第38話
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カタリーナは、まず最初に、王太后の首に首輪を静かにはめ込んだ。もう希望も抵抗も捨て去ったような目をしていた。カチリ、と硬質で冷たい音が空気を裂くように響き渡る。しかし、王太后の体に何かしらの抵抗の兆しは見られず、そのまま膝をついた姿勢でじっと動かず静まり返っていた。
続いて彼女は、すでに心を壊され、廃人のように虚ろな目をした王のもとへと歩み寄る。そして、同じく首輪を丁寧にはめた。王の場合は、自分が何をされているのかすら理解できないように、ただぼんやりと宙を見つめたまま、一切の反応を示さなかった。
「これで、すべてが終わった――そう思いたいでしょうね。でも違うの。これは、すべての始まりよ」
そう言って、カタリーナはゆっくりと微笑みを浮かべながら、玉座へと歩み寄り静かに腰を下ろした。もう彼女の瞳には、恐れも迷いもない。あるのはただ、すべてを見据えるような深い静けさと、決して揺るがぬ意志の炎だけだった。
「さあ、王。ちょっと、踊ってみなさいな」
まるで舞踏会の誘いのように優雅な口調で告げながらも、その言葉には冷たい命令の響きがあった。首に嵌められた黒曜石の首輪。その効果が本物かどうか確かめるときが来たのだ。
カタリーナの声が落ち着いているのは自信の現れ。もう立場は逆転している。これまで命じられる側だった彼女が、今や命じる者として王に命令を下す。その最初の一言だった。
すると次の瞬間、王の体が、ぎくしゃくと不自然に動き始めた。まるで意志とは無関係に、見えない糸で操られているかのように、手足が勝手に動き、空をかき分けるようにバラバラとちぐはぐに動いていく。その様子は、壊れかけたマリオネットそのものだった。
「この王も、過去に何度もその首輪を使って『悪事』を働いてきたのよ。それにしても、王や王太后という存在が、どうしてあんなにも偉そうに振る舞うのかしら。同じ人間なのに、権力を持った途端、自分がまるで神にでもなったかのような態度を取るなんて、まったく理解できないわ」
王の顔は、まるで自分を失ったかのように歪んでいた。絶望、屈辱、そして恐怖が一つとなって、彼の表情を不安定に崩し、理性を溶かし込むかのようにただ乱れていった。彼の体は自分の意志とは裏腹に動き、喉の奥で凍りついた声が震える指先にのみ、かろうじてその感情を語りかけていた。その瞳には、理解しがたい現実への困惑と、抗うことのできない力への恐怖が色濃く映し出されていた。
「私の母は、王の愛人だった。そして、王の気まぐれで弄ばれ、最終的には命を奪われることとなった。その無惨さ、そして無責任な扱いに、小さな私はどうすることもできなかった。王が人としての品位も何も持ち合わせていないことを、私は痛感したわ。あの時から、私は王への復讐だけを考えて生きてきた。そのために、私はアーロンに近づき、彼との関係を深めていった。ただ、気づいたときには、彼に対する気持ちが、本当に本気で好きだという感情へと変わっていたの。母の仇の息子だということを知っていても、彼に対して抱く感情を抑えることができなかった。心の中では、彼を憎むべきだと思いながらも、彼の優しさや真摯さに引き寄せられていった。自分の中で、母の復讐と彼への恋心が交わって、何が正しいのか、何が間違っているのかさえも分からなくなりそうだった」
カタリーナはアーロンから王の悪い噂を聞いていた。その時々で、王はその力を振りかざして、遊び半分で首輪を使って他の者を支配してきた。また王という権力で、彼が死刑を言い渡した数は、数えきれないほどだ。その中には、無実の者もいた。無実であるがゆえに、ただその運命に飲み込まれ、命を奪われた者たちがどれほど多かったことか。
王の権力の前では、真実が歪められ、無関係な者がその犠牲となっていたのだ。冤罪で命を落とした人々の悔しさや無念さを、彼がどれほど感じているかなんて想像すらできないだろう。そして、今やその支配の順番が自分に回ってきたに過ぎない。
「人は、結局自分が痛みを経験しない限り、他人の痛みを本当に理解することなんてできないわ。どんなに他人の苦しみに同情しても、それは所詮、自分の身に起こらない限り、どこか遠くの出来事としてしか感じられない。けれど、実際に自分がその痛みを味わって初めて、他人の辛さや苦しみが、心の奥底から本当に理解できるものだということに気づくのよ。痛みを知ることで、初めて他者への共感が深まるのよね」
大広間に集まっていた貴族たちは、誰ひとりとして声を上げることもできず、ただその信じがたい光景に目を奪われていた。空気が張りつめ、誰もが息を呑んだまま動けないでいる。中には恐怖と衝撃に耐えきれず、その場で崩れ落ちるように気を失ってしまった令嬢たちの姿もあった。
「ふふっ、まぁ、なにそれ? 踊ってるつもり? まるで風に吹かれるカカシじゃないの。そんなの“ダンス”とは呼ばないわ。ただの老体の運動じゃない?」
お母様、この男に一泡吹かせてあげたわ。心の中でつぶやいた。母の無念を晴らす一歩を踏み出したような気がして、彼女の中にずっと押し込めていた力が、ようやく解き放たれたのだと感じた。
続いて彼女は、すでに心を壊され、廃人のように虚ろな目をした王のもとへと歩み寄る。そして、同じく首輪を丁寧にはめた。王の場合は、自分が何をされているのかすら理解できないように、ただぼんやりと宙を見つめたまま、一切の反応を示さなかった。
「これで、すべてが終わった――そう思いたいでしょうね。でも違うの。これは、すべての始まりよ」
そう言って、カタリーナはゆっくりと微笑みを浮かべながら、玉座へと歩み寄り静かに腰を下ろした。もう彼女の瞳には、恐れも迷いもない。あるのはただ、すべてを見据えるような深い静けさと、決して揺るがぬ意志の炎だけだった。
「さあ、王。ちょっと、踊ってみなさいな」
まるで舞踏会の誘いのように優雅な口調で告げながらも、その言葉には冷たい命令の響きがあった。首に嵌められた黒曜石の首輪。その効果が本物かどうか確かめるときが来たのだ。
カタリーナの声が落ち着いているのは自信の現れ。もう立場は逆転している。これまで命じられる側だった彼女が、今や命じる者として王に命令を下す。その最初の一言だった。
すると次の瞬間、王の体が、ぎくしゃくと不自然に動き始めた。まるで意志とは無関係に、見えない糸で操られているかのように、手足が勝手に動き、空をかき分けるようにバラバラとちぐはぐに動いていく。その様子は、壊れかけたマリオネットそのものだった。
「この王も、過去に何度もその首輪を使って『悪事』を働いてきたのよ。それにしても、王や王太后という存在が、どうしてあんなにも偉そうに振る舞うのかしら。同じ人間なのに、権力を持った途端、自分がまるで神にでもなったかのような態度を取るなんて、まったく理解できないわ」
王の顔は、まるで自分を失ったかのように歪んでいた。絶望、屈辱、そして恐怖が一つとなって、彼の表情を不安定に崩し、理性を溶かし込むかのようにただ乱れていった。彼の体は自分の意志とは裏腹に動き、喉の奥で凍りついた声が震える指先にのみ、かろうじてその感情を語りかけていた。その瞳には、理解しがたい現実への困惑と、抗うことのできない力への恐怖が色濃く映し出されていた。
「私の母は、王の愛人だった。そして、王の気まぐれで弄ばれ、最終的には命を奪われることとなった。その無惨さ、そして無責任な扱いに、小さな私はどうすることもできなかった。王が人としての品位も何も持ち合わせていないことを、私は痛感したわ。あの時から、私は王への復讐だけを考えて生きてきた。そのために、私はアーロンに近づき、彼との関係を深めていった。ただ、気づいたときには、彼に対する気持ちが、本当に本気で好きだという感情へと変わっていたの。母の仇の息子だということを知っていても、彼に対して抱く感情を抑えることができなかった。心の中では、彼を憎むべきだと思いながらも、彼の優しさや真摯さに引き寄せられていった。自分の中で、母の復讐と彼への恋心が交わって、何が正しいのか、何が間違っているのかさえも分からなくなりそうだった」
カタリーナはアーロンから王の悪い噂を聞いていた。その時々で、王はその力を振りかざして、遊び半分で首輪を使って他の者を支配してきた。また王という権力で、彼が死刑を言い渡した数は、数えきれないほどだ。その中には、無実の者もいた。無実であるがゆえに、ただその運命に飲み込まれ、命を奪われた者たちがどれほど多かったことか。
王の権力の前では、真実が歪められ、無関係な者がその犠牲となっていたのだ。冤罪で命を落とした人々の悔しさや無念さを、彼がどれほど感じているかなんて想像すらできないだろう。そして、今やその支配の順番が自分に回ってきたに過ぎない。
「人は、結局自分が痛みを経験しない限り、他人の痛みを本当に理解することなんてできないわ。どんなに他人の苦しみに同情しても、それは所詮、自分の身に起こらない限り、どこか遠くの出来事としてしか感じられない。けれど、実際に自分がその痛みを味わって初めて、他人の辛さや苦しみが、心の奥底から本当に理解できるものだということに気づくのよ。痛みを知ることで、初めて他者への共感が深まるのよね」
大広間に集まっていた貴族たちは、誰ひとりとして声を上げることもできず、ただその信じがたい光景に目を奪われていた。空気が張りつめ、誰もが息を呑んだまま動けないでいる。中には恐怖と衝撃に耐えきれず、その場で崩れ落ちるように気を失ってしまった令嬢たちの姿もあった。
「ふふっ、まぁ、なにそれ? 踊ってるつもり? まるで風に吹かれるカカシじゃないの。そんなの“ダンス”とは呼ばないわ。ただの老体の運動じゃない?」
お母様、この男に一泡吹かせてあげたわ。心の中でつぶやいた。母の無念を晴らす一歩を踏み出したような気がして、彼女の中にずっと押し込めていた力が、ようやく解き放たれたのだと感じた。
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