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第43話
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「これで、もう過去のことに縛られることはないわ」
カタリーナは静かに口を開いた。その言葉は、ミリアに向けてかけたものであり、同時に自分自身に言い聞かせるような、強い決意を込めた呪文のようでもあった。過去の影に囚われていた自分たちを解き放つために、彼女はその一言を口にしたのだ。
「……ありがとう、カタリーナ」
ミリアは、ゆっくりと顔を上げ、その大きな瞳に涙を浮かべていた。驚きと戸惑いが入り混じった表情を浮かべながらも、そこにはほんの少しの感謝の気持ちも感じ取れる。そんな複雑な感情が、彼女の瞳の中で渦巻き、言葉を探すように静かな時間が流れた。
「ミリア……火傷が治ってよかった、本当によかった」
その隣で、エリザは安堵のため息を漏らしながら、ミリアの肩をそっと抱きしめた。エリザもまた涙をこぼしていた。彼女の涙は、心からの安心と、長い間抱えていた不安がようやく解けた証のように感じられた。
(ああ、そうか。私は、この光景をずっと見たかったのかもしれない。誰かを絶望の淵に突き落とすのではなく、誰かの涙を、悲しみや苦しみのそれではなく、喜びの涙に変えてみたかったのかもしれない。そんなふうに、心からの笑顔を見たかったのだと、今になって気づいた)
復讐の果てに手に入れた空っぽの玉座。その冷たい座席に座りながら、カタリーナは心の中で震えを感じていた。何もかもを失ったような虚しさが胸に広がり、空虚な感情に押し潰されそうだった。だが、その瞬間、温かい光が彼女の心に差し込んだような気がした。それは、希望のようでもあり、これから進むべき道を示してくれる光のようにも思えた。
◇
場所は、王宮の一室。数日前の大広間とは異なり、血と狂気に満ちた空気は今はどこにもない。大きな窓から、午後の柔らかな光が静かに差し込み、部屋の中を温かく包み込んでいる。空気は穏やかで、居心地の良さが漂っていた。
テーブルの上には、侍女が丁寧に用意してくれた温かなハーブティーが湯気を立てており、その香りが心地よく広がっている。
カタリーナの正面に、ミリアとエリザが静かに座っている。二人はまだ少し緊張している様子で、表情にそれが見て取れる。目を合わせることを避けるように、どこか落ち着かない様子を見せていたが、それでも必死に平静を保とうとしているのが感じられた。
「二人を、呼び出したのは他でもないわ。この国の未来について、語り合いたい」
カタリーナが真剣な表情でその言葉を口にすると、ミリアとエリザは驚いたように顔を上げ、瞬間的にその視線がカタリーナに集まった。二人の瞳の奥には、今までの緊張を超えて、真剣さと決意が光っているのがわかる。その空気が一変し、部屋の中に張り詰めた静けさが広がった。
「私たちが、この国をどうすべきか、決めなければならないの」
女王になった実感は、まだ全く湧いてこない。ただ、隷属の首輪で王と王太后を操り、彼らを自分の思い通りに動かしているテロリストなのだ。
しかし、このままでいても、何も変わらないことは分かっている。王と王太后と同じように半ば廃人になったアーロンが愛したこの国を、本当に救うためには、自分が何かを変えなければならない。目の前に広がる現実と戦って前に進むしかないのだ。
「まず、私利私欲に溺れる、悪い貴族を懲らしめるべきです。権力を私物化して、重い税金で国民を苦しめてきた連中には、厳罰を与える必要があります!」
エリザは、握りしめた拳をテーブルに力強く置き、その目をしっかりと前に向けた。彼女の顔には決意が浮かび、声を震わせずに、しっかりとした口調で言葉を紡いだ。その姿勢からは、国民を守りたいという強い意志が感じられた。
ミリアは、その言葉をじっと聞いた後、頷いて言う。
「その通りね。私たちが新しい秩序を作るには、腐った部分を、根本から取り除くことが、最も重要よ。中途半端な改革は、必ず、もっと大きな腐敗を生むわ」
冷静な分析をしているミリアを見て、ふたりは改めてその聡明さを感じた。彼女は、どんな状況でも冷静に物事を見極め、最善の選択をすることができる。それを感じ取った二人は顔を合わせて頷いた。
「わかったわ。なら、やりましょう。徹底的に!」
「私たちの目指すべき国は、権力者たちだけが、甘い汁を吸う国じゃない!」
「ええ。私たちが目指すべきは、国民一人一人が、ささやかでも、幸せに暮らせる国。明日の食事の心配をしなくていい。理不尽な税に、苦しまなくていい。そんな、当たり前の毎日が、保障される国よ」
カタリーナとエリザは、ミリアの言葉をしっかりと受け止め、その言葉に込められた深い意味を理解した。二人の声には、迷いなく強い意志が感じられ、その言葉が持つ重みが部屋の空気を一層引き締めた。彼女たちは、これから向かうべき道を共有し、心の中で決意を新たにしているのが感じ取れた。
カタリーナは静かに口を開いた。その言葉は、ミリアに向けてかけたものであり、同時に自分自身に言い聞かせるような、強い決意を込めた呪文のようでもあった。過去の影に囚われていた自分たちを解き放つために、彼女はその一言を口にしたのだ。
「……ありがとう、カタリーナ」
ミリアは、ゆっくりと顔を上げ、その大きな瞳に涙を浮かべていた。驚きと戸惑いが入り混じった表情を浮かべながらも、そこにはほんの少しの感謝の気持ちも感じ取れる。そんな複雑な感情が、彼女の瞳の中で渦巻き、言葉を探すように静かな時間が流れた。
「ミリア……火傷が治ってよかった、本当によかった」
その隣で、エリザは安堵のため息を漏らしながら、ミリアの肩をそっと抱きしめた。エリザもまた涙をこぼしていた。彼女の涙は、心からの安心と、長い間抱えていた不安がようやく解けた証のように感じられた。
(ああ、そうか。私は、この光景をずっと見たかったのかもしれない。誰かを絶望の淵に突き落とすのではなく、誰かの涙を、悲しみや苦しみのそれではなく、喜びの涙に変えてみたかったのかもしれない。そんなふうに、心からの笑顔を見たかったのだと、今になって気づいた)
復讐の果てに手に入れた空っぽの玉座。その冷たい座席に座りながら、カタリーナは心の中で震えを感じていた。何もかもを失ったような虚しさが胸に広がり、空虚な感情に押し潰されそうだった。だが、その瞬間、温かい光が彼女の心に差し込んだような気がした。それは、希望のようでもあり、これから進むべき道を示してくれる光のようにも思えた。
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場所は、王宮の一室。数日前の大広間とは異なり、血と狂気に満ちた空気は今はどこにもない。大きな窓から、午後の柔らかな光が静かに差し込み、部屋の中を温かく包み込んでいる。空気は穏やかで、居心地の良さが漂っていた。
テーブルの上には、侍女が丁寧に用意してくれた温かなハーブティーが湯気を立てており、その香りが心地よく広がっている。
カタリーナの正面に、ミリアとエリザが静かに座っている。二人はまだ少し緊張している様子で、表情にそれが見て取れる。目を合わせることを避けるように、どこか落ち着かない様子を見せていたが、それでも必死に平静を保とうとしているのが感じられた。
「二人を、呼び出したのは他でもないわ。この国の未来について、語り合いたい」
カタリーナが真剣な表情でその言葉を口にすると、ミリアとエリザは驚いたように顔を上げ、瞬間的にその視線がカタリーナに集まった。二人の瞳の奥には、今までの緊張を超えて、真剣さと決意が光っているのがわかる。その空気が一変し、部屋の中に張り詰めた静けさが広がった。
「私たちが、この国をどうすべきか、決めなければならないの」
女王になった実感は、まだ全く湧いてこない。ただ、隷属の首輪で王と王太后を操り、彼らを自分の思い通りに動かしているテロリストなのだ。
しかし、このままでいても、何も変わらないことは分かっている。王と王太后と同じように半ば廃人になったアーロンが愛したこの国を、本当に救うためには、自分が何かを変えなければならない。目の前に広がる現実と戦って前に進むしかないのだ。
「まず、私利私欲に溺れる、悪い貴族を懲らしめるべきです。権力を私物化して、重い税金で国民を苦しめてきた連中には、厳罰を与える必要があります!」
エリザは、握りしめた拳をテーブルに力強く置き、その目をしっかりと前に向けた。彼女の顔には決意が浮かび、声を震わせずに、しっかりとした口調で言葉を紡いだ。その姿勢からは、国民を守りたいという強い意志が感じられた。
ミリアは、その言葉をじっと聞いた後、頷いて言う。
「その通りね。私たちが新しい秩序を作るには、腐った部分を、根本から取り除くことが、最も重要よ。中途半端な改革は、必ず、もっと大きな腐敗を生むわ」
冷静な分析をしているミリアを見て、ふたりは改めてその聡明さを感じた。彼女は、どんな状況でも冷静に物事を見極め、最善の選択をすることができる。それを感じ取った二人は顔を合わせて頷いた。
「わかったわ。なら、やりましょう。徹底的に!」
「私たちの目指すべき国は、権力者たちだけが、甘い汁を吸う国じゃない!」
「ええ。私たちが目指すべきは、国民一人一人が、ささやかでも、幸せに暮らせる国。明日の食事の心配をしなくていい。理不尽な税に、苦しまなくていい。そんな、当たり前の毎日が、保障される国よ」
カタリーナとエリザは、ミリアの言葉をしっかりと受け止め、その言葉に込められた深い意味を理解した。二人の声には、迷いなく強い意志が感じられ、その言葉が持つ重みが部屋の空気を一層引き締めた。彼女たちは、これから向かうべき道を共有し、心の中で決意を新たにしているのが感じ取れた。
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