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第46話
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ミリアたちの王国の改革は順風満帆に見えた。だが、彼女たちの光が強くなればなるほど、その裏で生まれる影は、より濃く深く息を潜めて広がっていく。そして今――その影が、ついに動き出した。
改革を快く思わない者たち。古くからこの国に巣くい、代々の政を我がもの顔で操ってきた老獪な政敵たち。彼らが、国民たちから吸い上げる税金を減らすことを黙って見過ごすはずもなかった。
「カタリーナ、不穏な噂が、流れています」
ある日の午後、ミリアとエリザがその顔を真剣に引き締めて部屋に入ってきた。普段の彼女たちなら、どこか余裕を感じさせる笑顔を浮かべているはずなのに、その日は一切の余裕を感じさせない深刻な雰囲気をまとっていた。
「新しい女王は、国民の人気取りのためだけに税金を減らそうとしていると……」
「……そんなわけないじゃない! 現在、国民は重い税負担に苦しんで、生活が立ち行かない状況だというのに……私たちの政治の理想は一つ、国民が安定した生活を送り、笑顔で満ちた国を作ることだ!」
ミリアの言葉を聞いたカタリーナは、心の中で「ふざけるな」と強く思った。彼女は心から国民の生活を良くしたいと考えていたからだ。それなのに、税金を私腹を肥やすために使う連中の言い分には、ただただ呆れるばかりだった。
彼らが言うことには、全く共感できなかった。税金を減らせば、彼らは自分たちが贅沢をできなくなるから、必死になって反対するのだろう。しかし、カタリーナは国民が少しでも楽に生きられるようにと心から願っている。そんな彼女の思いを、これほどまでに踏みにじられることにミリアとエリザも深い憤りを感じた。
「それだけではありません。税金を減らそうとするカタリーナを討ち、王国を正常な姿に戻すべしと。増税派が反乱を、扇動していますわ」
エリザは、顔色を青ざめさせながら言った。
「やっぱり、来たわね」
カタリーナの声には、深い悲しみと恐怖が滲んでいた。彼女が最も恐れていた事態。それが今、現実になろうとしていた。内乱、国が二つに分かれ争いが始まる――その予感が、ついに現実のものとなったのだ。その事実に、ミリアとエリザの心は震え、未来への不安が胸を締め付けた。
「彼らは、私を恐れているのね」
カタリーナが静かに呟くと、二人は無言で頷いた。その瞬間、部屋に重い沈黙が落ちた。彼女の言葉が放たれると、空気が一変したかのように、誰もがその意味を深く感じ取った。
目の前に立ちはだかる敵は、あまりにも巨大だ。長年にわたり王国を支配してきたその勢力は、王よりもはるかに強大な権力と影響力を持っている。真っ向から戦えば、勝つことができるとは到底思えなかった。
そして、心の奥で次第に広がる恐怖。その恐怖はじわじわと、足元から這い上がってきた。もし、この戦いを選べば、待っているのはただの破滅ではないか? そう感じてしまうほど、事態は絶望的に見えた。
「カタリーナ、一人で、抱え込まないで!」
「私たちは、仲間でしょう? 何があっても、あなたの側にいます!」
カタリーナが一人で心の中で葛藤していると、突然、ミリアの声が響いた。その言葉に、カタリーナは思わず顔を上げると、エリザも続けて声をかけた。そして、二人はカタリーナの両側に、静かに寄り添うように立っていた。その瞬間、カタリーナは、心の中で何かが弾けるのを感じた。
そうだ、私はもう一人じゃない。その思いが、彼女の中に温かく広がった。
「……ありがとう」
その一言が口からこぼれると涙が溢れた。今までの悲しみや悔しさとは違う温かい感謝の涙。カタリーナは二人の手を、力強く握り返した。その手のひらから伝わる温もりが、彼女にとってどれほどの力になるか言葉では表せなかった。
そして、ふと気づく。彼女の瞳には、再び力が戻ってきていた。恐怖はまだ消えていないが、それを乗り越える覚悟が、彼女の中でしっかりと固まったのだった。
改革を快く思わない者たち。古くからこの国に巣くい、代々の政を我がもの顔で操ってきた老獪な政敵たち。彼らが、国民たちから吸い上げる税金を減らすことを黙って見過ごすはずもなかった。
「カタリーナ、不穏な噂が、流れています」
ある日の午後、ミリアとエリザがその顔を真剣に引き締めて部屋に入ってきた。普段の彼女たちなら、どこか余裕を感じさせる笑顔を浮かべているはずなのに、その日は一切の余裕を感じさせない深刻な雰囲気をまとっていた。
「新しい女王は、国民の人気取りのためだけに税金を減らそうとしていると……」
「……そんなわけないじゃない! 現在、国民は重い税負担に苦しんで、生活が立ち行かない状況だというのに……私たちの政治の理想は一つ、国民が安定した生活を送り、笑顔で満ちた国を作ることだ!」
ミリアの言葉を聞いたカタリーナは、心の中で「ふざけるな」と強く思った。彼女は心から国民の生活を良くしたいと考えていたからだ。それなのに、税金を私腹を肥やすために使う連中の言い分には、ただただ呆れるばかりだった。
彼らが言うことには、全く共感できなかった。税金を減らせば、彼らは自分たちが贅沢をできなくなるから、必死になって反対するのだろう。しかし、カタリーナは国民が少しでも楽に生きられるようにと心から願っている。そんな彼女の思いを、これほどまでに踏みにじられることにミリアとエリザも深い憤りを感じた。
「それだけではありません。税金を減らそうとするカタリーナを討ち、王国を正常な姿に戻すべしと。増税派が反乱を、扇動していますわ」
エリザは、顔色を青ざめさせながら言った。
「やっぱり、来たわね」
カタリーナの声には、深い悲しみと恐怖が滲んでいた。彼女が最も恐れていた事態。それが今、現実になろうとしていた。内乱、国が二つに分かれ争いが始まる――その予感が、ついに現実のものとなったのだ。その事実に、ミリアとエリザの心は震え、未来への不安が胸を締め付けた。
「彼らは、私を恐れているのね」
カタリーナが静かに呟くと、二人は無言で頷いた。その瞬間、部屋に重い沈黙が落ちた。彼女の言葉が放たれると、空気が一変したかのように、誰もがその意味を深く感じ取った。
目の前に立ちはだかる敵は、あまりにも巨大だ。長年にわたり王国を支配してきたその勢力は、王よりもはるかに強大な権力と影響力を持っている。真っ向から戦えば、勝つことができるとは到底思えなかった。
そして、心の奥で次第に広がる恐怖。その恐怖はじわじわと、足元から這い上がってきた。もし、この戦いを選べば、待っているのはただの破滅ではないか? そう感じてしまうほど、事態は絶望的に見えた。
「カタリーナ、一人で、抱え込まないで!」
「私たちは、仲間でしょう? 何があっても、あなたの側にいます!」
カタリーナが一人で心の中で葛藤していると、突然、ミリアの声が響いた。その言葉に、カタリーナは思わず顔を上げると、エリザも続けて声をかけた。そして、二人はカタリーナの両側に、静かに寄り添うように立っていた。その瞬間、カタリーナは、心の中で何かが弾けるのを感じた。
そうだ、私はもう一人じゃない。その思いが、彼女の中に温かく広がった。
「……ありがとう」
その一言が口からこぼれると涙が溢れた。今までの悲しみや悔しさとは違う温かい感謝の涙。カタリーナは二人の手を、力強く握り返した。その手のひらから伝わる温もりが、彼女にとってどれほどの力になるか言葉では表せなかった。
そして、ふと気づく。彼女の瞳には、再び力が戻ってきていた。恐怖はまだ消えていないが、それを乗り越える覚悟が、彼女の中でしっかりと固まったのだった。
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