聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

第20話

「ああ何ということだ……」

その瞬間アレッサンドロは肩を震わせて言いようのない悔しさがこみ上げる。どうしようもないという疲れた顔になって、両手で頭を抱えて独り言のように小さな声でつぶやきを落とす。

「お父様、辛くて悲しいことですが現実を受け入れてくださいませ」
「そうだな……取り乱してしまって悪かった」

精神的にかなりのショックを受けているアレッサンドロにフローラは優しく諭すような口調で言う。父の心労をわずかでも和らげたいという感じで心配そうな顔をしている。

アレッサンドロは情けない姿を見せてしまって恥じるように詫びさえした。自分も不安な気持ちを払拭できていないが、それ以上に二人の娘を不安な気持ちにさせたくなかった。

「私も最初フローラお姉様に聞いた時はお父様と同じ気持ちで信じられなかったし、大好きなアメリアお姉様が婚約中のクロフォード殿下を裏切ることをするなんて信じたくありませんでした」

エリザベスは傷ついたような複雑な表情になった。フローラに話を聞かされた時は本気で言ってるのかと疑って、アメリアお姉様がそんな事するはずがないと美しい顔は崩れ人相が変わるくらい怒って厳しく言い返した。だが口元を引き締めたフローラの深刻な表情を見て、エリザベスは何かただならぬ気配を感じて表情を曇らせた。

フローラは落ち着いた声で筋道を立てて説明した。フローラは心の持ちようが正しく立派で迷いのない態度をとった。その堂々とした気品のある姿で繰り出される言葉には本気の覚悟が感じられ、エリザベスは胸に響いて感動すら覚えた。そしてフローラのことを常人より一回り大きな人格だと思って心から尊敬した。

「二人でアメリアに浮気を辞めるよう何度も説得しました。だけどアメリアの体と心はすっかり浮気相手に夢中なっていて私とエリザベスの言うことを聞かなかった」

フローラは哀れっぽく涙ぐんだ目をして言い出す。アメリアは男好きで浮気性で遊ぶことしか頭の中にはなかった。既婚者を含む複数の男と浮気を繰り返すだらしない生活を送り続けるアメリアに、フローラとエリザベスは数知れないほどアメリアを注意して一生懸命言い聞かせた。

アメリアが節操のない女性だと婚約者のクロフォード殿下が知ったらどんなに悲しむか知れない。そのことを肝きもに銘めいじておきなさいとフローラはアメリアに説教した。

フローラとエリザベスは事前の打ち合わせ通りに口上を述べた。小芝居をしてアメリアの浮気が事実であるかのように言う。フローラとエリザベスはアメリアを罠にかけて悪人に仕立てようとした。

「わかった。クロフォード殿下からの手紙もあるし二人のことを信用するよ」

演技しているとは想像だにしないアレッサンドロはフローラとエリザベスの言葉を信じる気になっていた。雄弁に事実を物語っているように感じられて心が動いた。クロフォードからの手紙を見せていないのに、フローラとエリザベスは手紙に書かれた具体的な内容についても知っていた。

クロフォードとフローラとエリザベスが一緒になって悪事をたくらんでいる事など予想だにしないので、アレッサンドロは疑いを持たずに正しいと思い込んでしまった。アレッサンドロは胸が切なく苦しくなりながら、悲しくて寂しそうな微笑みを浮かべて言葉を口にした。