余命一年の彼が婚約破棄して妹を選んだ理由。すれ違う幼馴染の溺愛と姉妹の切ない想い

佐藤 美奈

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21話 母と叔母の罪の意識

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リアムの劇場監督のような巧妙な演出によって、公爵家と伯爵家で繰り広げられていた夫婦間の騒動は、表面的には嵐の後の静けさのように静かに幕を閉じた。しかし、ソフィアとマリアの心には、割り切れない様々な感情が幾重にも重なる布地のように、複雑に絡み合い重くのしかかっていた。

姉妹の母であるオリビアは、夫ダニエルの不貞を知って激しい怒りを露わにしたものの、その心に重い石が置かれたような感覚に襲われていた。

(あんなに激しく、ダニエルを責めたてたけれど……)

オリビアは、一人になった自室にいた。部屋の静けさが、彼女の心の空虚さを一層際立たせた。抱えていた感情の重みに耐えかね、彼女は深く魂が抜け落ちるような長いため息を漏らした。それは、誰にも届かない孤独な叫びのようだった。

(私自身も、ダニエルに隠し事をして、リアム様の御子を身ごもっているというのに…ダニエルは、何も知らない。もし、この事実を知ったら、どう思うだろうか……)

オリビアの心には夫への怒りと同時に、拭いきれない罪悪感が静かに広がっていた。


叔母のクララも夫ジャックへの怒りが収まらない一方で、リアムへの思いが胸に引っかかっていた。

(ジャックの浮気は許せない。けれど…私もジャックを裏切っている…あの時、リアム様の誘いを断っていれば…こんな苦しい思いをせずに済んだのに……)

クララは、窓の外の夕焼け空を見つめながら、自己非難の念に駆られていた。乾いた唇から漏れるのは誰に届くでもない心の独り言。それは彼女の中で渦巻く後悔の念の断片だった。あの時、一歩でも踏みとどまっていれば。そんなもしもの言葉たちが、彼女の頭の中で無限に繰り返され現実の重さを増していく。

「私も、ジャックに秘密を抱え、リアム様の子供を宿している身…ジャックは、私の異変に気づいているのだろうか? もし、真実を知ったら、彼はどれほど深く傷つくことだろう……リアム様は、まるで全てを見透かしているかのような……」

クララの心は、怒りと罪悪感と不安で複雑に彩られていた。この苦しみから、いつになったら解放されるのだろうか。クララは、この状況から抜け出して心が軽くなりたかった。


ソフィアとマリアは、複雑な思いで見つめて話し合っていた。

「お母様も、クララ叔母様も…苦しんでいると思うわ」
「お姉様、あの男は、一体何を考えているの? 本当にただの親切心から、お父様たちを庇ったの? それとも、何か裏の意図があるの?」

ソフィアは、二人の隠された苦悩を察し胸が痛んだ。しかし、それでもリアムへの不信感は拭えなかった。マリアは、姉の言葉に静かに同意して言った。

リアムの介入によって、表面的には静けさが戻った公爵家と伯爵家だったが、それぞれの心の奥底には複雑な感情が深く根を下ろし、新たな緊張を生み出そうとしていた。
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