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第7話

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「ジャックがもう家に来たら駄目だって…」
「なんだって!お前はなんてことを言うんだ!エリザベスの気持ちを考えろ!」
「エリザベスに謝りなさい!」

エリザベスは芝居がかった仕草をしながら弱々しい声で話をするが心の中で舌を出していた。

興奮のために体が熱くなるほど腹が立った父親は右手を振り上げて力に任せてジャックを殴ってしまう。両親から怒鳴られて緊張して身動きができなかったジャックは避けることもできず頬に激痛が走った次の瞬間には気がつくと床で頭を打って仰向けに倒れている有り様。

「そんな人間味のない息子に育てた覚えはない!エリザベスの家は我が家の苦しい状況から救ってくれた命の恩人だぞ!この恩知らずが!」
「昔から仲良くしていた幼馴染のエリザベスのことが可哀想だとは思わないの!エリザベスに尽くすことは家の使命なのよ!恥さらしな息子を持って心底悲しくてたまらないわ!」

頭をぶつけて倒れてまだ視界がかすみ意識がはっきりしないジャックにも両親は攻撃の手をゆるめない。失望と怒りを混ぜた声で自分達の子供を情け容赦なくひどくののしり散々けなす。

手加減することなく全力で気迫を込めて殴ったので父親の拳はしびれて明らかに腫れて赤くなり炎症を起こしているが、怒りと興奮のあまり直ぐに痛みを感じ取ることができていない状態で息を整えるように荒い呼吸していた。その間も尖った瞳で息子を睨む。

「お父様やめてください!ジャックをぶたないで!ジャックは少し頭がおかしくなってるだけだと思うの…」
「エリザベスがそう言うなら…」
「本当にエリザベスは天使のように可愛くて優しい子だね」

ジャックの両親がこれほどまでにエリザベスに異常すぎる愛情を注いで強く言えない理由は経済的なことがかなりの部分を占める。エリザベスの家は男爵家で貴族の爵位の中では低いが先祖代々受け継がれてきた商売の才能を持ち巨額の富を築いてきた。

残念ながらエリザベスには優れた経営手腕の才能が芽を吹き開花することはなかったが、幸いなことにエリザベスには兄がいてその商才の能力は非の打ち所がないほど兄が継承している。

比べてジャックの家は伯爵家で貴族の爵位では中ぐらいですが、借金地獄で食べていけないくらいの大変ひもじい生活を強制され苦しんでいて伯爵家とは名ばかりの貧乏貴族でした。

本来であれば裕福な伯爵家がお金の問題で胃が痛くなるほど悩むことはあり得ないことです。ジャックの家系は誰もが認める純粋な心をもった善人でしたがその性格に付け込まれる。

「お願いだ…もうあなたしか頼れる人がいない」
「分かったから頭を上げてくれ」
「ありがたい…感謝いたします…恩に着るよ」

一族の中でも輪をかけて間抜けがつくほどお人よしのジャックの祖父は知り合いの商人から連帯保証人をお願いされすがるような顔で泣き出され切実な声で頼み込まれる。心優しい祖父は困っている人を見捨てられず同情せずにいられなかった。結果は相手の思う壺になり祖父は保証人に同意してしまう。

ところがその商人は借金を祖父に押し付けて背中を丸めて夜逃げした。その借金は一生かかっても返しきれないほどのとてつもない金額で生活が成り立たなくなり、日々廃人のような顔で頭を悩ませることになる。希望がない人生に祖父は自ら命を絶とうとまで考えが至っていた。

そんな時に助けたのが祖父の代以前から身内同士みたいな深い交流をしているエリザベスの家。借金によって首が回らない絶体絶命の状態のジャックの家に救いの手を差し伸べて何年も前から現在も金銭的援助を与え続けているのです。
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