上 下
10 / 10

第10話

しおりを挟む
唇を強く結び顔が緊張で強張って身構えるジェシカにノアはその場に崩れるように座ると救いを求めるような弱々しい声で未練を込めて語り始める。

「僕ともう一度付き合ってやり直してください」
「え……?」

予想外の行動に拍子抜けして身体中の力が抜けていった。この期に及んでどうして平然と復縁を迫り泣きついてこれるのが逆立ちしても彼の気持ちを理解できない。

次に付き合う恋人にはこんなふうにドン引きするようなみっともないやり方を身につけてほしくないと心に浮かんだ。

ジェシカはこみ上げてきた怒りも僅かに残っていた好きだった気持ちも潮が引くように消えていく。

昔に告白された時は心臓が跳ね上がるほど嬉しくて自分の全てを差し出したいくらい愛していた。彼が隣にいるだけで胸がキュンとしてじっとしていられなかったのに。

「もう別れたでしょ。見苦しいことしないで」
「ジェシカも僕に冷たくするんだ」
「まさかクロエにも同じことしてるの?」
「仕方ないだろ…」
「私は話す気もないから」
「やっぱり相手が姉妹だったから普通の浮気よりまずかったかなって反省はしてる」

切れていた縁を再び繋がろうとしゃがみ込んで悲願するノアにジェシカは哀れむような視線を投げる。彼女を捨てたしっぺ返しにあい当然の報いを受ける彼の末路だった。

だが一度でも好きになり愛し合い一緒の時間過ごした恋人がこんなに惨めな姿になってるのが苦しくてたまらなく胸の中が悲しみに溢れ自然と両目から涙が流れる。

ノアは心を入れ替えて純粋な気持ちで告白してくれてるかもしれない。一瞬だけ許そうと思ったが彼にだけは情けをかけるなと両親と妹クロエからも口をすっぱくして言われたのを思い出し黙って立ち去る。

「クロエ」
「お姉様どうなさいました?」
「ノアのこと許そうかなって…」
「何を言っているのですか!気が触れましたか?」

ジェシカは土下座をして泣いてすがりつくノアの子犬のような顔が回想され良心の呵責を感じていた。それで妹に相談をしてみたところ全力で止められる。

「お姉様彼に対して同情的な気持ちは捨てたほうがよろしいかと思います」
「そうね…クロエの言う通りだわ。ちょっとどうかしてた」

普段は頼りないところがあり子供のように甘えるのが得意の優しい柔らかな声の妹ですが、この時はズバリと鋭く言ってくれて可哀想という感情だけで物事を判断してはいけないことを教えられた。

「はぁ…」

数日後、ノアは早々に彼女を作り一緒に下校するのを見かけたジェシカは寂しさを味わい魂を吸い取られたような気分で深いため息をつく。

**********

新作『妹の婚約者が子供の時に好きだった人で誘惑すると、彼は妹に婚約破棄を告げた』の連載を始めました。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...