妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈

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第24話

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「そんなもの、いらない! あなたは、ママをいじめる悪い人だ! あなたなんて、大嫌いだ!」

クロエは、ブラッドが差し出した人形を、小さな手で力いっぱい払い落とした。その高価な人形は床に落ち、乾いた音を立てて静かな部屋に響いた。

その音に反応するように、クロエはセリーヌのドレスの裾をしっかりと握りしめ、堪えていた涙が一気に溢れ出した。彼女はそのまま、わっと泣き出してしまい、涙と共に深い悲しみと怒りが彼女の顔に現れていた。

ブラッドは、その場に立ち尽くしていた。娘からの、あまりにも純粋で、あまりにも手厳しい拒絶。彼の青い瞳が、絶望の色に染まっていく。セリーヌはその様子を静かに見守りながら、ただその空気の重さを感じていた。

「なぜだ、クロエ! って……ずっとパパって呼んでくれてたじゃないか!」

その瞬間、ブラッドは耐えきれず、声を荒げて騒ぎ始めた。目の前にいるクロエを強引に触ろうとし、必死に手を伸ばす。

「放せ! 貴様ら、何をする! 俺は王子だぞ、貴様たちが手を出すなど許されん! 父親が娘と絆を深めることに、何の問題があるというのだ!」

怒りと焦燥が入り混じった声が広間に響き渡った。しかし、その暴走を許すことはできなかった。周囲にいた護衛騎士たちは一斉に駆け寄り、ブラッドを取り押さえて動きを封じ込めた。

事前にブラッドには『冷静でいること、暴れないこと』が話し合いのだと伝えていた。だが、その約束を無視し、彼は我を失ってしまった。それを見た護衛騎士たちは彼を引き離し、話し合いの場を守ろうと動いたのだ。



娘に拒絶され、しょんぼりとした気持ちで王城に戻ったブラッドを待っていたのは、息を呑むような重苦しさが漂う謁見の間だった。

父である国王、母である王妃の視線は、まるで氷のように冷たく、無言で圧し掛かる圧力を感じさせた。その冷徹な視線が、心の中に広がる失望感を一層深め、胸を締め付けるように圧迫した。ブラッドは思わず肩をすくめ、体全体がこわばった。

「……それで? 首尾はどうだった、セリーヌ嬢に許してもらえたのか?」

玉座に座る国王が、重々しく口を開いた。その声には、息子への期待や思いやりの欠片も感じられなかった。疲れきった息子の姿を見れば、その結果がどうであったかは一目瞭然だった。

「父上、母上……」

ブラッドは、重い足取りで両親の前に跪き、力なくその口を開いた。どこか頼りない姿勢で答えを口にする彼の声には、すでに諦めの色が濃く滲んでいた。

「本当に、愚かで情けない息子ね」

吐き捨てるように言ったのは王妃だった。扇で口元を隠しつつも、その瞳には深い失望と軽蔑が浮かび、ブラッドを見つめる視線は冷徹で鋭さを帯びていた。彼女の中に込められた感情は、息子に対する容赦ない評価を明確に伝えていた。

「息子よ。国が崩壊の危機になり、ようやく妻の大切さがわかったというわけか?」

「……はい……」

ブラッドは、かすかな声で震えながら頷いた。

「あまりにも遅すぎるわ。いいえ、あなたは何もわかってなどいない。セリーヌがどれほどの思いで、あの城を出て行ったのか。あなたが、どれほど彼女の心をずたずたにしたのか!」

「ううっ……ぐすっ…ぐすぐす…どうして、こんなことに……」

「泣いてどうなるというのですか!」

ブラッドは感情を抑えきれず、ついに涙をこぼした。その瞬間、王妃の声は冷徹な怒りと深い失望を帯びて響いた。彼女の言葉は鋭く無慈悲に響き、息子の心をさらに深くえぐるようだった。涙を流すことで何も変わらないことを、彼女はよく知っていた。

「そうだぞ。お前がエミリー嬢にうつつを抜かし、分別もなく振られたという噂は、とっくに我々の耳にも届いている。国の恥だ! 王家の恥さらしめ!」

その姿を見た国王は、怒りをこらえきれず、険しい表情で口を開いた。息子の態度に対する落胆と怒りが、言葉となって溢れ出すのが感じられた。

「俺は、こんなにも……セリーヌとクロエを大切に思っているのに……ひっく、ひっく……」

心の中では、言葉にできないほどの後悔と痛みが胸を締め付け、涙が次々と頬を伝っていった。その涙とともに、今さら遅いと思いながらも、妻と娘への深い思いが溢れ出す。震える声で、これまでの過ちを悔い、二度と戻れないことを痛感しながら、何度も繰り返し妻子の名前を口にしていた。
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