妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈

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第26話

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セリーヌが去った後の国は、まるで陽の光を失った植物のように、急速に枯れていった。彼女と共に去っていったのは、愛らしいクロエだけではなかった。彼女の実家であるアルビオン公国からの、莫大な経済支援という生命線も、ぷつりと絶たれたのだ。

ブラッドは、今一度その重要性を認識した。自分の国が、いかに薄氷の上で成り立っていたのか。これまで当たり前のように享受していた豊かさが、すべてセリーヌという存在を介した借り物の輝きであったこと。

市場からは活気が消え、パンの価格が高騰した。貴族たちは、沈みゆく船から逃げ出すねずみのように、我先にと国外へ財産を移し始めた。

ブラッドは必死だった。新たな交易路を求め、隣国に頭を下げ、国内の有力貴族たちや豪商を説得して回った。けれど、彼の言葉は貴族たちに響かなかった。それどころか、今では悪態をつかれる始末だ。

「お前のせいで、国が崩壊しそうなんだぞ! 愚か者の王子が!」

「幼馴染に心を奪われ、セリーヌ姫の信頼を裏切ったから、すべてを失ったのだ!」

「エミリーとかいう令嬢との恋に溺れて、姫殿下を裏切った間抜け!」

「あんたのせいで国が滅びそうなのよ! 自分の欲望のせいで、セリーヌ様に愛想尽かされて……このクズ王子!」

「幼馴染に夢中になりすぎて、セリーヌ姫を裏切ったお前が、この国を壊した!」

「王子殿下、姫殿下に見捨てられた結果がこれだ! どうするつもりだ!」

ブラッドには、周囲からの非難の声がますます大きくなるばかり。誰もが彼を愚か者と呼んで嘲笑する。ブラッドは、すっかり弱りきっていた。目の前に広がる破滅的な現実に、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。

「どうして、わかってくれないのだ!」

王宮の執務室で、ブラッドは地図が広げられたテーブルを拳で叩いた。声は、空しく響くだけだった。

「すべては、お前の身から出た錆だ」

冷たく言い放ったのは、父である国王だった。その姿は、以前よりもずっと小さく老いて見えた。母である王妃は、ただ黙って窓の外を眺めている。その背中が、静かに息子を責めていた。家族の会話は、もうずっと前からなくなっていた。冷え切った沈黙だけが、豪華な装飾の施された部屋を満たしている。

「セリーヌ! どうして沈黙を貫くんだ! 俺の心がこんなにも震えているのに、なぜ一度も返事をくれない! 君がいなければ、俺は……いや、この国は、駄目になってしまう」

後悔と焦りが、ブラッドの心を激しく焼き尽くしていった。あの時の選択を悔やみ、何度も何度も手紙を書いた。しかし、セリーヌからの返事は一度も届くことはなかった。

そんな中で迎えた運命の日。あまりにも突然、そしてあっけなく訪れたのだ。

「民を守るため、決断をしなければならない」

「父上……」

「それが、王としての責務だ。国は民の力によって成り立っている。その民たちの生活を苦しめるようなら、王として国を治める資格はない。ブラッド、そのことを常に心に留めておけ」

「……はい……決して忘れません!」

ついに正式に属国としての地位を受け入れることとなった。国民の生活を守り、安定させるためには、これ以上の選択肢はなかった。

ブラッドは、父王と共に深い屈辱を感じながら、重い手で文書に署名をした。その瞬間、王国の運命は決まった。この日、王国はその命脈を断たれたのだ。

(これが俺の罰か……だが何も問題はない。俺がセリーヌとの関係を修復すれば、我が国は自由を取り戻すことができる)

ブラッドの名は、後に“国を滅ぼした王子”として歴史に刻まれることとなった。インクが徐々に乾いていくのを無言で見つめながら、彼はぼんやりと、これが『すべて自分の妻を軽んじてきたことへの罰』だと感じていた。

しかし、彼は復縁の道を諦めていなかった。どんなに困難であっても、セリーヌとの関係を取り戻すことが、国を救う唯一の方法だと信じていた。
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