幼馴染の勇者パーティーから「無能で役立たず」と言われて追放された女性は特別な能力を持っている世界最強。

佐藤 美奈

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第30話 幼馴染の勇者パーティー視点9

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「アルス様、助けてください!」
「え……?」

アルスは呆気にとられたような表情を見せた。話しかけた女性が突然助けてくれと言い、手を握ってきたのだ。見た目はいかにも良家のお嬢様という雰囲気で、かわいらしい顔立ちである。

「困っていることがあって……」
「力になりますから僕に聞かせてください!」
「ありがとうございます。実は……」

女性は今にも泣きそうな顔になって困り果てていると話す。アルスは女性の悩んでいることを解決したら、と思って真剣な眼差しで見つめながら言った。女性はアルスのよこしまな欲望には、まったく気づいていない様子です。

女性の名前はローラで貴族の令嬢だと言う。何不自由のない生活をしている令嬢が何を困っているのか?自分のことではなくて、親交を深めている商家が頭を抱えていると話した。手広く商売を営んでいて、馬車で頻繁ひんぱんに別の街に行き来し順調に利益を上げていた。だがその業務に重大な支障が発生する。

「ゴブリン?」

アルスはどこか拍子抜けしたような気分になった。何故なら自分たちは顕著けんちょな功績を挙げて、国王陛下に選ばれし勇者である。ゴブリンなんていう低レベル向けの魔物なんて取るに足らない相手なのです。それでも街の中で平和に暮らす戦う術を知らない一般の人には、ゴブリンでも非常に深刻な脅威きょういとなっている。

「馬車の通り道の近くに大きなゴブリンの巣ができたみたいで……」

要するにゴブリンの巣が出来て、商人たちが襲われるので近づけないということらしい。冒険者ギルドに依頼をしたが、調べてみるとあまりにも大規模な巣で人数を集める必要があるらしく、すぐに対応できないと言われたそう。

「ゴブリンの巣なんて明日にでもしますよ」
「本当ですか!」

ゴブリンなんて完全に消滅してみせますよ。アルスは得意そうに胸を張って、余裕たっぷりという口ぶりだった。令嬢は心の底からの言葉を発して、祈るような気持ちで目を輝かせてじっとアルスを見つめる。

「ゴブリンなんて、何匹いても弱すぎて僕らの相手になりません。ですが条件があります」
「報酬なら当然お支払いいたします!」
「お金もいただきますけど、僕はあなたが欲しい!」
「……え……?」

実に容易なことだと話したアルスは恐いくらい真剣な表情になって、ゴブリンの巣を壊滅する交換条件として女性を要求した。勇者パーティーをただで働かせようとは思っていなかった令嬢は、相応の代価を支払う用意はありましたが、アルスの言葉に自分の耳が信じられなかった。

アルスが女性遍歴が豊富な男だという事は有名なので、そのような事を言われるかもしれないと令嬢は内心覚悟していた。温和で友情を大切にする女性は、困っている商人たちの顔を浮かべながら、精神的な苦悩の中で胃が痛くなるほど悩む。

「別に僕と結婚をしろというわけではありませんよ? あなたは貴族の令嬢ですから縁談の話は色々とあるでしょうから、結婚するまで僕の彼女になってほしいというだけです。いかがですか?」

「わ、わかりました。ゴブリンを倒してくださるなら、私が結婚するまででしたら、アルス様の恋人になります……」

女たらしのアルスは、このような相手の弱みに付け込むやり方で、勇者パーティーの幼馴染の女性以外にも様々な女性を愛人にしている。また愛人関係を結ぶ女性が一人増えるなと、人一倍バカな頭で不純な勘定をして思わずニヤリと笑った。

女と賭け事に目がないアルス。そして、彼に付き従う幼馴染たちもまた、他人を思いやる心に乏しい者ばかりだった。唯一、まともに実力を備えていたレベッカを『無能』と決めつけて追い出したのは、まさに自滅の第一歩だった。

彼らは、自らの誤りの重さを、これから嫌というほど思い知ることになる。
永遠の夜が明けない場所。地獄で――

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
この物語を、皆さまと共有できたことが何よりの幸せです。
またどこかの物語でお会いできますように。
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