エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第二十五話 江戸時代の風呂事情

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「だあーっ! なんか痒くなってきた!」

 俺は人の目がないことをいいことに、着ている一張羅を脱いでは爪をたててオーバーに掻きまくる。皮膚が赤くなって傷跡になろうが関係ない。掻きたいから掻くのだ。腕、足、背中ときたらお次は下半身付近と思っては恥部スレスレに手を伸ばした動きと同じタイミングで障子戸がピシャアアーッ! 木材たちが壊れる寸前だと喚き散らす、奇声に近い甲高い音が高らかに鳴りながら開いたのである。

「よおスグル~、帰ってっか~?」

 正体は隣に住む助六という男。年齢は多分同じか近い。話しかけやすく、よく江戸の町についてあれこれ教わっている。さっき話した賃金の件も助六から聞いた話。かなりのお調子者タイプだが、たまに間が悪いときがある。そう、今みたいに。

「あっ、はは! すまん、お取込み中だったか~!」

 痒いから掻いていると理由は知るはずがない助六。股間に手を添える俺の姿は、自家発電をしている男の姿。同じ男同士であるため、物事の事情をいち早く汲み取ってもテンションだけは崩さず。舌をだしてテヘペロといった感じで軽く謝ってきた。

「助六、これは痒いから……」

「言うな言うな、分かる分かる。お前もさ、長旅でしばらく疲れたんだろ? それに毎日あの小毬にこき使われなんかしたら、溜まりに溜まるよな~!」

「そうそう、溜まる溜まる」

 めんどくさいから、そうゆうことにしておこう。

 何気なく助六の頭に目線を向ければ、髪が濡れている、長屋には基本風呂がないので、町にある湯屋という銭湯へ行き、一足先に汗を流してきたのだろう。自分も早いうちに風呂へ行かなければ。今夜は何かあるとミツから聞かされていたことを、今になってぽっと思い出す。

「んお? スグルはまだ湯に浸かってないのか? オレ、湯屋にちと忘れ物したんだよ。今から一緒に行くか?」

 湯屋に誘われたことに対して、肩が何かに反応を示すかのようにピクリと動く。

「いや、いい! ちょっとここで砂埃とか汗を手ぬぐいで一旦落としてから入りに行こうと思ってるんだよな!」

「ケッ、育ちのいいことで。一体どこからの流れもんだよ。んじゃな~」

「おう!」

 ――で、あいつなにしにきたんだ? 俺が自家発電してると勝手に勘違いして終わっただけでなく、戸も閉めずに出て行きやがった!

「ったく……」

 全開にされた障子戸を外さないよう、優しく閉め終えれば、段差に座り込んでから手ぬぐいで丁寧に汗を拭きとっていく。これから風呂に入りに行くのになぜ拭くのか。別に潔癖症どうこうとかじゃない。こうでもしなきゃ、身がもたない。まさか、江戸時代の銭湯が混浴なんて誰が想像しただろうか。

 長屋生活初日、助六と一緒に行った湯屋では男も女も同じ湯舟につかっては堂々と隠さず打ち解けて楽しく語り合っていたのを目撃して、大変な目にあってしまったのだ。混浴なんて実在するはずがない、あってもアダルトビデオのみ。空よりも遠い存在だった混浴にこれから入るとなれば、異性耐久ゼロの俺として身や心が準備万全でないといけない。そのせいで頭はフリーズ。身体の一部分はもっとギンギンにフリーズ。振り返るだけで失態という名の黒歴史。だからといって一週間経った今も慣れてはいない。

「だからこうして、家でなるべく汚れを落として湯舟にいる時間を少しでも減らせば俺の負担も減るよなって作戦。よし、大体綺麗になったな!」

 すうっと息を深く吸って吐く。それを三回繰り返して、草履に力を入れて前へ踏み出した。

 さあイこう、銭湯へ――!

 藤山スグル、十八歳。彼の目元は、明日を向いていた。
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