異形の血筋

黒歴史を紡ぐ者

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薬師エルフと異形の血筋 その1

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光の届かない暗い地下室、そこに一人の男が降りてゆく。

その男はメガネをかけた金髪ロングのエルフであった。

中性的な顔立ちをしており、もし彼が女装したならば男だと気づく人間は少ないだろう。

「やあ、ただいま。コレクション達よ。」

男は暗い地下室に明るい声で呼びかける。

「ライト」

男が周囲を照らす光魔法であるライトを使ったことにより地下室の全容が明らかとなる。

そこには5人の幼い少女達、いやはっきり言おう。幼女達がいた。

その幼女達はみな、口に黒いボールのようなものを咥えさせられており、手は鎖に繋がれ自由を奪われていた。

「さあ、お薬の時間だ。」

男の姿を見て、恐怖に震える幼女、既に感情が抜け落ち、その瞳にも何も映していないかのような幼女、さまざまな幼女達の様子を満足げに見ながら男は注射器を取り出し幼女に近づく。

「あまり動かないでおくれよ、私は無駄に傷つけたくないんだからね、くふふ……」


幼女の柔らかな肌に細く長い針が突き刺さった。


----------



「師匠、この薬はどう扱えば良いでしょうか?」

清らかな水が流れる川の傍にある森の薬師の家、そこに爽やかな笑顔が眩しいエルフの少年がいた。

「ああ、待ってろ、それは危ないから下手に触るなよ。」

その少年は薬師に弟子入りし、薬師になる修行を受けていた。

少年の名はロレン。

ロレンは薬師の技術を次々と吸収していき、将来は立派な薬師になると期待されていた。

美形のエルフで、薬師にも将来を期待され、周囲の人々との関係も良好。

まるで欠点なんて無い、あったとしても気にはならない程度に彼は優秀だった。

しかし、ロレンは人と違う性癖を宿していた。

彼自身もそれには気がついていなかった。

そして、その性癖は少しずつ姿を見せ始めるのだった。


---------

薬師と共に街に薬を売りに行くと、ロレンはたちまち街の女性達に囲まれた。

「ろ、ロレン様!このあとお時間がよろしけれ「きゃー!ロレン様!」「邪魔よ!ロレン君が見えないじゃないのよ!」」

この光景はもはや日常であり、ロレンも薬師も慣れたものだった。

しかし、この男ならば誰もが羨む光景、それをロレンは内心恐れの心と、見下した心の二つの目で見ていた。

(ああ、醜い、醜いなぁ。)

ロレンはそんな内心を顔に出さず、笑顔で応対する。

(みんなみんなみんな醜い。みんな私を見ていないんだ。私の容姿、私の技術、私の将来性、私の表の仮面……それしか見ていない。彼女達は私に惚れているんじゃない。私の容姿に惚れているんだ。私に惚れている自分に酔っているんだ。男共もそうだ。私の容姿、こうしてモテている私という外の面しか見ていない。私を本当の意味で見ているのは師匠と『あの子』だけだ……)

「ロレン兄ちゃん!遊ぼ!」

可愛らしい声を聞き、ふとロレンは営業スマイルをやめ、我にかえる。

「ノーラちゃんじゃないか、お母さんと一緒じゃないのかい?」

声のした方へ目を向けると、犬耳の獣人の幼い少女が立っていた。さらさらとした白い髪とぴくぴくと動く耳と尻尾、その保護欲をそそる少女だった。

「うん!お母さんはお仕事で忙しいから……ロレン兄ちゃんが来てるって聞いたから遊びにきたよ!」

「うーん、ごめんね、兄ちゃんはまだお仕事があるんだよね。」


「いいじゃないか、遊んでこいよ。」

少し、気だるげに薬師が言う。

「で、ですが師匠……」

「お前が居なくったって昔から薬を売るのくらいは一人でやってる。それとも何か?お前がいるおかげで女共に薬が売れると?俺だけじゃ薬は売れねぇと?」

「い、いえそういう意味では……」

「自惚れるなよ、お前はまだ半人前だ。半人前は師匠の言うことを聞くもんだ。お前は内に心を閉じこめ過ぎるんだよ。たまには心を解放してこい。どーせ、森に戻ったら嫌でも閉じこもって薬作らねばならんのだからな。」

会話が苦手な師匠の言葉はあまり何を言ってるのわかりにくいものであったがそこにロレンを気遣う気持ちがこもっている事だけはロレンにもわかった。

ロレンはその師匠の言葉に甘えてノーラと遊んでくることにした。


--------

それから、一年。

ロレンは一人で森の薬師の家で薬を作っていた。

薬師はある流行り病で死んでもうこの世にはいなかった。

薬師自身が作った薬、ロレンが必死に薬師のために作った薬、どれも効く事は無かった。

薬師が死に、ロレンの周りには今まで薬師により遠ざけられてた者達、薬師の利権やロレン自身を狙う人間が増えていた。

元より、軽い人間不信であったロレンはさらに人を信じる事が出来なくなり、彼の心の支えはノーラだけとなっていた。

しかし、そのノーラが少しづつ成長するにつれて、ロレンの中にはある考えが生まれてきた。

ノーラも成長すればもう無邪気な目で、自分を見ることも無くなるのではないかという恐怖。

街の女性達のように自分を見ていないあの目。成長し、大人の世界を知るにつれて心も穢れてゆくのではないかという懸念。

本当の自分を見ていない、あの目で見られるのではないかという疑念。

次々に生まれたその考えは時を重ね、ノーラが成長すればするほど大きくなってゆく。

「君は汚い大人にはならなくていいんだ。君は子どものままでいいんだよ。君はいつまでもその無邪気な瞳で私を、君だけは私を見ていてくれ。」

「それ以上穢れる必要は無い。私が、私がその穢れを止めてあげるよ。」





































そして、ロレンはノーラを殺した。


「君は一生私の『モノ』だ。その瞳で私だけを見ておくれよ……」


培養液のようなものに浸され、大きなカプセルに入ったノーラは暗く何も映さない瞳でロレンを見つめていた。
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