異形の血筋

黒歴史を紡ぐ者

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薬師エルフと異形の血筋 その2

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「くそっ……くそっ……」

シオンは森の中を血だらけで歩いていた。

ただ宛もなく、手に持つのは彼が昔から修行で愛用していたロングソードのみ。

だが、体力の尽きかけているシオンには普段は軽々しく振ることの出来たロングソードですら重く感じるのだった。

「……死ぬわけには…………死ぬわけにはいかないっ……まだ……」

「グギャギャ!」

必死で歩くシオンの後ろからゴブリンの声が聞こえる。そのゴブリンの声はシオンにとって、まるで死を告げにきた死神の声のように思えた。

「はぁ……はぁ…………撒けなかったか……なら……やるしか……っ!」

木を背にもたれかかり、その重く感じるロングソードを構え、目だけは鋭く尖らせてゴブリンがどこから来るかを見極めていた。

すると、正面から三匹の異形のゴブリンが姿を現す。

シオンを視界に収めると逃げ回っていたネズミが遂に観念したかとばかりに三匹はお互いに顔を合わせ、喜色満面の笑みでギャッギャッと騒ぐ。

シオンは徐々に追い詰められていく状況に恐怖を覚え、今にも背を向けて逃げ出したい気持ちに駆られたがそれを必死で押さえ込む。

ここで走ってもすぐに体力が尽きて、背中から襲われて終わる事がわかっているからだ。

それならばここで正面から迎え撃つ方がまだ勝算があると考えての行動だった。

「かかってこいよ……それとも瀕死の俺にビビってるのか?」

その挑発を理解したかどうかはわからないがゴブリン達は一斉にシオンに向かって突撃する。

シオンはまだ少しふらつく身体に活を入れて、先頭を走ってくるゴブリンに倒れ込むようにしてロングソードで突きを放つ。

その倒れ込むような動きを予想していなかった先頭のゴブリンは目を丸くして驚く。

そして、そのまま胸をロングソード貫き、ゴブリンは絶命する。

左隣にいたゴブリンは何が起きたか理解しておらず、ただ戸惑い足を止めていたが右隣のゴブリンの動きは早かった。

横を走り抜けるようにして倒れ込んでいくシオンの背中に一撃浴びせようと棍棒を振り下ろす。

その一撃を喰らい、シオンはそのまま地面に倒れ込む。

「ぐはっっ!」

それを見た左隣のゴブリンはトドメを刺そうとシオンに飛びかかる。

倒れ込んだシオンはすぐに仰向けになり、ロングソードを上に突き立てる。

それとほぼ同時にゴブリンが飛びかかってきており、ゴブリンは突き立てたロングソードに脇腹を貫かれる。

「あ、危ねぇっ……ガハッ……」

脇腹を貫かれたゴブリンは目を血走らせており、そのままシオンを殺そうと傷が広がるのも無視して暴れる。

「うるぁぁぁぁ!!」

それをロングソードごと押しのけ、ゴブリンは地面に倒れ込む。倒れ込むゴブリンから素早くロングソードを抜き取るとそのまま首を狙って一突きした。

それにより遂にゴブリンは息絶える。

だが、シオンは忘れていた。自分の背中に一撃入れ、走り抜けていったもう一匹のゴブリンがいた事を。

「ぐっ?!」

突然頭に衝撃を感じ視界が歪む。

必死に意識を保ちつつ振り返るとそこには勝ちを確信し、醜い笑みを向けるゴブリンがいた。

振り上げられる棍棒。

それを見るシオンの意識はだんだん薄れていく。

(俺は……ここで死ぬのか……?)

薄れゆく意識の中シオンが見たのは悲鳴を上げるゴブリンとそれを冷たく見下ろす少女の姿だった。
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