異世界離魂症候群 ―あなたの作品カタチにしてみませんか?―

皇海宮乃

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【3】死 その瞬間の前と後

3-2

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 入力の済んだ伝票の整理を淡々と行う。ドラマや小説のように無理を言って困らせる問題社員も居なければ、お局様も居ない。

 何故ならセクション最年長は私だからだ。

 罵声も飛ばず、残業をするのは繁忙期のみという素晴らしい職場だが、特別仲の良い同僚も居ないし、同期は出世したか、結婚して退職した。

 子供を産んで仕事を続ける者もいるが、なぜだか長くは続かない。

 始業から昼休みまでノルマをこなし、昼休みは母の作ってくれた弁当を食べる。

 一緒にランチをする相手も、今はもう居ない。

 弁当箱をすすぎに給湯室へ行くと、他部署の女性社員が三人ほどたむろっていた。営業補佐である三人の名であげられる伝票はよく処理している為、名前と顔は一致していた。

 一昔前ならば、伝票は手書きで、所定のボックスに入れる事になっていたが、現在は全て電子化されている為、筆跡の違いなどはわからない。

 それでも、社内SNSで顔と名前をなんとなく確認してしまうのは、昔ながらの自分のやり方で、どういう人間なのかを知っておきたいからだろうか。

 だが、相手の方は私の顔は知らないようで、

「お疲れ様です」

 という言葉に儀礼的に「お疲れ様です」と帰ってきたものの、誰? あの人? という疑問が顔に張り付いているように見えた。

 足早に去ると、背後で私が誰なのか話をしている気配があった。

 特別仕事ができるわけでもなく、目立つセクションにも居ない、年かさな女性社員がめずらしいのだろうか。かつては、総合職の同僚あたりがさりげなくフォローをしてくれた事もあったが、今は接点も無く、あまり言葉を交わす事も無い。

 終業時刻後、定時にパソコンをシャットダウンして席を立つ。制服も無いので更衣室も無い。ゆえにほとんど口をきくことも無い。

 以前は、時に応じて他部署まで足を運ぶ事もあったが、今そうした事は私よりもっと若い子達がやってくれる。期待も無く、失望も無く、まるでロボットのようで、いまに私のしごとなどはAIに置き換わるのでは無いかと思いながら手を動かしている。

 数少ない外出の仕事、銀行へ出向く事もオンラインバンキングでだいぶ減っている。

 過度な仕事をふられて悲鳴を上げるような事も無く、パワハラセクハラも存在しない、理想的な職場。けれど、これは私である必要は無いのだ、という空虚な思いを拭い去る事はできなかった。

 帰りの電車で、スマホゲームをルーティーンのようにこなしていると、レコメンドの中に見慣れないアイコンがあった。見慣れない、といっても、アイコンのデザインはごくありふれたもので、特別変わったところは無い。

 イケメンキャラクターを全面に押し出したアイコンは、どこにでもあるようなものだった。

 しかし、ゲーム説明で興味を惹かれた。

『これは、あなた自身の物語』

 恐らくはVRの、プレイヤー視点なのだろう。しかしアバターになる少女のキャラクターが存在しないのは好ましいとも思えた。

 ダウンロード速度を考えて、帰宅してからインストールしようと思いながら、私はスマホをかばんに放り込み、窓の外を見た。そこには、くたびれた自分の姿が写っているだけだった。
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