異世界離魂症候群 ―あなたの作品カタチにしてみませんか?―

皇海宮乃

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【6】夢か現か

6-2

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 ミソノフミの日にちの概念は薄れつつあった。

 ひとつずつ体験した世界を眠る前に反芻するように思い浮かべていたが、類似する世界観が幾つかあって、何週目かわからなくなっていたからだ。

 逆ハーヒロイン乙女ゲーム世界
 ツンデレ魔法使いに懐かれてヤンデレ気味に溺愛される世界
 和風旅館で雑巾がけをさせられたら神様がやって来て嫁にされそうになる世界

 状況、相手は異なるものの、基本的に特別な労力も無く何故かヒーロー然とした相手に一方的に愛されたり評価されたりする世界だった。

 最初は悪い気はしなかったが、慣れてくると展開の説得力の無さに困惑するようになった。

 何を言っても、どういう態度を示しても、あらかじめ決まった受け答えしか返さないノンプレイヤーキャラクターとのやりとりに飽きがきてしまったのだ。

 陳腐なセリフにも、甘ったるい声の響きも、慣れてしまえば感覚は麻痺してくる。

「……地獄だ」

 苦々しい顔で天井を見ながらつぶやく。和室の天井は、木目が歪んで少々不気味だった。

 今夜は現代設定だったのか、電気の照明があるのはありがたかった。

 ロウソクやランプは思っていたよりもずっと暗く、匂いも気になる。

 明かりと履物は不便な事が多く、食事についてはあまり不満がない事が多かった。

 生理になったら困るなと思っていたが、毎晩リセットされるせいなのか、生理が始まる兆候は無かった。

 『異世界』的な世界観が続くのが不思議で、SF的な異星や未来、近現代、であった事はこれまで無かった。最初の頃は、目が覚めてどのような状況に自分の身が置かれているのかが気になっていたが、あまりに似たような世界ばかりで飽きている。

 もしこのまま似たような世界ばかりが繰り返されるのならば、それは本当に『地獄』以外の何物でもないだろう。

 知覚している身体も、認識上では身体だが、本当は存在していないのかもしれない。

 引き継がれない怪我、食べた食物はどうなっているのか、あまり考えたくは無かったが、『感覚』だけが今のフミを支えていた。

 かつて、似たような日々が繰り返されていた。それでも、わずかではあったが変化はあったし、何より流れる時間や世間というものを共通認識として持っている相手と会話する事はできていた。

 今は、そもそも会話が成り立たない。

 誰かと会話をしたい。

 共通の認識を、記憶を持ちたい。

 そうしなければ、今に自分自身もこのノンプレイヤーキャラクター達に飲み込まれて、自身の存在を『感じる』事すらできなくなりそうだ。

 目を閉じて、再び目覚めた時に、あれほど憂いた現実に戻れたならば。フミは、そう、強く願った。
 
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