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入浴前に叫べ!
入用前の作法
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「志信ちゃん、お風呂行こうか」
夕食時も、昼食同様『寮食歌斉唱』がひとしきりあり、シンプルなメロディーをすぐ覚えた志信は、張り切って大声で歌った。
夕食の後、和美と共に一階の大浴場へ向かうと、再び和美から説明があった。
「一応、お風呂の入り口にも貼ってあるんだけど……」
と、前置きをして、続ける。
「うーん……見てもらった方が早いな、浴室に入る時に一声かけるルールがあるの」
それでも、食事の前に歌を歌ったり、寮内にヤンキーがいる以上に驚く事なんてないんじゃないかと思いつつ、志信は大浴場に入った。
脱衣所はいたって普通。
中央に棚があり、着替え類を入れられるようになっているのと、掲示板に伝達事項や寮内新聞のようなものが貼ってある。
BGM替わりか、音楽プレイヤーに外付けスピーカーを付けたものが置いてあり、音質はやや悪いものの、寮内放送局の体でラジオ番組風の掛け合いが流れていた。
なんだ、普通じゃん、と、和美と隣り合った場所に着替えを入れて、服を脱ぎ始めると、先にいた一年生と思われる一人が、おずおずと浴室へ向かうガラス戸に手をかけて、自棄のように言った。
「19号室、一年、魚住まどか、入ります!」
志信は眼をむいて和美を見た。
和美の方は苦笑いしながら、ガラス戸に貼っていある模造紙を指差した。
魚住まどかと名乗った一年生が、挨拶と同時にガラス戸を開けると、中から先に入っていたと思われる全員から、
「よーし」
と、確認するような言葉が帰り、まどかは浴室の方に入っていった。
服を脱ぎ、ボディタオルで前を隠しつつ、志信がガラス戸に貼られた模造紙を読んだ。
『浴室に入る前に、部屋番号、学年、名前を言うこと』
これも、ルールなのか、と、志信は驚きつつも、まどかの真似をして、声を張り上げた。
「10号室、一年、卯野志信、入りますッ!」
ガラス戸を開けると、中から、
「よーし!」
と、答えがあり、続いて和美が、控えめな声で、
「10号室、一年、猪俣和美、入ります」
と、言って入ってきた。
今度は、他の皆と一緒に、志信は声を揃えて、
「よーし!」
と、答えた。
空いているカランに陣取ると、和美も横に来た。
「志信ちゃん、ノリノリだね……」
シャワーの温度を確かめながら、和美が言った。
「あー、なんか、こういうの好きなんだよねえ」
志信は楽しそうに答えた。
和美の方は昼に、食堂で歌を歌った時から、少しうんざりしているようにも見えた。
確かに、今は新入生という事で、何もかもが目新しく新鮮だけれど、こういう習慣を四年間続けていくのは……と、考えてしまうと、うんざりするかも、と、志信も思った。
しかし、自宅浪人を一年過ごしてきた志信は、こういう人との関わりそのものが久しぶりで、何もかもが楽しかった。
「あー、あと、明日は、朝からラジオ体操だから」
「へー、そんな事もするんだ、なんか、合宿みたいだねえ」
浴室は、風呂屋のようにサウナや複数の浴槽は無かったが、広々とした浴槽がひとつと、カランが10箇所ほどあって、毎日温泉気分が味わえそうだった。
体を洗って、浴槽に身を浸すと、上級生からも声をかけられて、出身地や学部の話などでひそしきり盛り上がり、少し長湯してしまった。
和美も、最初は少しうんざりしていた様子は見せたものの、先輩達との雑談は楽しそうにニコニコと聞いていたので、珍妙なルールへの戸惑いはあるものの、寮生活そのものへの抵抗感はそれほど無いのかな、と、志信は安心した。
せっかくルームメイトになれたのだ、和美とは仲良くしたい、と、志信は思っていた。
夕食時も、昼食同様『寮食歌斉唱』がひとしきりあり、シンプルなメロディーをすぐ覚えた志信は、張り切って大声で歌った。
夕食の後、和美と共に一階の大浴場へ向かうと、再び和美から説明があった。
「一応、お風呂の入り口にも貼ってあるんだけど……」
と、前置きをして、続ける。
「うーん……見てもらった方が早いな、浴室に入る時に一声かけるルールがあるの」
それでも、食事の前に歌を歌ったり、寮内にヤンキーがいる以上に驚く事なんてないんじゃないかと思いつつ、志信は大浴場に入った。
脱衣所はいたって普通。
中央に棚があり、着替え類を入れられるようになっているのと、掲示板に伝達事項や寮内新聞のようなものが貼ってある。
BGM替わりか、音楽プレイヤーに外付けスピーカーを付けたものが置いてあり、音質はやや悪いものの、寮内放送局の体でラジオ番組風の掛け合いが流れていた。
なんだ、普通じゃん、と、和美と隣り合った場所に着替えを入れて、服を脱ぎ始めると、先にいた一年生と思われる一人が、おずおずと浴室へ向かうガラス戸に手をかけて、自棄のように言った。
「19号室、一年、魚住まどか、入ります!」
志信は眼をむいて和美を見た。
和美の方は苦笑いしながら、ガラス戸に貼っていある模造紙を指差した。
魚住まどかと名乗った一年生が、挨拶と同時にガラス戸を開けると、中から先に入っていたと思われる全員から、
「よーし」
と、確認するような言葉が帰り、まどかは浴室の方に入っていった。
服を脱ぎ、ボディタオルで前を隠しつつ、志信がガラス戸に貼られた模造紙を読んだ。
『浴室に入る前に、部屋番号、学年、名前を言うこと』
これも、ルールなのか、と、志信は驚きつつも、まどかの真似をして、声を張り上げた。
「10号室、一年、卯野志信、入りますッ!」
ガラス戸を開けると、中から、
「よーし!」
と、答えがあり、続いて和美が、控えめな声で、
「10号室、一年、猪俣和美、入ります」
と、言って入ってきた。
今度は、他の皆と一緒に、志信は声を揃えて、
「よーし!」
と、答えた。
空いているカランに陣取ると、和美も横に来た。
「志信ちゃん、ノリノリだね……」
シャワーの温度を確かめながら、和美が言った。
「あー、なんか、こういうの好きなんだよねえ」
志信は楽しそうに答えた。
和美の方は昼に、食堂で歌を歌った時から、少しうんざりしているようにも見えた。
確かに、今は新入生という事で、何もかもが目新しく新鮮だけれど、こういう習慣を四年間続けていくのは……と、考えてしまうと、うんざりするかも、と、志信も思った。
しかし、自宅浪人を一年過ごしてきた志信は、こういう人との関わりそのものが久しぶりで、何もかもが楽しかった。
「あー、あと、明日は、朝からラジオ体操だから」
「へー、そんな事もするんだ、なんか、合宿みたいだねえ」
浴室は、風呂屋のようにサウナや複数の浴槽は無かったが、広々とした浴槽がひとつと、カランが10箇所ほどあって、毎日温泉気分が味わえそうだった。
体を洗って、浴槽に身を浸すと、上級生からも声をかけられて、出身地や学部の話などでひそしきり盛り上がり、少し長湯してしまった。
和美も、最初は少しうんざりしていた様子は見せたものの、先輩達との雑談は楽しそうにニコニコと聞いていたので、珍妙なルールへの戸惑いはあるものの、寮生活そのものへの抵抗感はそれほど無いのかな、と、志信は安心した。
せっかくルームメイトになれたのだ、和美とは仲良くしたい、と、志信は思っていた。
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