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56休日4理由
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約束の時間より
少し早目に到着した
慧人は
時間を確認しようと
携帯端末を
取り出したのだが
画面を開く前に
声が掛けられる。
『お待たせ。
少し遅くなっちゃったかな?。』
千陽が慧人に
声を掛ける。
『いや、
まだ約束の時間より
少し早いくらいだ。
それに俺も
丁度、今来たばかりだ。』
『プッッ!。フフ。』
千陽が慧人の答えに
少し吹き出し気味に、
『慧人君でも、
キチンとデートの
待ち合わせみたいな
答えを返してくれるんだね。
ゴメン、
茶化して言ってるんじゃないの。
その、
ただの待ち合わせが
少し楽しい物に
感じて来ちゃって。
つい。』
千陽の答えに
慧人は少し
眉をよせ訝しんだが
千陽の純心な気持ちを知ると
それまでとは違い、
心のモヤが晴れるような
感覚を覚えるの
だった。
『それで?。
今日はこれから
どうするんだ?。
ここの喫茶店で
相談を聞けば良いのか?。』
喫茶店で相談があるなら
中で待ち合わせた方が
良かったんじゃないかと
思う気持ちを抑え
千陽に尋ねる。
『ええと、
今日はね
一緒に行って欲しい所が
あるの。
追て来てくれる。』
そう告げると
千陽は
スクランブル交差点の
方向へ歩き出したのだった。
スクランブル交差点を
左手に曲がり
少し歩いた先に
年代を感じさせる
大きな建物があった。
『病院か……。』
慧人はその建物を
見上げ一言だけ呟く。
『こっちよ。』
千陽はエレベーターを
使わず
その脇の階段を登って
行く。
7階まで登り
全く人気の無い
1人部屋の区画
その一室に案内される。
入口には病院では
明らかに珍しいと言っていい
I.D.認証のカードスロットが
ついた施錠がされており、
其処に千陽は自分の持つ
カードキーをスキャンして
中へと入って行く。
中へ入ると
もう一枚扉があり
千陽はノックする。
『どうぞ。』
『千輝、
具合はどう?。』
千陽は優しい笑顔を作り
千輝と呼んだ少女の傍らまで
歩むと、その少女の手を取った。
『お姉ちゃん、
今日は結構調子良いんだ。
こうして身体を起こして
いられるくらいに。
ところで、
其方にいらっしゃる方は
どちら様ですか?。』
透き通るような
真っ白な肌の
長い黒髪が美しい
日本のお伽噺に出て来そうな
お姫様を思わせる
美少女が弱々しい笑顔と声音で
慧人の事を尋ねてくる。
『あたしのクラスメイトの
真流君。』
『千陽さんの
クラスメイトの
真流 慧人です。』
『わたしの
妹の千輝。』
『向井田 千輝(むかいだ ちあき)
です。
よろしくお願いします。
千輝って呼んで下さいね。 』
『ああ。
俺の事も慧人と
呼んでくれて構わない。』
慧人は簡単に
自己紹介する。
彼には珍しく
屈託の無い笑顔を
千輝に向けている。
『それで
お姉ちゃん、
慧人さんは
その…彼氏さん…ですか?。』
前半は千陽に向け
後半は慧人にも向ける様
ズバリな質問を投げかける
千輝。
『ち、違うわよ
ただの
ク、クラスメイト
なんだから
………………もぅ。』
『ウフフ…。』
耳まで真っ赤になって
頭から湯気でも出そうな
勢いで、
両手を振りながら
否定する千陽の姿を
口を隠すように
手を当て
お上品に笑う千輝。
『ちょっと、
慧人君も何か言いなさいよ。
もう。』
『うん?。
ああ、
ただのクラスメイトだ。』
『ウフフ………。』
千陽が慧人に
照れ隠しも兼ねて
答えを促すのだが、
慧人はあっさり、
大した感慨も無く
答えてしまうのだった。
その様子を見て
もう一度、
今度は目尻に少し
涙を溜め笑ってしまう
千輝。
『もう、
笑い過ぎよ。
やんなっちゃう。』
『お姉ちゃん、
怒らないで。
ゴメンね。慧人さんも。
なんだか
可笑しくて。ウフフ。』
『もう。
私、花瓶の
お水替えて来る。』
終いには
照れ臭くなり
花瓶の水替え等と言い
この場を逃げ出してしまう
千陽。
千陽が病室から出て行くと
千輝が慧人に話し掛ける。
『慧人さん。
あんなお姉ちゃんですけど
よろしくお願いします。』
『ん?。
よろしくと言われてもな。
君のお姉さんには
皆、かなわない様だぞ?。』
慧人が両手を広げ、
肩を竦ませるポーズで
首を振りながら
溜め息混じりに答える。
その仕草を見て
千輝はまた吹き出すように
話し掛ける。
『ウフフ。
お姉ちゃんが
聞いてたら、
また も~うって
怒っちゃいますよ。
ウフフ…。』
『…………。
違い無い。』
『慧人さんて、
面白い人なんですね。
ウフフ……。』
『そんな風に
言ってくれるのは
君くらいのものだ。
俺は至極、
つまらないヤツだと
自分では思っているのだが。』
『ううん。
そんな事無いです。
お姉ちゃんが
慧人さんを此処に
連れて来た意味が
解った気がします。』
『俺は
びっくりしたよ。
こんな身近な場所に
麗しの姫君が
囚われて居るなんて
夢にも想わなかった
からな。』
歯の浮くような
台詞をしれっと吐き
少しオーバーな
アクションを付け
ワザと軽い男を演じて
見せる慧人。
それは何かを試して
いるかの様に。
『いやだ。
ウフフ…。
もう、お世辞が
過ぎますよ。
でも、
ありがとうございます。
慧人さんに
言われると
なんだか素直に
受けとれます。』
下手な演技に
興じても、
千輝の目は
真っ直ぐ
真意を見透かしてしまう。
『かなわないな。』
それを聞いて
慧人はもう一度
やれやれと
溜め息をつく。
『慧人さん。
ホントに
お姉ちゃんの
彼氏さんじゃ無いんですか?。』
『ああ。』
『ふぅ~~~ん。
そーなんですね。
そっか~~。
ね、慧人さん?。』
『うん?。』
『握手して
貰えませんか?。』
『ああ
構わない。』
千輝が
ニコニコしながら
小さな手を差し出す
真っ白で細く綺麗な指を
慧人の大きな
ガッシリとした手が
ゆくっりと優しく
握り締める。
千輝は握手している
右手に、
空いていた
左手も加え
両手でしっかりと
慧人の大きな手を
包み込んだ。
慧人の掌の温もりが
千輝の透き通る様な
真っ白な指先から
次第に流れ込んで行く。
二人の心は
見えない糸に似た何かで結ばれ、
その時は
まだ不確かな形のまま
お互いの心に小さな光を
宿すのだった。
『慧人さん、
またお見舞いに
来ていただけませんか?。』
千輝は少し
潤んだ瞳で
慧人に懇願する。
『ああ。
……………………
そうしたい所なんだが
この病室は
セキュリティーがな…。』
『それなら大丈夫です。
慧人さんの事
覚えましたので
何時でもいらして下さいね。』
腑に落ち無い
千輝の言葉だったのだが、
おおよその意味を
悟った慧人は
約束を交わす。
『そうしよう。』
千輝はニッコリ
笑顔で返す。
慧人も優しい笑顔で
それに答えた。
其処へ
花瓶の水替えを
終えて
千陽が病室へと
戻って来る。
『こらっ!。
慧人君。
私の妹に
変なちょっかい
出さないでくれる?。』
言葉はキツイが
少し冗談混じりの
柔らかい口調で
千陽が慧人を嗜める。(たしなめる)
『お姉ちゃん、
違うの
私が慧人さんに
握手してって
頼んだの。』
『分かってるわよ。
解ってても
この一言は
言わずにはいられ
ないのよ。もう。』
『いやだ。
お姉ちゃんたら。』
……………………
………………
…………
しばらく三人は
楽しい雑談に興じ
一頻り(ひとしきり)笑った後
千陽と慧人は
病室を後にした。
病院を出ると
千陽に誘われ
最近この区画に
建ったばかりの
高層商業ビルへ向かい
その中階層30階の
オープンガーデンへと
足を運んだ。
慧人と千陽は
フェンス越しに
オレンジ色に染まる
夕焼けを眺めながら
静かに語らう。
しかし、その内容は
恋人達のそれとは
少しばかり
感情の異なる物だった。
『ねぇ慧人君
千輝、
とても良い娘だったでしょ。』
『ああ、そうだな。』
『今日は
体調が良かったけど、
何時もは上体を起こせ無い程
酷い時もあるの。
ねぇ?。
理不尽だと思わない?。
あんな良い娘が
あんな辛い思いをしている
なんて。
そんな事を
考えると
眠れなかったり
心が張り裂けそうに
なったり………。』
千陽は
涙を堪えるように
鼻をすすり
慧人に
訴える。
慧人はその言葉を
夕日を見つめながら
少し険しい視線で
聴き入っている。
しかし言葉は
発しない。
『だから
私、千輝の為だったら
何でもしてあげたいと
思うの。
どんな事をしてでも
病気を治してあげたいと
思っているの。
私の言ってる意味
解ってくれる?。
慧人君。』
千陽は切羽詰まった様に
慧人に訴え掛ける。
『俺は
お前の家の事情は
分からない。
そこを
とやかく言うつもりも無い。
お前の
妹に対しての
気持ちは解った。
だが、
お前がやろうとしている事を
全て黙認するかどうかは
分からない。』
慧人は言う。
千陽がこれから
やろうとしている事の
内容をまるで
把握しているかの如く。
『分かった。
それでも
私はやらない訳には
行かない。
ねぇ慧人君
私の妹、千輝
凄く可愛いかったでしょ?。』
『そうだな。
………………………。
出来る事なら
俺も、千輝の
病気を治す手助けを
してあげたいと
思う。』
『やっぱり、
慧人君を千輝に
会わせて良かったな。
慧人君。
…………
甘いよね。』
千陽は不意に
お人好しな慧人に対して
歯に衣着せぬ
物言いを発して
しまう。
『良く言われる。』
それに対して慧人は
あっさりと
自分の甘さを
認めてしまうのだった。
『だけど、
ただ甘いだけじゃないもんね。
……………………。
きっと私はこれから先
貴方を怒らせる様な事を
してしまう。
それを許してくれとは
言えない。』
『千陽
俺は、お前の事を
敵だとは
思っていない。
これだけは
覚えておいて欲しい。』
◇その頃
後を尾けていた
三人組と一人は◇
『こんな
デートスポットで
らしくない会話に
なっているんですが…。』
ティタが
まるで会話の内容を
聴いているかの様に
話す。
『ああ。
分かっていた事だが
少々、厄介な流れに
なりつつあるな。』
おおよその事情を
知っているかの如く
話しを合わせる
ミゥ。
『先生、
ご存知だったんですね?。』
『ああ。
だから、最初から
私的な事情じゃ無いと
言ってるじゃないか。
それより、
盗聴していたのか?。』
『先生人聞きが悪いですよ。
"たまたま聞こえた"に
過ぎません。
先生もそうじゃ
ありませんの?。』
『ティタの言う通り、
私は地獄耳だからな。
聞こえてしまった物は
仕方がない。』
二人が
不穏当な会話を
している少し後ろでは
迩椰が
慧人に向かって
走り出しそうなところを
必死に抑える
夏の姿があったのだった。
少し早目に到着した
慧人は
時間を確認しようと
携帯端末を
取り出したのだが
画面を開く前に
声が掛けられる。
『お待たせ。
少し遅くなっちゃったかな?。』
千陽が慧人に
声を掛ける。
『いや、
まだ約束の時間より
少し早いくらいだ。
それに俺も
丁度、今来たばかりだ。』
『プッッ!。フフ。』
千陽が慧人の答えに
少し吹き出し気味に、
『慧人君でも、
キチンとデートの
待ち合わせみたいな
答えを返してくれるんだね。
ゴメン、
茶化して言ってるんじゃないの。
その、
ただの待ち合わせが
少し楽しい物に
感じて来ちゃって。
つい。』
千陽の答えに
慧人は少し
眉をよせ訝しんだが
千陽の純心な気持ちを知ると
それまでとは違い、
心のモヤが晴れるような
感覚を覚えるの
だった。
『それで?。
今日はこれから
どうするんだ?。
ここの喫茶店で
相談を聞けば良いのか?。』
喫茶店で相談があるなら
中で待ち合わせた方が
良かったんじゃないかと
思う気持ちを抑え
千陽に尋ねる。
『ええと、
今日はね
一緒に行って欲しい所が
あるの。
追て来てくれる。』
そう告げると
千陽は
スクランブル交差点の
方向へ歩き出したのだった。
スクランブル交差点を
左手に曲がり
少し歩いた先に
年代を感じさせる
大きな建物があった。
『病院か……。』
慧人はその建物を
見上げ一言だけ呟く。
『こっちよ。』
千陽はエレベーターを
使わず
その脇の階段を登って
行く。
7階まで登り
全く人気の無い
1人部屋の区画
その一室に案内される。
入口には病院では
明らかに珍しいと言っていい
I.D.認証のカードスロットが
ついた施錠がされており、
其処に千陽は自分の持つ
カードキーをスキャンして
中へと入って行く。
中へ入ると
もう一枚扉があり
千陽はノックする。
『どうぞ。』
『千輝、
具合はどう?。』
千陽は優しい笑顔を作り
千輝と呼んだ少女の傍らまで
歩むと、その少女の手を取った。
『お姉ちゃん、
今日は結構調子良いんだ。
こうして身体を起こして
いられるくらいに。
ところで、
其方にいらっしゃる方は
どちら様ですか?。』
透き通るような
真っ白な肌の
長い黒髪が美しい
日本のお伽噺に出て来そうな
お姫様を思わせる
美少女が弱々しい笑顔と声音で
慧人の事を尋ねてくる。
『あたしのクラスメイトの
真流君。』
『千陽さんの
クラスメイトの
真流 慧人です。』
『わたしの
妹の千輝。』
『向井田 千輝(むかいだ ちあき)
です。
よろしくお願いします。
千輝って呼んで下さいね。 』
『ああ。
俺の事も慧人と
呼んでくれて構わない。』
慧人は簡単に
自己紹介する。
彼には珍しく
屈託の無い笑顔を
千輝に向けている。
『それで
お姉ちゃん、
慧人さんは
その…彼氏さん…ですか?。』
前半は千陽に向け
後半は慧人にも向ける様
ズバリな質問を投げかける
千輝。
『ち、違うわよ
ただの
ク、クラスメイト
なんだから
………………もぅ。』
『ウフフ…。』
耳まで真っ赤になって
頭から湯気でも出そうな
勢いで、
両手を振りながら
否定する千陽の姿を
口を隠すように
手を当て
お上品に笑う千輝。
『ちょっと、
慧人君も何か言いなさいよ。
もう。』
『うん?。
ああ、
ただのクラスメイトだ。』
『ウフフ………。』
千陽が慧人に
照れ隠しも兼ねて
答えを促すのだが、
慧人はあっさり、
大した感慨も無く
答えてしまうのだった。
その様子を見て
もう一度、
今度は目尻に少し
涙を溜め笑ってしまう
千輝。
『もう、
笑い過ぎよ。
やんなっちゃう。』
『お姉ちゃん、
怒らないで。
ゴメンね。慧人さんも。
なんだか
可笑しくて。ウフフ。』
『もう。
私、花瓶の
お水替えて来る。』
終いには
照れ臭くなり
花瓶の水替え等と言い
この場を逃げ出してしまう
千陽。
千陽が病室から出て行くと
千輝が慧人に話し掛ける。
『慧人さん。
あんなお姉ちゃんですけど
よろしくお願いします。』
『ん?。
よろしくと言われてもな。
君のお姉さんには
皆、かなわない様だぞ?。』
慧人が両手を広げ、
肩を竦ませるポーズで
首を振りながら
溜め息混じりに答える。
その仕草を見て
千輝はまた吹き出すように
話し掛ける。
『ウフフ。
お姉ちゃんが
聞いてたら、
また も~うって
怒っちゃいますよ。
ウフフ…。』
『…………。
違い無い。』
『慧人さんて、
面白い人なんですね。
ウフフ……。』
『そんな風に
言ってくれるのは
君くらいのものだ。
俺は至極、
つまらないヤツだと
自分では思っているのだが。』
『ううん。
そんな事無いです。
お姉ちゃんが
慧人さんを此処に
連れて来た意味が
解った気がします。』
『俺は
びっくりしたよ。
こんな身近な場所に
麗しの姫君が
囚われて居るなんて
夢にも想わなかった
からな。』
歯の浮くような
台詞をしれっと吐き
少しオーバーな
アクションを付け
ワザと軽い男を演じて
見せる慧人。
それは何かを試して
いるかの様に。
『いやだ。
ウフフ…。
もう、お世辞が
過ぎますよ。
でも、
ありがとうございます。
慧人さんに
言われると
なんだか素直に
受けとれます。』
下手な演技に
興じても、
千輝の目は
真っ直ぐ
真意を見透かしてしまう。
『かなわないな。』
それを聞いて
慧人はもう一度
やれやれと
溜め息をつく。
『慧人さん。
ホントに
お姉ちゃんの
彼氏さんじゃ無いんですか?。』
『ああ。』
『ふぅ~~~ん。
そーなんですね。
そっか~~。
ね、慧人さん?。』
『うん?。』
『握手して
貰えませんか?。』
『ああ
構わない。』
千輝が
ニコニコしながら
小さな手を差し出す
真っ白で細く綺麗な指を
慧人の大きな
ガッシリとした手が
ゆくっりと優しく
握り締める。
千輝は握手している
右手に、
空いていた
左手も加え
両手でしっかりと
慧人の大きな手を
包み込んだ。
慧人の掌の温もりが
千輝の透き通る様な
真っ白な指先から
次第に流れ込んで行く。
二人の心は
見えない糸に似た何かで結ばれ、
その時は
まだ不確かな形のまま
お互いの心に小さな光を
宿すのだった。
『慧人さん、
またお見舞いに
来ていただけませんか?。』
千輝は少し
潤んだ瞳で
慧人に懇願する。
『ああ。
……………………
そうしたい所なんだが
この病室は
セキュリティーがな…。』
『それなら大丈夫です。
慧人さんの事
覚えましたので
何時でもいらして下さいね。』
腑に落ち無い
千輝の言葉だったのだが、
おおよその意味を
悟った慧人は
約束を交わす。
『そうしよう。』
千輝はニッコリ
笑顔で返す。
慧人も優しい笑顔で
それに答えた。
其処へ
花瓶の水替えを
終えて
千陽が病室へと
戻って来る。
『こらっ!。
慧人君。
私の妹に
変なちょっかい
出さないでくれる?。』
言葉はキツイが
少し冗談混じりの
柔らかい口調で
千陽が慧人を嗜める。(たしなめる)
『お姉ちゃん、
違うの
私が慧人さんに
握手してって
頼んだの。』
『分かってるわよ。
解ってても
この一言は
言わずにはいられ
ないのよ。もう。』
『いやだ。
お姉ちゃんたら。』
……………………
………………
…………
しばらく三人は
楽しい雑談に興じ
一頻り(ひとしきり)笑った後
千陽と慧人は
病室を後にした。
病院を出ると
千陽に誘われ
最近この区画に
建ったばかりの
高層商業ビルへ向かい
その中階層30階の
オープンガーデンへと
足を運んだ。
慧人と千陽は
フェンス越しに
オレンジ色に染まる
夕焼けを眺めながら
静かに語らう。
しかし、その内容は
恋人達のそれとは
少しばかり
感情の異なる物だった。
『ねぇ慧人君
千輝、
とても良い娘だったでしょ。』
『ああ、そうだな。』
『今日は
体調が良かったけど、
何時もは上体を起こせ無い程
酷い時もあるの。
ねぇ?。
理不尽だと思わない?。
あんな良い娘が
あんな辛い思いをしている
なんて。
そんな事を
考えると
眠れなかったり
心が張り裂けそうに
なったり………。』
千陽は
涙を堪えるように
鼻をすすり
慧人に
訴える。
慧人はその言葉を
夕日を見つめながら
少し険しい視線で
聴き入っている。
しかし言葉は
発しない。
『だから
私、千輝の為だったら
何でもしてあげたいと
思うの。
どんな事をしてでも
病気を治してあげたいと
思っているの。
私の言ってる意味
解ってくれる?。
慧人君。』
千陽は切羽詰まった様に
慧人に訴え掛ける。
『俺は
お前の家の事情は
分からない。
そこを
とやかく言うつもりも無い。
お前の
妹に対しての
気持ちは解った。
だが、
お前がやろうとしている事を
全て黙認するかどうかは
分からない。』
慧人は言う。
千陽がこれから
やろうとしている事の
内容をまるで
把握しているかの如く。
『分かった。
それでも
私はやらない訳には
行かない。
ねぇ慧人君
私の妹、千輝
凄く可愛いかったでしょ?。』
『そうだな。
………………………。
出来る事なら
俺も、千輝の
病気を治す手助けを
してあげたいと
思う。』
『やっぱり、
慧人君を千輝に
会わせて良かったな。
慧人君。
…………
甘いよね。』
千陽は不意に
お人好しな慧人に対して
歯に衣着せぬ
物言いを発して
しまう。
『良く言われる。』
それに対して慧人は
あっさりと
自分の甘さを
認めてしまうのだった。
『だけど、
ただ甘いだけじゃないもんね。
……………………。
きっと私はこれから先
貴方を怒らせる様な事を
してしまう。
それを許してくれとは
言えない。』
『千陽
俺は、お前の事を
敵だとは
思っていない。
これだけは
覚えておいて欲しい。』
◇その頃
後を尾けていた
三人組と一人は◇
『こんな
デートスポットで
らしくない会話に
なっているんですが…。』
ティタが
まるで会話の内容を
聴いているかの様に
話す。
『ああ。
分かっていた事だが
少々、厄介な流れに
なりつつあるな。』
おおよその事情を
知っているかの如く
話しを合わせる
ミゥ。
『先生、
ご存知だったんですね?。』
『ああ。
だから、最初から
私的な事情じゃ無いと
言ってるじゃないか。
それより、
盗聴していたのか?。』
『先生人聞きが悪いですよ。
"たまたま聞こえた"に
過ぎません。
先生もそうじゃ
ありませんの?。』
『ティタの言う通り、
私は地獄耳だからな。
聞こえてしまった物は
仕方がない。』
二人が
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している少し後ろでは
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ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
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