ドリームミュージカル

ぱっりん

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高校一年生、桜川高等学校合唱部

6話「パート決めの不満」

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 春祭りから、二日経って、私と歌乃は、
 放課後、部室へ向かった。
 港先生は、パート決めって言ってたなあ。
 というか、合唱部のパートってなに?
 コンクールとかあるのかな?
 色々疑問はあるものの、歌乃がいるだけで心強かった。
「お!!ルアー!」
 心と花が走って来る。
「お友達も一緒?一緒に部室までいかない?」
 ニコリと笑いかける心。
 歌乃はすこし口角を上げて、
「こんにちは、歌乃と申します」
 と自己紹介した。
「OK、歌乃ね!よろしく、歌乃!」
 花がウインクする。
 よくここまでコミュニケーション能力があるものだ。
 花に尊敬してしまう。
 一年は部内で、 星子という女の子、私、歌乃、花、心、
 他10人ほどという、あまりいない。
 それもわかる。合唱って、なんというか...。
 うん、キラキラしてなさそう、と思ってしまう、失礼だけど。
 部室のドアを開く。
 一年のくせに遅れてくるなんて禁句だから、10分前に来た。
 前あった、パイプ椅子がなく、私達4人は困惑した。
 しばらく困惑して、三分ほどしたころ、
 雪葉がやってきた。今日は、後ろに見空がいない。
「おお!一年、いつ来てたの?関心だよー。」
 初めはニコニコしてた雪葉は、途中で、どこかから持ってた
 笛を鳴らした。「じゃあ、パイプ椅子並べて!倉庫にあるから。
 一年の仕事よー」
 そう言って部長は、ドアにもたれかかって、倉庫を指さした。
「そ、そうだったんですか...」
 まあまあ多い合唱部のパイプ椅子は、七分しかない時間のなか、
 なんとか並べれた。私達は息絶え絶えだった。
 一個は軽いパイプ椅子も、何個も集まると疲れる。
 束の力を知った。
 歌乃は、雪葉に、声をかけた。「椅子とかって、場所は決まりあるんですか?」 
「今はないよ。パート分けしてからは席変わるかも。」
 そして、一番前の一番端っこに、雪葉はコトンと座った。
 私達は一年なのもあって、遠慮してしまい、4人で一番後ろの左端を座った。
 そのあと、女の子がやってきた。
 星子だ。私達と同じ一年生。リボンは普通科。でも、
 前歌った時、彼女は後ろだったので、耳に歌声が入った。
 とても、綺麗だった。
 星子は、前には三年、後ろは一年なのをみて、暫く悩んだ後、
 一番端っこの右端に、もたれかかった。
 その直後、ゾロゾロと部員が来て、その中に
 見空たちもいた。
 見空は、雪葉の隣を座ろうとしたが、他の三年生に、取られたようで、
 その三年生の隣を、座った。
 ガラガラ...
 部員がそろった頃、かたんと開いたドアから、三十代の、イケメンが入ってきた。
 港先生だ。
 港先生が入ってきた瞬間、歌乃がピクッとして、
 背筋をピンとしたのを見た。いい子ちゃんぶりますな...
 トコトコと、後ろのドアから入ってきた港は、
 左端に座っていた歌乃を通り抜け、一番前にスタスタ歩いた。
「皆さん、こんにちは。港です。3日ぶりですが、
 歌は上達していますか。」
 優しい、ふわふわした声で、喋られると、金曜のあれは、
 嘘だったのではないかと疑う。
 それは他も同じだったようで、みんな、
 良い先生ぽくね?という声が聞こえていた。
 港は、ザワザワしてる部室に、手を叩き、パン!という
 音を響かせて、長い手を伸ばし、黒板の白いチョークを手に持った。
 黒板に、スラスラと、綺麗な字で、パート分けと書かれる。
 そして、メロディー、コーラス、そしてAパートBパートと書いていく。
 チョークをおくと、港は、
「ではみなさんに説明します。まずは、メロディー。歌の本筋を歌う人ですね。
 つまり普通に歌詞を歌うわけです。」と、今度はピンクのチョークで、メロディーとかかれた字の下に、説明を書いていく。「次に、コーラス。これは響かせるように、高い声で、歌うのです。例えば、誰かが、飛んでゆきたいよ~などと歌ったら、コーラスは、そのあと、ゆきたーいーよーと、伸ばすように、
甲高い声で反射させるのです。」チョークで、コーラスの下に書き、チョークをおくと「AパートとBパートは分かってる人も多そうですね。例えば、例えですが、一番がAパート、二番がBパートだった場合、合唱だと、ずっと歌い続けるのは難しいんです。なので、AとBで、歌う人を交代する必要があります。
これが、
AパートとBパートです。」
優しく微笑む港は、手を、腰につけて、
「じゃあ、決めましょう。
多い部門は、オーディションで。」
ニコニコとして、笑う港。Aパートは無理でもBパートがありますから、と
言う。隣に座る歌乃の耳に、小さな声で、「歌乃は、メロディーとコーラス、どっちにするの」
と尋ねた。すると歌乃は口の前に人差し指をやって、秘密、と呟いた。
私は、コーラスにしようかな。メロディーとか緊張するし。
と思った。本当は気になるメロディーだけど、
私みたいな、今年で声楽、8年目なのに、別にあまりな、私より、
本当にミュージカルにでてた事があって、華やかな歌乃や、可愛くて、無邪気な、花と心がやるべきだ。
港はちいさく、でも部室内には響く声で
「..私は見たことがあります。コーラスをしたいけどメロディーにして、
結局楽しくなくなる人を。後悔するような選択は、しないのがいいでしょう」と
ちょっぴり真剣な顔で言った。
それからはニコニコしていた。
「ではまず、メロディーをやりたい人!全員目を瞑って手をあげてください。」
友達がやってるのを見て、やりたい!という人を防ぐためだろうか?
私は、目を瞑って、暗闇の中、考えた。《後悔するような選択は...》あの
言葉を思い出し、手を、上げてみた。
聞こえてくるのは、手を、あげることによる
制服の音と、皆の、息の音だけだった。
...30秒たったころ、港先生が、はいっといった。
手を、下ろしてパチリと目を開ける
「...メロディー、多いですね。」
見回す港。そして、「オーディションを、実施します」
強気な表情でいった。
コーラスパートだったひとは、副顧問の先崎先生にやってもらってくださいと告げ,さっき
手をあげた人は、こっちへ、と、音楽室まで連れて行った。
そこに歌乃はいなかった。
歌乃はコーラスだった。花と心はそれぞれ別々に
花は、メロディー、心は、コーラスだ。
オーディション.....。
一応人生の半分は歌と過ごしてきたが、
それ以上の子がいるかもしれない。
メロディーの中には、三年の雪葉もいた。
先生が、並んでというので並ぶ。
私は五番目だ。一番は雪葉だった。
「では、三年生の、雪葉さん、翼をくださいを歌って下さい」
翼を下さい。高音域が多く、低音域のひとには不利だと思われがちだが、
ナチュラルな高音域ではなく、作ったかのような高音域なので、
低音域も普通に太刀打ちできる。
小学校などで良く、歌うと思うが、
小学生の歌は当たり前だが完璧じゃない。
翼を下さいを本気で真似るならば、
リズム感だけでなく、歌詞の暗記はともかく
声のコントロールがいる。
こういうのは年を重ねれば出来るわけではない。
雪葉はどうなるのだろうか。
1秒、心配などなくなった。まるで溶けて消えるアイスクリームのように。
雪葉の翼を下さいは、隙がなかった。
彼女のどこに攻撃をしても、多分、負ける。
高音域は、あの、わざとらしい感じと、切なさを抜群に引き出し、
最後の、消えてなくなるかのような言い方、本物そっくりなのに、
そこに、色々とエッセンスを加え、自分らしくしている。
これを、不合格なんて、できるのか。いや...出来ない。
これで不合格になったら、私なんて、不合格どころか、オーディションを
受ける資格もないレベル。
勿論合格。あっさりと。
というか、いきなり告げるのか。
そして、次のひとは、不合格、そのあと合格、不合格、そして次は私。
まずは、分析した。この歌に込められた気持ち。歌い方。
自分なりのベストが掴めた気がして歌い出した。
怖かった。だが、合格。
嬉しい、久しぶりにとても嬉しい気持ちを感じた。
掴み取る快感とはこれか。
次は星子だった。
一番しか歌わないので、すぐ終わる上に、
更に、ミュージカル科があるだけあって、
音楽室は広かった。
星子の歌は良かった。しかし...
オリジナリティ、星子である必要性がない、と私は感じる歌だった。
「星子さん...不合格、です。」
毎回気まずそうに告げる港。
それも当然だ。星子が、目を見開く。
音楽室のドアに向かって、歩いてくる。
「悔しい、悔しい、ありえない、」と泣きながら。
絶対納得していない。
気まずい...
あんなに、伝えなくてもいいのに。
港に対する妥協案を、心で浮かべながら、
音楽室を出て行った。

つづく
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