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高校一年生、桜川高等学校合唱部
36話「近づく」
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雪葉が、倒れて救急車に運ばれた。
それは、部にとって最も大きな異変であり、
悲しみであった。
倒れた時、一つ、思った。
ーママにやられたのー
あの、首締め、...だけじゃないのでは。
倒れて、吐く…熱はない。
そんなの、何かが起こったにしょうがない。
救急車のピーポーと言う音だけが、
部室には響き渡った。
ぎゅっと拳を握る。
雪葉は、大丈夫なのだろうか。
苦手な先輩だった。
だけど、笑ったり、泣いたり、思い返せば、雪葉とは
色々あったのだ。
「皆さん」
港が何かを話そうとする。それを、
誰かの、皆さんと言う声で遮った。
そして、部員が驚愕した。
見空だ。
「部長が運ばれて、不安で押しつぶされそう。
そんな気持ちは、分かります。
でも、雪葉は、私達の姉や、先輩ではないんです。
同じ部員なんです。
もし、雪葉が、二度と、この学校に
来ることがないとしても。
信じながら私達は、コンクールの練習をするしかない。
そう思っています。
私達は、部長がいないと無力なんですか?
そしたら、来年どうするんですか?
来年も、部長がもし倒れたら。
...コンクールの練習をしましょう。」
見空の言葉が、ずうんと、胸にのしかかる。
そうだ、私達には、来年もあるのだ。
雪葉だけに、のしかかってちゃだめだ。
練習が再開する。
星空の麗はいつもより、心なしか悲しい雰囲気だった。
合唱が終わると、個人練になるのだが、
もう後何ヶ月かで、入学試験なので、
レッスンに通う日々で、個人練には参加できなかった。
寮に、カードキーで入って、エレベーターで、一階に向かう。
チーンという、昔のエレベーターのような音を聞いて、
扉からでる。
声楽教室、ピアノ教室、ミュージカル教室。
三つ並んだ教室の隣には不自然な空白があった。
「あれね、昔はバレエ教室があったらしいよ。
寮だとずっと練習しちゃうからってなくなったらしいけど」
ひょこっと歌乃が顔を覗く。ケケケ、と笑う彼女は、いつも通りだ。
「歌乃」
「ルア今日ずっと浮かない顔だよ。雪葉先輩と仲良いもんね」
大丈夫と言いながら、歌乃が、頭を撫でる。
さわり、とした感触に思わず目を閉じる。
「ありがとう。
歌乃は、バレエ教室とか、どこ行ってんの?」
「オンラインレッスン」
えっと思わず声を出す。確かに、便利な物だらけな今なら
オンラインでも問題ないだろう。
「お気に入りの先生に教わりたいから」
歯を見せず、綺麗に笑う彼女は、
流石元ミュージカルスター、歌乃だ、としか言えない。
自分が今からミュージカルスターを目指そうとしているのに、
隣には元ミュージカルスターがいる。
当たり前だったことに、
どこか恐怖を感じる。
入学試験では、歌乃と戦わなくては行けない。
冴えないし、ヘアセットに不便な癖っ毛の、更に全て小3からの、
女の子と、
元ミュージカルスターで、サラサラとした黒髪で、整った容姿の歌乃。
どちらを取るかは明らかだ。歌乃だ。
「歌乃もライバルだね」
少し皮肉そうに言ったその言葉に歌乃は、微笑むだけだった。
歌乃が、ミュージカル教室に入っていく。
流石にそういうのは利用者するのだろう。
ルアは、ピアノ教室に入る。
「こんにちは」
ピアノの先生と挨拶する。
青野ゆりか。
元、劇団宇宙の劇団員でもある、ピアノ講師。
31歳の彼女のピアノ歴は、二歳からなので、
29年である。
練習していた曲をひく。
劇団宇宙の入学試験で弾く曲だ。
「はい!そこまでえーとここはさー」
細かい指導が続く。そのたびに実感する。
入学試験はもうすぐそこだ。
だけど、雪葉は倒れた。コンクールもある。
改めて、ルアは、歌乃と戦う恐怖と、
両立せねば、というプレッシャーに押しつぶされそうになった。
つづく
それは、部にとって最も大きな異変であり、
悲しみであった。
倒れた時、一つ、思った。
ーママにやられたのー
あの、首締め、...だけじゃないのでは。
倒れて、吐く…熱はない。
そんなの、何かが起こったにしょうがない。
救急車のピーポーと言う音だけが、
部室には響き渡った。
ぎゅっと拳を握る。
雪葉は、大丈夫なのだろうか。
苦手な先輩だった。
だけど、笑ったり、泣いたり、思い返せば、雪葉とは
色々あったのだ。
「皆さん」
港が何かを話そうとする。それを、
誰かの、皆さんと言う声で遮った。
そして、部員が驚愕した。
見空だ。
「部長が運ばれて、不安で押しつぶされそう。
そんな気持ちは、分かります。
でも、雪葉は、私達の姉や、先輩ではないんです。
同じ部員なんです。
もし、雪葉が、二度と、この学校に
来ることがないとしても。
信じながら私達は、コンクールの練習をするしかない。
そう思っています。
私達は、部長がいないと無力なんですか?
そしたら、来年どうするんですか?
来年も、部長がもし倒れたら。
...コンクールの練習をしましょう。」
見空の言葉が、ずうんと、胸にのしかかる。
そうだ、私達には、来年もあるのだ。
雪葉だけに、のしかかってちゃだめだ。
練習が再開する。
星空の麗はいつもより、心なしか悲しい雰囲気だった。
合唱が終わると、個人練になるのだが、
もう後何ヶ月かで、入学試験なので、
レッスンに通う日々で、個人練には参加できなかった。
寮に、カードキーで入って、エレベーターで、一階に向かう。
チーンという、昔のエレベーターのような音を聞いて、
扉からでる。
声楽教室、ピアノ教室、ミュージカル教室。
三つ並んだ教室の隣には不自然な空白があった。
「あれね、昔はバレエ教室があったらしいよ。
寮だとずっと練習しちゃうからってなくなったらしいけど」
ひょこっと歌乃が顔を覗く。ケケケ、と笑う彼女は、いつも通りだ。
「歌乃」
「ルア今日ずっと浮かない顔だよ。雪葉先輩と仲良いもんね」
大丈夫と言いながら、歌乃が、頭を撫でる。
さわり、とした感触に思わず目を閉じる。
「ありがとう。
歌乃は、バレエ教室とか、どこ行ってんの?」
「オンラインレッスン」
えっと思わず声を出す。確かに、便利な物だらけな今なら
オンラインでも問題ないだろう。
「お気に入りの先生に教わりたいから」
歯を見せず、綺麗に笑う彼女は、
流石元ミュージカルスター、歌乃だ、としか言えない。
自分が今からミュージカルスターを目指そうとしているのに、
隣には元ミュージカルスターがいる。
当たり前だったことに、
どこか恐怖を感じる。
入学試験では、歌乃と戦わなくては行けない。
冴えないし、ヘアセットに不便な癖っ毛の、更に全て小3からの、
女の子と、
元ミュージカルスターで、サラサラとした黒髪で、整った容姿の歌乃。
どちらを取るかは明らかだ。歌乃だ。
「歌乃もライバルだね」
少し皮肉そうに言ったその言葉に歌乃は、微笑むだけだった。
歌乃が、ミュージカル教室に入っていく。
流石にそういうのは利用者するのだろう。
ルアは、ピアノ教室に入る。
「こんにちは」
ピアノの先生と挨拶する。
青野ゆりか。
元、劇団宇宙の劇団員でもある、ピアノ講師。
31歳の彼女のピアノ歴は、二歳からなので、
29年である。
練習していた曲をひく。
劇団宇宙の入学試験で弾く曲だ。
「はい!そこまでえーとここはさー」
細かい指導が続く。そのたびに実感する。
入学試験はもうすぐそこだ。
だけど、雪葉は倒れた。コンクールもある。
改めて、ルアは、歌乃と戦う恐怖と、
両立せねば、というプレッシャーに押しつぶされそうになった。
つづく
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