異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
44 / 332

43話 「揚げ物食べたい」

しおりを挟む
時は流れ季節は秋となる。

かつてバクスの宿があった空き地。そこには既に大きな馬小屋と、馬車の停留所が完成していた。
 中ではアンジェが飼い葉を食べつつ、時々加賀から料理をもらいゆったりと過ごしている。
 毎日と言うわけではないが、それなりの頻度で出かけるようになったため、アンジェは以前より充実した生活を送っているようだ。

そしてメインの宿本体は現在基礎工事が始まったところである。
バクス、八木、そしてモヒカン。三者がすぐ連絡を取り打ち合わせを出来る状態にあったのがよかったのかもしれない。
 建物の設計は八木の予想をはるかに超えた速度で完了した。

 空き地では大きく掘り返された穴に何かを流し込む作業が行われており、その傍らでは図面を見つつ、八木とモヒカンが作業員へと適時指示を出していた。
この世界にもきっちりコンクリートは存在するようで、基礎はコンクリと鉄筋を使用したものになるとのこと。

 作業は順調で冬になる前には基礎工事は終わる見込みである。
それ以降は天候と職人の習熟しだいとの事だが、堅物そうなモヒカン曰く春ごろになるのでは?とのことだ。

 図面を眺める二人の背後から一人の人物が近づき声をかける。

 「八木ー。お昼できたよ」

 「おっ、もうそんな時間かー」

 「いつもすまいね、お嬢ちゃん」

 何度言ってもなおらないお嬢ちゃんという呼び方。
 加賀はその呼び方にもモヒカンにも慣れたのか、作業員に飯だぞと声を張るモヒカンの姿に苦笑しつつ仮設小屋へと入っていく。

この仮設小屋は作業員の休憩所として建てられたもので、事務所は食事処も兼ねている。
 食事を用意するのは加賀だ。この国の人の好みを知っておきたいのと、自分の作る料理の味見をしてほしいという加賀の思いと、なるべく人件費を安くしたいという八木の考えが一致した結果である。


 「今日のは揚げ物と聞いていたが……みごとに茶色だな」

 「緑もありますよー、ほら付け合わせのキャベツとか。サラダとか」

うー(この黒っぽいどろっとしたのかけて食うんかの)

 仮設小屋の中ではバクスとうーちゃんがすでに準備万端で椅子に待機済みである。
 加賀が今日お昼として作ったのは揚げ物であった。かねてから八木からリクエストがあった事もあり、いつか作ろうと思っていたものだ。

トゥラウニで手に入れた各種香辛料、それにちゃっかり手に入れてたお酢。
これらを使って加賀はまずウスターソースを作っていた、そして十分寝かせたウスターソースをもとに揚げ物用のソースが完成したのがつい先日のこと。

そして肉屋のハンズからウォーボアの脂身を大量にゲットし、出来上がったのがテーブルの上にずらりと並んだトンカツである。

チキンカツや魚のフライも候補ではあったが、チキンより豚(猪)が良いという八木の要望と、魚はそこまで量が確保できないと言う理由から除外となった。

 「えっと、今日の料理はトンカツといいます。似たような料理食べたことあるかもしれませんが…えっとこちらのソースをかけて食べてみてください、香辛料結構つかってますので最初は少なめにしたほうが良いと思います」

ずらりとテーブルにならぶモヒカンを前に料理の説明をする加賀。
 慣れてきたとは言えこの数のモヒカンにじっと見られると緊張するのだろう、すこしつまずきつつ説明を行っていた。

 加賀の説明が終わるのを見計らない、堅物そうなモヒカンがでは頂くとするか、とさっそく料理に手を付ける。
それを皮切り次々に料理を口へ運ぶモヒカン。湧き上がる歓声からトンカツはかなり好評のようであった。

 「やっぱトンカツうまいな……てかこれ普通の豚よりうまいんじゃ……?」

 「お? そうなんだー?」

パンにソースをかけたカツとキャベツを挟みうーちゃんに渡す加賀。
 八木の言葉に反応し自分もぱくりとカツを口にはこぶ。

 「んっ、確かにおいしい! どっちがと言われると悩むけど……豚に負けずおいしいねー」

 加賀が食べてみたところ風味こそ違うものの、ラードで揚げられた衣はさくさくと香ばしく、肉は柔らかくジューシーに仕上がっている。
そして何より脂身がぷるぷるしてて非常に美味しい、ここは豚と異なる点だろうか。

うー(加賀ー加賀ー)

 「ん? どったのうーちゃん」

くいくいと袖を引くうーちゃんに振り替える加賀。
そんな加賀にうーちゃんは空になった皿をすっと差し出す。

うっ(おかわりほしいの)

 「食べるのはやっ。ちょっと待っててね、今追加で揚げちゃうからー」

その言葉にあちこちから俺も俺もと声があがる。
 最初は数えていた加賀だが次第にめんどくさくなり、全員分揚げれば良いかと結論付け台所へと向かう。

 「しかし……」

 「どしたんすか? 八木さん」

ぼそりとつぶやいと一言。
それに気が付いたサラダをつつく線の細いモヒカン。八木へと声をかける。

 「うまいんだけどなあ……酒ほしくなるよなあ」

 「あー、そっすねえ」

 酒、その一言にまわりのモヒカンがぴくりと反応する。

 「酒か、なるべく考えないようにしてたんだがな」

 堅物そうなモヒカンの一言。
 同調するように酒、酒とあちこちから声があがり、次第に大きくなっていく。

 「よおぉっし、お前ら! どうせコンクリ乾くまで何もできん、今日はもう終いだ!」

ばんっと膝を叩き立ちあがり声を上げる堅物そうなモヒカン。
その一言を待っていたかのように一斉に湧き上がる歓声、気が早いものはすでに財布片手に外に出してすらいる。
 酒を求めに酒屋へと走ったのだ。

そんな様子をやれやれといった様子で眺めるバクスであるが、止める様子はない。というよりすでに一人酒を飲み始めていた。


 「……なんぞこれ」

 揚げ物の乗った皿を手に持ち立ち尽くす加賀。
 自分が台所にいった十数分の間にいったい何があったのか、宴会場となった仮設小屋を前に入りあぐねている。

だが、一つ確かに分かる事がある、それは今あげた分だけでは絶対足りないだろうということ。
 加賀は意を決し皿をテーブルに置くと、歓声に押されるように再び台所に戻るのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...