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四話 部外者王子はワクワクしちゃう
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フエルストラ王国第一王子フィリップ・エル・フエルストラは、前方から足早に近づいてくる青年に気がついてはたと足を止めた。
「殿下!」
「どうした、フランソワ」
第一王子直属の騎士団員であるフランソワ・ル・ドルレアンは、フィリップの目の前まで来ると跪いて首を垂れた。
「私の個人的な要件で殿下のお時間を頂戴するご無礼をお許し下さい」
「よい、私とお前の仲ではないか」
フランソワは一介の騎士団員に過ぎなかったが、彼の兄であるローラン・ル・ドルレアンは国王陛下に仕える歴代最高の力を持った聖職者であった。ドルレアン家は代々優秀な聖職者を輩出して国家に貢献してきた家柄であり、フランソワもまたその一員として王家と近しい間柄にあった。
「北のステヴナン伯爵が王都に来ているという噂を耳にしたのですが……」
「ああ、そうだ。父王が呼び出したんだ。先日また辺境の村が襲われたらしくてな。確か半年前に襲われた村は北の辺境にあって、その後処理に当たったのがステヴナン伯爵だったから、詳しい話を聞くためだそうだ」
フィリップはまるで友人に接するかのようにフランソワの肩をポンと叩いた。
「いい加減彼と仲直りしたらどうなんだ」
「昔のことは私は気にしておりません。ただ……」
「ただ?」
フランソワは周囲に人がいないことを確認するようにちらっと辺りを見回してから、フィリップに近づいて声をひそめた。
「私の部下を一人、彼に取られておりまして」
「部下を取られた? どういうことだ?」
「セルジュ・ド・シャネルという者なのですが……」
第一王子直属の騎士団員は何百人もいるため、フィリップは当然全員の名前をいちいち覚えているわけではなかった。覚えているのは優秀であったり、逆に不祥事が多かったり、何か特徴のある人材だけであった。そしてまさにセルジュはその特徴あるグループに所属していた。
「確か君が強く推薦して入団した者だったな? オメガ性の?」
「はい、その通りでございます」
「彼は今君の隊にいないのか?」
「半年前から休職しております」
フィリップはふむ、と首を傾げた。
「半年とは長いな。なぜ休職しているのだ?」
「それが、実はセルジュが正式に休職届を出したわけではないのです」
「何?」
「半年前のフエリト村襲撃事件の際、セルジュは単独で村人の救助に向かいました。その時致命傷を負ったらしく、事後処理に当たったステヴナン伯爵が彼を見つけてステヴナン領に連れ帰ったのです。意識も戻らず満身創痍だった彼の代わりに、ステヴナン伯爵が休職願いを出してきた、という流れになります」
フランソワはそこでさらに声をひそめた。
「しかしこの半年の間、何度も使いを出したにも関わらず、一度もセルジュの安否を確認することはできませんでした。ステヴナン伯爵は私に対して頑なに門戸を閉ざしており、私はセルジュが目覚めたのかも、どれほどの傷を負っているのかも、今どのような状況なのかもさっぱり分からないのです」
「それは確かにおかしな状況だな」
だが辺境伯の力はかなり大きく、第一王子といえども迂闊に手出しのできる相手ではなかった。そもそもフィリップにとってセルジュは一介の騎士団員に過ぎず、辺境伯を無駄に刺激してまで取り返さなければならない人材というわけでもない。
「それなら、父王の用事が済んだ後引き止めるよう伝えておくから、一度直接話してみてはどうか。彼の領地に無理矢理押し入ることはできないが、私もできる限り君に協力しよう」
◇◆◇
その三日後、フィリップは約束通り、王城の一室に引き留めていたクロードにフランソワを会わせてくれた。
「国王陛下及び第一王子殿下の命だというからここにいるが、俺は急いでいるしお前に何の用も無い。要件をさっさと言え」
相変わらず太々しいクロードの態度にカチンと来たが、フィリップの手前フランソワは感情を押し殺して深々と頭を下げた。
「お忙しいところお時間を作っていただきありがとうございます。ステヴナン伯爵」
「だから要件は何だ」
「……セルジュは今どのような状態なのですか?」
クロードは冷たい目でフランソワを睨んだ。
「先日ようやく目覚めた」
「! それは良かっ……」
「だが記憶が曖昧で混乱している。まだしばらくは動けそうにない」
「それでは今度見舞いに……」
「不要だ」
フランソワはぐっと歯を食いしばった。
「それは貴方が決めることではないでしょう?」
「なぜだ? 彼がいるのは俺の居城だ。来訪者の選別は俺がする」
「まあまあステヴナン伯爵、君のところにいる彼はフランソワの部下なんだ。きっとそのセルジュ君とやらも彼に会いたいだろうし、仕事のことも気になってるんじゃないか?」
クロードはフィリップに向き直って深く頭を下げた。
「お言葉ですが殿下、セルジュはまだ容体が安定しておりません。致命傷を負っておりますし、何より精神的な傷が深い。しばらく面会は謝絶させていただきたいのです」
「しかし、実際に彼を見なければ、彼が今本当にどういう状態なのか分からないじゃないですか」
クロードはさらに鋭い視線をフランソワに向けた。
「何が言いたい? 俺が何か隠しているとでも?」
「貴様なら悪意を持ってやりかねない、ということです」
クロードはふん、と鼻を鳴らした。
「それは貴様の方だろ」
そう言い捨てると、クロードはフィリップに一礼してから、黒いマントを翻してつかつかと部屋から出て行ってしまった。
「……行ってしまったな」
フィリップはそう言いながらフランソワを見てギョッとした。無意識なのか、額に残る古傷を指で揉んでいるフランソワは、普段の温和な彼からは想像もつかないような憎しみのこもった表情をしていた。
(そういえば、あの傷は昔クロードとやり合った時にできたものだと聞いたことがあるが、一体どうしてこの二人はこんなに仲が悪いんだ? そもそもフランソワは、なぜたかだか部下の一人でしかないセルジュとかいうオメガをここまで気にする? ん、待てよ……)
そこまで考えたフィリップは、はっと思い至って両手で口を覆った。
(フランソワの部下に、美貌のオメガがいると噂に聞いたことがある。てっきり女騎士のことだと思ってたけど、ひょっとして彼の事なんじゃ……? ということは、二人の因縁というのは痴情のもつれ!?)
「殿下」
なぜか少しワクワクと妄想を膨らませていたフィリップは、フランソワに声をかけられてビクッと肩を震わせた。
「な、何だね?」
「お願いがあります。聞いていただけますでしょうか?」
「殿下!」
「どうした、フランソワ」
第一王子直属の騎士団員であるフランソワ・ル・ドルレアンは、フィリップの目の前まで来ると跪いて首を垂れた。
「私の個人的な要件で殿下のお時間を頂戴するご無礼をお許し下さい」
「よい、私とお前の仲ではないか」
フランソワは一介の騎士団員に過ぎなかったが、彼の兄であるローラン・ル・ドルレアンは国王陛下に仕える歴代最高の力を持った聖職者であった。ドルレアン家は代々優秀な聖職者を輩出して国家に貢献してきた家柄であり、フランソワもまたその一員として王家と近しい間柄にあった。
「北のステヴナン伯爵が王都に来ているという噂を耳にしたのですが……」
「ああ、そうだ。父王が呼び出したんだ。先日また辺境の村が襲われたらしくてな。確か半年前に襲われた村は北の辺境にあって、その後処理に当たったのがステヴナン伯爵だったから、詳しい話を聞くためだそうだ」
フィリップはまるで友人に接するかのようにフランソワの肩をポンと叩いた。
「いい加減彼と仲直りしたらどうなんだ」
「昔のことは私は気にしておりません。ただ……」
「ただ?」
フランソワは周囲に人がいないことを確認するようにちらっと辺りを見回してから、フィリップに近づいて声をひそめた。
「私の部下を一人、彼に取られておりまして」
「部下を取られた? どういうことだ?」
「セルジュ・ド・シャネルという者なのですが……」
第一王子直属の騎士団員は何百人もいるため、フィリップは当然全員の名前をいちいち覚えているわけではなかった。覚えているのは優秀であったり、逆に不祥事が多かったり、何か特徴のある人材だけであった。そしてまさにセルジュはその特徴あるグループに所属していた。
「確か君が強く推薦して入団した者だったな? オメガ性の?」
「はい、その通りでございます」
「彼は今君の隊にいないのか?」
「半年前から休職しております」
フィリップはふむ、と首を傾げた。
「半年とは長いな。なぜ休職しているのだ?」
「それが、実はセルジュが正式に休職届を出したわけではないのです」
「何?」
「半年前のフエリト村襲撃事件の際、セルジュは単独で村人の救助に向かいました。その時致命傷を負ったらしく、事後処理に当たったステヴナン伯爵が彼を見つけてステヴナン領に連れ帰ったのです。意識も戻らず満身創痍だった彼の代わりに、ステヴナン伯爵が休職願いを出してきた、という流れになります」
フランソワはそこでさらに声をひそめた。
「しかしこの半年の間、何度も使いを出したにも関わらず、一度もセルジュの安否を確認することはできませんでした。ステヴナン伯爵は私に対して頑なに門戸を閉ざしており、私はセルジュが目覚めたのかも、どれほどの傷を負っているのかも、今どのような状況なのかもさっぱり分からないのです」
「それは確かにおかしな状況だな」
だが辺境伯の力はかなり大きく、第一王子といえども迂闊に手出しのできる相手ではなかった。そもそもフィリップにとってセルジュは一介の騎士団員に過ぎず、辺境伯を無駄に刺激してまで取り返さなければならない人材というわけでもない。
「それなら、父王の用事が済んだ後引き止めるよう伝えておくから、一度直接話してみてはどうか。彼の領地に無理矢理押し入ることはできないが、私もできる限り君に協力しよう」
◇◆◇
その三日後、フィリップは約束通り、王城の一室に引き留めていたクロードにフランソワを会わせてくれた。
「国王陛下及び第一王子殿下の命だというからここにいるが、俺は急いでいるしお前に何の用も無い。要件をさっさと言え」
相変わらず太々しいクロードの態度にカチンと来たが、フィリップの手前フランソワは感情を押し殺して深々と頭を下げた。
「お忙しいところお時間を作っていただきありがとうございます。ステヴナン伯爵」
「だから要件は何だ」
「……セルジュは今どのような状態なのですか?」
クロードは冷たい目でフランソワを睨んだ。
「先日ようやく目覚めた」
「! それは良かっ……」
「だが記憶が曖昧で混乱している。まだしばらくは動けそうにない」
「それでは今度見舞いに……」
「不要だ」
フランソワはぐっと歯を食いしばった。
「それは貴方が決めることではないでしょう?」
「なぜだ? 彼がいるのは俺の居城だ。来訪者の選別は俺がする」
「まあまあステヴナン伯爵、君のところにいる彼はフランソワの部下なんだ。きっとそのセルジュ君とやらも彼に会いたいだろうし、仕事のことも気になってるんじゃないか?」
クロードはフィリップに向き直って深く頭を下げた。
「お言葉ですが殿下、セルジュはまだ容体が安定しておりません。致命傷を負っておりますし、何より精神的な傷が深い。しばらく面会は謝絶させていただきたいのです」
「しかし、実際に彼を見なければ、彼が今本当にどういう状態なのか分からないじゃないですか」
クロードはさらに鋭い視線をフランソワに向けた。
「何が言いたい? 俺が何か隠しているとでも?」
「貴様なら悪意を持ってやりかねない、ということです」
クロードはふん、と鼻を鳴らした。
「それは貴様の方だろ」
そう言い捨てると、クロードはフィリップに一礼してから、黒いマントを翻してつかつかと部屋から出て行ってしまった。
「……行ってしまったな」
フィリップはそう言いながらフランソワを見てギョッとした。無意識なのか、額に残る古傷を指で揉んでいるフランソワは、普段の温和な彼からは想像もつかないような憎しみのこもった表情をしていた。
(そういえば、あの傷は昔クロードとやり合った時にできたものだと聞いたことがあるが、一体どうしてこの二人はこんなに仲が悪いんだ? そもそもフランソワは、なぜたかだか部下の一人でしかないセルジュとかいうオメガをここまで気にする? ん、待てよ……)
そこまで考えたフィリップは、はっと思い至って両手で口を覆った。
(フランソワの部下に、美貌のオメガがいると噂に聞いたことがある。てっきり女騎士のことだと思ってたけど、ひょっとして彼の事なんじゃ……? ということは、二人の因縁というのは痴情のもつれ!?)
「殿下」
なぜか少しワクワクと妄想を膨らませていたフィリップは、フランソワに声をかけられてビクッと肩を震わせた。
「な、何だね?」
「お願いがあります。聞いていただけますでしょうか?」
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