黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ

文字の大きさ
42 / 44

四十二話 だから早く孫作れって言ったのに

しおりを挟む
(あれがエミールの……)

 セルジュがこちらを見ていることに気がついたエミールが満面の笑みを浮かべた。二人のフェアリーはエミールが笑いかけているセルジュに気がつくと、三人揃ってヒラヒラとセルジュの前まで飛んできて、目の前で人間の姿に変化した。

(あ……)

「もしかして、うちの子を助けて下さった方ですか?」

 本当の父親らしいフェアリーは、背の高い人間の男性の姿になってセルジュに微笑みかけた。

「あ、その……」
「村が襲われた時、私がこの子を棚に隠したんです。フェアリーの赤ちゃんは人間よりずっとしっかりしてるんですけど、それでも生後まだ間もなかったので心配で」

 人間の女性の姿になった本当の母親らしきフェアリーは、エミールをぎゅっと抱きしめながらセルジュに向かってそう言った。

「あ、村でその子を助けたのはこいつなんです」
「ステヴナン伯爵ですか?」

 王領の村とはいえ、すぐ近くのステヴナン領の領主の顔はフェアリーにまで知れ渡っているようであった。

「本当にありがとうございます、伯爵」
「微力ながら、一年ほどこいつと二人で面倒を見させていただきました」
「あうー」

 クロードの言葉を肯定するかのように、エミールがにこにこ笑いながらクロードの長い髪を引っ張った。

「この子が人間の姿をとったところは初めて見るのですが、確かにお二人の子供みたいな容姿ですね」
「生きるために必死で私たちの姿を真似したのでしょう。素晴らしい生存本能です」
「ほう、それは興味深い」

 ロベール伯爵が面白がっているような表情で近づいて来た。

「こんな幼いのに大したものだ。魔法マナの量も普通のフェアリーよりかなり多いのだと兄も言っていた」
「ニコラス殿が?」
「ああ、兄は南の果物に適切な魔法を供給するために、毎年何かしらの魔法生物を持ってマルタン領を訪れるのだが、今年はキポエ村の件があったためにいつもより魔法を多く持つ生物を持って行ったのだ。ところがマルタン城にあるはずのない魔法が予想以上に溢れていたため、持って行った魔法生物が暴走して巨大化してしまったと言っていた」

 ロベール伯爵の説明を聞いたスワンが驚いてポカンと口を開けた。

「そんな、それでニコラス殿は毎年我が南領に? それならそうと言ってくだされば……」
「兄は今は気が向いているから果物の生育を助けているだけだ。来年はもう行かないかもしれないのに、いちいち説明などしない」
「ええっ! そんな……」
「まあそんなに心配するな。私は今の代の辺境伯を気に入っているから、そんな酷いことをするつもりは無い」

 ロベール伯爵はエミールとその両親に向き直った。

「ご子息の魔法の力は私の兄のお墨付きです。我がロベール領の後継者にぜひ推薦したい」
「西方ですか」

 エミールの両親は顔を見合わせた。

「やはり我々も西へ移住するしかないのでしょうか」
「こんなことがあったのだ。いつまでも先祖代々の土地にこだわる必要もあるまい」
「しかし我々がいなくなれば、北方の魔法が弱まってしまいます」
「そんなことを気にする必要はない」

 北方に住む聖職者のカトリーヌもそこで会話に加わった。

「魔法の加護が無くなるのは、魔法生物を乱獲した人間の自業自得だ。歴史は繰り返すのだから仕方あるまい」

 エミールの両親はクロードとセルジュの手を握った。

「西へ行けばもう我々はこちらに戻ることはできないでしょう。私たちの子供にまた会いに来てもらえますか?」

 そう言われると、セルジュは不本意ながらも目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

「もちろんです。許してもらえるなら」
「必ず来てくださいね」
「あ、そういえば」

 セルジュは鼻声になりそうなのを堪えながら、気になっていたことを質問した。

「その子、なんていう名前なんですか?」

 エミールの両親は顔を見合わせた後、父親が笑いながら口を開いた。

「実は生まれたばかりだったので、まだ名前を決めていなかったんです」
「え……」
「よろしければ名付け親になって下さいませんか?」

 これ以上は我慢の限界だった。ポロポロと涙をこぼすセルジュをそっと胸に抱いて、クロードが代わりに返答した。

「我々はエミールと呼んでいました」
「エミール、いい名前ですね」
「ステヴナン夫妻とのお別れは済んだかね?」

 ロベール伯爵が再び会話に割って入って来た。茶化すような口調だったが、少し焦っているのか目が笑っていなかった。

「私は今回の聖樹祭は欠席させてもらう。面倒が起こる前にここにいるフェアリー全員を西へ連れて行かなければならないのでね」
「ええっ! それはまずいんじゃ……」

 イザベルの忠告をロベール伯爵はフンと鼻を鳴らして一蹴した。

「君たち他所の辺境伯はともかく、陛下も私には一目置いてもらわねば困るのだ。何せなのだから」

 ロベール伯爵はそう言うと、自分のマントをさっと広げてその中にフェアリーたちを次々と隠していった。

「まさか、そのまま帰るんですか?」
「馬車までの辛抱だ。さあ、お前たちも早く」

 エミールは指をちゅぱちゅぱと吸っていたが、両親と一緒に本来のフェアリーの姿に戻った時は、人間のフリをしていた時よりずっと逞しく見えた。

(そりゃそうだ。人間の姿だとまだ伝い歩きとハイハイしかできなかったのに、フェアリーになったら空を飛び回れるんだから)

 エミールが満面の笑みを浮かべてセルジュとクロードに手を振った。セルジュも涙を拭って笑顔で手を振りかえした。

「じゃあな、エミール。幸せになれよ」
「ふげっ」
「エミール! 私たちのことも忘れないで下さいよ!」

 スワンは周りを憚ることなく男泣きに頬を濡らしており、イザベルもそっと目頭を押さえていた。

 エミールと両親がマントの奥に姿を消して、セルジュは再びクロードの胸を濡らしながらボロボロと泣いた。

「あーあ、だから早く孫作れって言ってたのに」

 去っていくロベール伯爵の背中を見ながら、カトリーヌも心なしか鼻声になっているようだった。

かすがいがいなくなっちまったけど、お前ら大丈夫……」

 二人の様子を見たカトリーヌはふっと笑った。

「まあ、大丈夫か」
「母上、ロベール伯爵はエミールを後継者にしたいと言っていましたが、それはどういうことなのですか? もしかして伯爵は……」
「さあ、西の辺境は謎に包まれていることが多い。私も本当の所は何も知らないよ。ただ……」

 カトリーヌは再びロベール伯爵の背中に視線を投げかけた。

「『白の騎士』西の辺境伯の受け継ぐ白の指輪は、魔法を強める力があるのだと噂に聞いたことはある。強めるってことは元々持っていないと意味がないから、聖職者かもしくは……そういうことだろう?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。

【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ )は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。 ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。 今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。 本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。 全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。 (本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

騎士団長の初恋を実らせるつもりが、うっかり恋に落ちました~心の声が聞こえる第五王子は街で人気の占い師~

まんまる
BL
現王の第五王子として生まれたノア(21)は見た目こそ王族の血を濃く引いているものの、王城では影が薄く、いてもいなくても誰も気付かないような存在だ。 そんなノアは生まれつき他人(ひと)の心の声が聞こえる能力を持っていて、こっそり王城を抜け出しては、それを活かして街で占いをやっていた。 18歳で始めた占いも気付けば3年が経ち、今ではよく当たると評判の人気の占い師になっていた。 そんなある日、ノアが占いをする《金色(こんじき)の占いの館》に第一騎士団の団長、クレイン侯爵家の嫡男アルバート(32)が訪ねてくる。 ノアは能力を使って、アルバートの『初恋の相手に会いたい』と言う願いを叶えるようとするが、アルバートの真面目で優しい人柄に触れいくうちに、ついうっかりアルバートを好きになってしまう。 真面目で一途な騎士団長×前向きに生きる国民思いの第五王子 いろいろツッコミ所があるお話ですが、温かい目で読んでいただけたら嬉しいです。 ( )は心の声です。 Rシーンは※付けます。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...