成形屋 -Fils fier-

和菓子

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Fils fier

Fils fier 2

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薄暗い玄関を抜けると、陽の光があまり届かない廊下が続いた。
両脇に扉はあるものの、こちらは玄関と違って閉ざされている。まるで、ここではない、と告げているようだ。


怖いか、と問われれば、否だった。


どちらかと言えば、ワクワクする。まるで小学生のように。
ダメと言われたことに逆らって遊ぶ、ドキドキ感。まるで子どもの探検のように、この先に何があるのか気になって仕方がない。




「ぅわっ!!!!!!」



注意深く進んでいたつもりが、不意に足元に感じた感触に、体が前に倒れこむ。
地面にキスする前に咄嗟に手を出せたのは、まだ若いと自惚れていいのだろうか、などと場違いなことを考えてしまう。


極限まで高まった心臓の音を抑えながら上体を起こすのと、高くて細い鳴き声が耳に届くのは同時だった。


「ね、ねこか……ビックリした…」


苦笑いで地面に座り込むと、猫も側に寄ってきた。手を差し出すと、スルリと体をすり寄せてくる。

暗い廊下だから、黒猫に見えるのか。元々黒猫なのか。

柔らかい毛の感触。恐らく大切に飼われているのだろう。


一通り手の感触を確認したのか、猫はニャァと一声鳴いて廊下の奥へと進みだした。


「ご主人様のところにでも連れて行ってくれるのか?…なんて」



思わず独り言を言うと、猫は振り返って、じっと様子を伺うように立ち止まった。

言葉が通じているわけじゃない。
分かっていても、背中を押されるには十分だった。


よっこいしょ、と声をかけて立ち上がると、猫の後を追う。
ちょっと今の声は年より臭かったかな、などと考えながら。




猫は迷うことなく階段を上がると、扉の前で立ち止まって、再び振り返った。


「ん?ここに入るのか?」


声を掛け、扉に手を伸ばす。


すると、さして力も入れていないのに、ゆっくりと開いた。
明るい日差しが、一気に廊下に流れ込んでくる。


足元にいた猫は中へ走って行くと、窓際のテーブルにいた男の元へ向かい、トンっと軽やかにジャンプした。
そして、まるでそれが当然のように、男の肩に落ち着く。


「お出迎えしてくれてありがとう。よくできました」


優しい声で言い、肩に座った猫の頭を軽く撫でると、男はゆっくりと入り口で固まる俺に笑いかけた。




「ようこそ、成形屋へ」




これが、おれと成形屋、店主の千夜と彼の相棒ヤカとの出会いだった。


俺はこの日を一生忘れる事はない。
例えこの先一生、彼らと会うことが出来なかったとしても。
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