蛙は嫌い

柏 サキ

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1.再会

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 高校1年の終わり、春休み。


「なんで高校にもなって春休みの課題とかやらないとなんだよ~~ちきしょう~~。」


 などと、同じ様な不満をずっと隣で溢している同じクラスだった男子【若宮 駿】を横目にスルーして、黙々と課題を進めている。

 そろそろ休憩しない?一度外出てリフレッシュしようぜ!とずっとこの場から逃げようとしている若宮にそろそろ苛立ちを隠せない。


「課題やる気ないなら帰れよ~、俺だってこんな課題捨てて今すぐゲームしたいけど新学期になって即居残りとかマジ勘弁だから。」

「まあな~、てかまたクラス一緒になれっかな~、私~西尾くんとずっと一緒がいい~♡」

「きんもっ!触んなや!ホモ野郎!」



 結局この日も課題はあまり手につかず、やはりいつも通り最終日になって課題に追われるという、小学生の夏休みの最終日に泣くヤツを今になってまだ繰り返している。




 高校に上がって引っ越してきた。
 都内にいたが、それより西の名古屋というまあ都会の場所だったので環境にはそこまで変化はない。
 住んでた場所もマンションからマンションだし、駅近、高校も駅から近いので不便もない。


 越してきた理由は父親の転勤とか、そんな格好のつく理由ではなかった。
 当時小学生頃イジメをしていた側の自分が、中学に上がるとイジメを受ける側になって、誰も知らない土地へ逃げてきたというだけのことである。

 中学校も、小学校からそのまま繰り上げになっただけだったので当時の自分の行いも全て繰り上げられた。
 但し、周りの目はそっぽを向き、自分のランクは繰り下がったというわけだ。


 天に唾するとはこの事だね。
まあでも幸い、今の生活には慣れてきたので後は今後同窓会とかの類に参加しなければ良いだけの話だ。



 このまま逃げてて良いのか。     






 高校2年、春。

 新学期が始まった。
 言霊のせいなのか、若宮とも一緒になれた。
 まあまあ嬉しい。
 それと隣のクラスだった仲良しの男子の【田嶋 稔】も一緒か。
 …あとは顔見知りが少し…女子は…同じクラスだった【小高 真由】がいるな…げっ。
 あいつクラス委員長で、性格もキツイからあんまり好かんのだけど。
 あとは知らないメンツか。
 一人欠席だな。




 周りも皆探り合いをしている様な雰囲気の中、始業式も終わりその後委員会の仕事をしに若宮とは別れた。


 委員会というのも一年生の時に決めたもので、図書委員を選択した。
 部活は1年の途中でサッカー部を辞めてしまったのでよく放課後は図書室で委員会の仕事をしている。
 部活を辞めた理由は足の怪我と、うちはシングルマザーなのでバイトの申請をしたからという真っ当な理由だ。

 にしても初日から仕事とかついてない。
 まあ今日はバイトないからいいけど。





 新刊の発注やら整理やらの仕事を終え、教室に戻るとさっきまで欠席と思っていた机に鞄が置いてある。
 そういえばあそこは女子の席だな。
 病弱の可愛い子でも来ているのだろうか。

 そんな淡い期待をしまい込んで、さて教室を後にしようとした時、


《ガラガラッ》


 背後の扉が開き、1人の女子が現れた。
 すらっと高い背に、黒髪セミロング、顔も整っていて可愛いというよりは綺麗な顔立ちだ。
 きっと欠席だと思っていた子だろう、肌は白く、病弱というのは良い線をついたかもしれない。


 そんな彼女と目が合ってしまったが、話すこともなかったので教室を出ようとした時、


「…西尾…くん……?」
 

 声にもあまりならないその音は、2人だけの静かな教室には十分に耳に届いた。


 えっ。

 もう一度顔を合わせようとした頃には彼女は慌てて教室から出て逃げる様に帰っていった。



 何やら不穏な感情が胸の中に残った。







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