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10.潮風
しおりを挟む明日から夏休みだ。
若宮、田嶋とも遊ぶ予定は立てている。
実は何故か知らないけど委員長の小高とも遊ぶ予定が出来ている。
修学旅行の計画を立てるという程で。
川井さんとはあれから二、三度連絡を取った。
喫茶店に付き合ってくれたお礼と、いつ本を返すかの連絡だ。
彼女はいつでも良いと言ってはくれたが、もう半分くらいは喫茶店で読んでしまったので、終えるのは割とすぐだろう。
ということで、一応夏休みが始まって5日後にまた喫茶店で待ち合わせをしようという話になった。
どうせならと言って、課題を一緒にやっていこうと提案された時はかなり驚いたものだが。
「やっぱり夢の国とか行きてえよなあー。俺もバイトしてえわ、金が足りん圧倒的に。」
若宮は自販機で買った炭酸飲料をプシュッと音を立てて開けた。
「お前らはまだいいじゃん、俺なんか部活ほぼ毎日だで?くそだるいわ~。」
唯一部活に所属している田嶋の自由が効かないので、遊ぶ予定の立て方にも苦戦している。
結局夏休み前最後の日には予定は決まらず、メールで決めようという話で終わった。
5日後、今日は晴天。
夏休みに入って昨日まで、ずっと雨続きだったので良かった。
と言っても今日は喫茶店で勉強会のようなものなんだけど。
《カランカラン》
いらっしゃーい、と喫茶店の宮内さんが迎えてくれた。
席を案内してくれて、これ新しく入ったお菓子だよと言っていくつかお裾分けしてくれた。
彼女は10分ほど遅れてやってきた。
ごめんねと謝られたけど、全然10分なんて遅刻に入らないと僕は思っている。
若宮なんてこの前1時間半も遅刻してきたし。
「あの本読み終わった?あと課題ちゃんともってきた?」
彼女は鞄から筆記用具を取り出しながら言う。
「終わったよ、とてもいい話だった。ありがとう。課題ね、一応持ってきたよちゃんと。」
「あら、意外。本当に課題一緒に進めてくれるのね。」
「なんだ、冗談だったの??」
違うよ、と微かに笑いながら彼女は言って、2人共課題を始めた。
しかし1時間もすると彼女は蹴伸びををして、ふぅっと溜息をついて口を開いた。
「ねえ、西尾くん。こんなに晴れてるのに課題やるのなんか馬鹿らしくなって来ちゃった。どっか行かない?」
「え、、、課題やろって言ったの川井さんでしょ。まあいいけど、どこ行くのさ。」
「んー、そうだなあ。夏らしく、海でも行く??」
「えー少し遠くない?此処から1時間くらいするよ?」
「いいじゃんいいじゃん、まだ時間あるし。」
仕方なく了承して、2人で海へ向かった。
電車の中で彼女は昔海へ行った思い出の話をしてきた。
「私ね、海って今日で行くの3回目なの、確か。小さい頃の1回目はあるらしいけど覚えてなくて、その時溺れちゃったみたいで其れからカナヅチになったの。でも入らなくても海に行ったことがあって、それが中学校の時かな…。あんまり良い思い出はないんだけど、偶にそういう衝動ってない?怖いもの見たさじゃないけどさ。」
僕は当たり障りなく、まあねと頷く事しか出来なかった。
海に着くと、少し風が冷たく感じた。
彼女ははしゃぐ素ぶりも見せず、ただ砂浜から海を眺めていた。
昨日までが雨だったせいか、他に客は殆どおらず、世界がとても静かにゆっくり動いているかのようだった。
「海、あんまり綺麗じゃないね。まあ日本の殆どの海なんてそんなもんだよね。暗くて、怖いなあ。」
彼女は変わらず、海を見つめながら言う。
「来といてその言い草なの。こういうのってテンションでしょ。海を見るというか楽しむ為にあるみたいな。」
「まあ、一理あるね。」
彼女は砂に文字を書いていたようだ。
何を書いていたかは、僕には想像もつかなかった。
1時間ほど海を眺めて、帰ることになった。
帰りの電車は彼女は静かで、自分も下手に喋るのはやめておいた。
乗り換えの駅のホーム。
此処で彼女とはお別れする。
「ねえ、もし私が君に助けを求めたら、助けてくれる?」
「え?なんのことを言ってるの?何か困ってるの?」
「まあまあ、何も意味ない質問だよ。ほら答えて。」
「意味もないのに聞くなよ、困る。まあでも、その時の状況によるかな、俺に出来ることなんてたかが知れてるんだから。」
「当たり障りのない意見ね、なんか逃げられた気分。」
「そんなもんでしょ、そんな曖昧な質問に対してなんて。」
「まあね。」
なんか今日の彼女は変わっている。
変だ。
彼女は電車に乗り込む。
最後に彼女は口を開いた。
「私の、隣にいてくれる…?」
疑問を返す前に扉は閉まってしまった。
なんの事を言ってるのか分からなかったけど、きっと僕は返事をしなきゃいけない、必ず。
なんだか、また海へ行って、あの冷えた潮風に当たりたくなっていた。
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更新が遅くなってしまっていて申し訳ないです…。
時間作れるよう努めます…!
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