黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

柊木榎流

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prologue 『死者奴隷』

第5話 相席

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日が経つにつれ、俺への扱いはさらに酷くなっていく。なんかもうどうでもよくなってきたな。

このままこれが続けば近いうちにソランの心は限界を迎え壊れてしまうだろう。もしかしたらもう壊れてしまっているのかもしれない。ソランにはそれが解っていたが、3年間ほとんど変わることのなかった世界に少しだけ変化があった。
何の色もない灰色だった世界にほんの少しばかり、光が差したからだ。


───ガラガラガラッ ガシャンッ!


「あっ、ソラン!今日は何をお話する?」

そこには、綺麗な銀髪の可愛らしい女の子がニッコリと笑って座っていた。

同居人が増えた。ミリアという女の子だ。
彼女はどんな時でも俺の方を見て笑っている。どうしてあんな笑っていられるのだろうか?

ソランは何日か経った今でも聞く事が出来なかった。

「いつだったか、この領の東側に連れていかれたことがある」

「ねえねえ、そこには何があったの?」

「大きなライリール像があった」

「ライリールって、あの?」

ミリアとの会話は大体ソランがこれまで死者奴隷スレイデッドとして連れていかれたところで見た物事などだ。
この国の宗教はいくつかあるが一番信徒が多いのがこの星、アーランドを造り出したと言われる『創造神ライリール』を祀る『ライラ教』である。ミリアが信仰しているのは別の神との事だが、そういった話には興味があるようだ。

「正確には分からないが、とても大きかった」

「すごいなぁ、私も見てみたい!」

ミリアとの会話は楽しいし心が温かくなる。
腕や足を切られる痛みや恐怖を一時の間忘れることができる。
このままずっとミリアと話せていられたらどれだけ素敵だろう。胸を張って、俺は幸せだと言える。でもそれは、死者奴隷スレイデッドには、叶わぬ夢だ。
朝になれば、またあの痛みがやってくる。

ソランは邪念を振り払うように、気になっていたことを聞いた。

「ミリアはどこから来たんだ? どこの生まれなんだ?」

「私はアルステラ王国のおう…じゃなくて、中級貴族の生まれなの」

「悪い。なんか悪いことを聞いたな」

「ううん。大丈夫」

中級貴族か。俺と一緒だな。そういえば『おう』何とかって言っていた気がするが、あまりそういう事は聞かない方が良いのだろうか。

「ガキ共、生きてるか」

荒々しく檻を開けて、兵士が入ってきた。
いつもは薄汚れた革防具だけの兵士が、今日はなぜか鉄のフルプレートアーマーで身を包んでいる。

「今日はお前ら二人、同じ場所に行ってもらう。だからといって細かい場所は違うからな。死者奴隷スレイデッドが喜ぶんじゃねぇぞ。」

兵士に悟られないように下を向く二人。しかし、その顔は笑っていた。二人は顔を戻すと静かに立ち上がって兵士のもとへと行く。

ミリアと一緒か。途中ではぐれてしまうらしいけど、途中までは一緒か。いつもは一人だから、誰かが居るというのは、楽しみだな。

「グダグダしてんじゃねぇ!ちゃんと付いてこいッ!」

グイ、と二人の鎖を強く引く。そんなこんなで馬車の前につれてこられた二人。すると、ミリアが後ろから。

「やったね、私達、同じ馬車みたいだよ」

小さく、しかし弾んだ声で話しかけてきた。そんなミリアは何処か嬉しそうな面持ちた。

そんな嬉しそうなミリアの言葉を聞いたソランは、すこし軽くなっていた足取りが、さらに軽くなったのを感じた。
馬車に着けられている檻に入ると、続いてミリアも入って来た。檻は死者奴隷スレイデッド一人乗せる用のため、二人で乗るには少し狭い。
そのため、二人は身体をぴったり合わせるように、並んで座った。

「なんか、ごめんね」

申し訳なさそうに俯きながらミリアが急に謝って来た。

ミリアは謝る様なことなどしていないはずだ。どうしてそんなことを言うのだろうか。

「あっ、いや、悪い意味じゃなくてね。この檻って一人用で、ソラン専用だったってことでしょう?私は大きな檻で他の子たちと一緒だったから、そんなソランだけの物に私が入っちゃうなんて申し訳ないな、とおもって...」

そうか。死者奴隷スレイデッドが一人だけで乗るのは此処だけなのか。他はどんな感じなのだろうか。

「そんな事は無い。今までずっと一人だったんだ。話し相手が居るのは助かる」

本当だ。ミリアと話している時だけは心が温かくなる。何というか、心臓のあたりが締め付けられるような感じになる。でも、不思議と嫌な思いはしない。

ふと、ソランは自分たちの乗っている貨物馬車を通り過ぎていく兵士たちの話を聞いた。

「なあ、また隣のルール王国へ戦争を仕掛けるらしいじゃねえか?」

「そもそも何で俺らは戦争してるんだ?」

「貴方はそんな事も知らないんですか? この世界には手にした者を神へと昇格させ万物の願いを叶える『星槍』というものがあります。それを巡って12の種族が戦っているんですよ」

「でもなんで人間族ヒューム同士で戦っているんですか」

「もし、我々が『星槍』を手に入れたときに巨大な勢力が幾つもあれば国家間での小競り合いが増えるからです」

「でもそんな事で人間族ヒュームが数を減らし合ったら他の種族に遅れをとるんじゃないか?」

「さぁ、頭の固い国王達の考える事なんて俺らには解んねぇよ」

俺もその『星槍』とやらを手に入れたら、この世界を変えることが出来るのだろうか。...それでも今の俺には一生変わる事の無い話か。
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