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prologue 『死者奴隷』
第4話 銀髪の少女
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「オイッ、時間だ!早く起きろ!」
ガンガンと檻の格子を叩く音で少年は目覚めた。申し訳程度に備え付けられている窓からは、太陽の光が差し込んでいる。
朝か。
少年はまだ開ききっていない目を擦りながら檻にもたれかかっている兵士を見た。あまり気長な性格ではないのだろう、貧乏ゆすりをしている。
「起きたか、30分後に出発だ飯食って準備しろ」
兵士が檻のある部屋から出て行くのをぼうっと眺めていた少年。小さく欠伸した後、檻の前に無造作に置かれた朝食のパンを咀嚼し始めた。
いつもと同じ味のしないパン。これも一体何日続くのだろうか。終わる日は来るのだろうか。
小さく千切り口へ運び、咀嚼。
小さく千切り口へ運び、咀嚼。
毎日毎日、変わらずそれを繰り返す。
「もっと辛い仕打ちを受けている死者奴隷もいるのだろうか。」
だとしたら、自分はまだ良い方だなんだ、幸せな方なんだ、と喜ぶべきなのか。どちらにせよ死者奴隷の時点で同じと思うべきか。
ふと、どこかに連れていかれた死者奴隷《スレイデッド》やここ以外にも居るであろう死者奴隷の事が頭に浮かんだが、少年にはその答えを出すことが出来なかった。
少年がパンを食べ終え、服を着替えたところで兵士が戻ってきた。
「昨日も言った通り、西の地区だ、行くぞ」
強引に鎖を引っ張った。
嗚呼、今日も色のない灰色の1日が始まるのか。おそらく一生変わることのない嬲られるだけの一日が。
もう、少年に希望などなかった。3年、良く持ったと言ってもいい少年の心も折れてしまいそうになっている。少年はまた兵士に引かれ、労働をしているであろう奴隷たちのもとへと向かうのだった。
「ここだ。入れ」
何度目だろうかも分からない程訪れたグラム帝国のとある領地の西区の作業場にある檻の前まで連れてこられた。何という事は無い城壁の陰でうす暗く、黒光りする無機質な鉄製の檻だ。ただ、今日は少年一人ではなかった。
「隣町の死者奴隷だ。せいぜい仲良くするんだな」
兵士はそう吐き捨てて部屋を出て行った。2人になった檻で、少年は同居人を見つめる。その同居人は少女だった。
磁器のような真っ白な肌に碧眼の瞳、緩くウェーブのかかった長い銀色の髪を持つ、まさに絵から飛び出したような美少女だ。しかし、死者奴隷という過酷な生活でその体は痩せ細り、薄汚れている。首には中心のくぼみに碧い石がはめ込まれた翼の片翼を模した形をしたペンダントがさげられていた。うす暗くてよくわからないが、竜の絵が彫られている。その身長は少年より、頭半分ほど大きかった。
「私はミリア、貴方の名前は?」
同居人───ミリアは優しく微笑んだ。
きれいな子だな。それに動きの端々に気品が見られる。死者奴隷として連れてこられる前は貴族か何かだったのだろうか?だとしたら、どうして貴族であろうこの子が死者奴隷になってしっまったんだろうか。もしかしたら俺と同じように親が何かの策に嵌められて連れてこられてきたのかもしれないな。まぁ、考えても詮無きことか。
ミリアと名乗った少女をまじまじと見つめていると、
「名前は?貴方の名前は何て言うの、教えてくれる?」
「名前か。俺の名前・・・名前?」
少年は大きく首を傾げた。名前ってなんだ?死者奴隷に堕ちてから今まで、否、少年が生きてきた中でまともに自分の名を呼ばれたことがほとんどない。そのため、自分の名前など記憶にはなかった。
「そう、名前。貴方はいつもなんて呼ばれているの?」
「いつも呼ばれている名前か。・・・クソガキとか、お前・・・とか?」
少年が言うとなぜかミリアは少しだけ悲しそうな顔をした。しかし、それはすぐに微笑みへと変化した。
いつもの呼ばれ方を言っただけだが、何か彼女を悲しませることを言ってしまったのだろうか。
すると、少女が下から少年の顔を覗き込むようにして近づいた。
「・・・貴方、名前が分からないのね?」
少年は、うん、と小さく頷いた。するとミリアは、どうしましょう、と顎に手を当て考える。その光景がなんとも可愛らしく少年は見とれてしまう。少女は、よし、と手を打つと手を広げて言った。
「私が付けてあげるわ!そうね・・・」
付ける?俺に名前を?
状況がまったく飲み込めない。そんな少年を傍目に、少女は右頬に手を添えて考える。そんな行動すらもミリアが行うと、とても可愛らしい。つい、ぼーっと見入ってしまう。
...10分はたっただろうか。
中々動かない少女が不安になってくる。
......30分はたっただろうか。
なかなか動かない少女に、流石に心配になって声を掛けようと近づいたその時だった。
「そうだっ!」
いきなり立ち上がる少女にビックリした少年は後ろに尻餅をついた。
急にどうしたんだ?
「あっ、ごめんなさい!...でも、貴方の名前思い付いたわ。
貴方の名前は『ソラン』...どう?」
少年は目を丸くしてじっとミリアを見つめている。次から次へと起こる事象に、余計に少年の頭が混乱していく。
「貴方はソラン・・・気に入ってくれたかしら?」
少女のその一言で、少年は状況を把握しようとする思考を淵へと追いやると『ソラン』という名前に意識を向ける。少年は下を見つめ何かを確かめるように新たな名前を繰り返した。
「ソラン・・・ソラン・・・俺は・・・ソラン?」
「そう、貴方はソラン、私はミリア。よろしくね?」
「俺は、ソラン・・・ミリア、よろしく」
少年の言葉を聞いたミリアは、ニッコリ笑って
「そうね・・・じゃあ今日は何を話す?───」
───この日、この星にソランという名の少年が、誕生した。
自分の隣で楽しげに話すミリアを見つめながらソランは思う。
ミリアはどうしてこんなに笑っていられるんだろう?毎日、毎日痛めつけられているはずなのに。気がおかしくなるほど心も身体も痛いはずなのに。
その答えは目の前にいるミリアのみぞ知っている。ミリアに聞いてしまえば簡単なのだが、まだ、ソランには聞く勇気が持てないでいた
ガンガンと檻の格子を叩く音で少年は目覚めた。申し訳程度に備え付けられている窓からは、太陽の光が差し込んでいる。
朝か。
少年はまだ開ききっていない目を擦りながら檻にもたれかかっている兵士を見た。あまり気長な性格ではないのだろう、貧乏ゆすりをしている。
「起きたか、30分後に出発だ飯食って準備しろ」
兵士が檻のある部屋から出て行くのをぼうっと眺めていた少年。小さく欠伸した後、檻の前に無造作に置かれた朝食のパンを咀嚼し始めた。
いつもと同じ味のしないパン。これも一体何日続くのだろうか。終わる日は来るのだろうか。
小さく千切り口へ運び、咀嚼。
小さく千切り口へ運び、咀嚼。
毎日毎日、変わらずそれを繰り返す。
「もっと辛い仕打ちを受けている死者奴隷もいるのだろうか。」
だとしたら、自分はまだ良い方だなんだ、幸せな方なんだ、と喜ぶべきなのか。どちらにせよ死者奴隷の時点で同じと思うべきか。
ふと、どこかに連れていかれた死者奴隷《スレイデッド》やここ以外にも居るであろう死者奴隷の事が頭に浮かんだが、少年にはその答えを出すことが出来なかった。
少年がパンを食べ終え、服を着替えたところで兵士が戻ってきた。
「昨日も言った通り、西の地区だ、行くぞ」
強引に鎖を引っ張った。
嗚呼、今日も色のない灰色の1日が始まるのか。おそらく一生変わることのない嬲られるだけの一日が。
もう、少年に希望などなかった。3年、良く持ったと言ってもいい少年の心も折れてしまいそうになっている。少年はまた兵士に引かれ、労働をしているであろう奴隷たちのもとへと向かうのだった。
「ここだ。入れ」
何度目だろうかも分からない程訪れたグラム帝国のとある領地の西区の作業場にある檻の前まで連れてこられた。何という事は無い城壁の陰でうす暗く、黒光りする無機質な鉄製の檻だ。ただ、今日は少年一人ではなかった。
「隣町の死者奴隷だ。せいぜい仲良くするんだな」
兵士はそう吐き捨てて部屋を出て行った。2人になった檻で、少年は同居人を見つめる。その同居人は少女だった。
磁器のような真っ白な肌に碧眼の瞳、緩くウェーブのかかった長い銀色の髪を持つ、まさに絵から飛び出したような美少女だ。しかし、死者奴隷という過酷な生活でその体は痩せ細り、薄汚れている。首には中心のくぼみに碧い石がはめ込まれた翼の片翼を模した形をしたペンダントがさげられていた。うす暗くてよくわからないが、竜の絵が彫られている。その身長は少年より、頭半分ほど大きかった。
「私はミリア、貴方の名前は?」
同居人───ミリアは優しく微笑んだ。
きれいな子だな。それに動きの端々に気品が見られる。死者奴隷として連れてこられる前は貴族か何かだったのだろうか?だとしたら、どうして貴族であろうこの子が死者奴隷になってしっまったんだろうか。もしかしたら俺と同じように親が何かの策に嵌められて連れてこられてきたのかもしれないな。まぁ、考えても詮無きことか。
ミリアと名乗った少女をまじまじと見つめていると、
「名前は?貴方の名前は何て言うの、教えてくれる?」
「名前か。俺の名前・・・名前?」
少年は大きく首を傾げた。名前ってなんだ?死者奴隷に堕ちてから今まで、否、少年が生きてきた中でまともに自分の名を呼ばれたことがほとんどない。そのため、自分の名前など記憶にはなかった。
「そう、名前。貴方はいつもなんて呼ばれているの?」
「いつも呼ばれている名前か。・・・クソガキとか、お前・・・とか?」
少年が言うとなぜかミリアは少しだけ悲しそうな顔をした。しかし、それはすぐに微笑みへと変化した。
いつもの呼ばれ方を言っただけだが、何か彼女を悲しませることを言ってしまったのだろうか。
すると、少女が下から少年の顔を覗き込むようにして近づいた。
「・・・貴方、名前が分からないのね?」
少年は、うん、と小さく頷いた。するとミリアは、どうしましょう、と顎に手を当て考える。その光景がなんとも可愛らしく少年は見とれてしまう。少女は、よし、と手を打つと手を広げて言った。
「私が付けてあげるわ!そうね・・・」
付ける?俺に名前を?
状況がまったく飲み込めない。そんな少年を傍目に、少女は右頬に手を添えて考える。そんな行動すらもミリアが行うと、とても可愛らしい。つい、ぼーっと見入ってしまう。
...10分はたっただろうか。
中々動かない少女が不安になってくる。
......30分はたっただろうか。
なかなか動かない少女に、流石に心配になって声を掛けようと近づいたその時だった。
「そうだっ!」
いきなり立ち上がる少女にビックリした少年は後ろに尻餅をついた。
急にどうしたんだ?
「あっ、ごめんなさい!...でも、貴方の名前思い付いたわ。
貴方の名前は『ソラン』...どう?」
少年は目を丸くしてじっとミリアを見つめている。次から次へと起こる事象に、余計に少年の頭が混乱していく。
「貴方はソラン・・・気に入ってくれたかしら?」
少女のその一言で、少年は状況を把握しようとする思考を淵へと追いやると『ソラン』という名前に意識を向ける。少年は下を見つめ何かを確かめるように新たな名前を繰り返した。
「ソラン・・・ソラン・・・俺は・・・ソラン?」
「そう、貴方はソラン、私はミリア。よろしくね?」
「俺は、ソラン・・・ミリア、よろしく」
少年の言葉を聞いたミリアは、ニッコリ笑って
「そうね・・・じゃあ今日は何を話す?───」
───この日、この星にソランという名の少年が、誕生した。
自分の隣で楽しげに話すミリアを見つめながらソランは思う。
ミリアはどうしてこんなに笑っていられるんだろう?毎日、毎日痛めつけられているはずなのに。気がおかしくなるほど心も身体も痛いはずなのに。
その答えは目の前にいるミリアのみぞ知っている。ミリアに聞いてしまえば簡単なのだが、まだ、ソランには聞く勇気が持てないでいた
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