黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

柊木榎流

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prologue 『死者奴隷』

第3話 翼をなくした。

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───キィィィッ!

鈍い音を立てながら、グラム帝国のとある領地にある死者奴隷スレイデッドを収容しておく檻の扉が閉まる。少年が一人入るには大きすぎる位の檻を一周見回すと、無造作に置かれている最早ただの布切れと化した布団に入る。

この檻も、随分寂しくなったものだ。俺が来た時には10人ほどの同じ死者奴隷スレイデッドが居たはずだが、1、2週間に一人ずつ数が減っていき、俺が来て半年と経たずにこの檻の住人は俺だけになったんだったな。

「明日は西の地区に行く、いいな。」

そんな兵士の言葉を聞き届けると、少年は布団へと潜り込む。

俺にとって、寝る前のほんの少しばかり自由に過ごせるこの時間が一番好きだ。布団であった布の仄かな温もりに包まれると、心が落ち着く。まるで、いつか母に抱かれた時の様な...

「俺がここに来たのは、たしか3年前のこの日だったか」

少年はふと、すべてが地に堕ち、すべてを失った日を思い出した。

あの日から、俺は1歩も進めていないな。足掻くこともできずに、こんなところで3年も...

少年が覚えているのは、中級貴族の父と母が居た事。3年前に引き離されてしまったことだけだ。両親が居た頃にどんな遊びをして、どの様に生活していたかなどもう覚えていない。一つだけ分かることは、その生活がとても輝いていたという事だ。

3年前、少年は2歳。とある貴族のもとで暮らしていた。この国の貴族の子は3才になった誕生日に名付けの儀式が行われる。そして初めて貴族の子供として認められるのだ。

少年が3才になる1週間前。雨の降る夜の事だった。目が覚めてしまった少年がトイレから自室に戻ろうとした時のこと。

父と誰かの話す声が聞こえる。父上の書斎に来客が来たようだ。こんな時間に来る人なんているのかな。

少年は少しだけ開かれた父の書斎の扉から、中を覗き込む。

「すまないが貴方が一体何をおっしゃっているのか私には分からない。こんなもの、全部出鱈目ではないか」

「なかなか認めてはくれませんか。 貴方達がこの領地の税を横領したという証拠は在るのですぞ!」

「だからそんな事、私は知らないと言っているではないか!」

そこには少年の母親と父親、そしてもう1人、貴族の男が何かを言い合っていた。父親の手には、何らかの書類だ。その書類には、羊の印が湛えられている。

あれって... となりの領土の家紋、だよね。なぜ父上が?

「...それでは分かりました、証拠お持ちしましょう」

そう言うと貴族の男は扉の方を見て。

「オイッ!あれを持ってこい。」

と声を上げた。

少年はビックリして後ずさると、いつの間にか少年の後ろに立っていた背格好のいい大きな男にぶつかった。

「邪魔だ、そこをどけ」

大男はぶつかった少年を人にらみすると、少年を書斎へと蹴飛ばした。

「うわっっ」

「──!? 一体どうしたの!? ───さん、息子に一体何をするんです!」

少年はゴロゴロところがって書生の中で倒れたところを、母親に抱きとめられた。母親は子供を蹴られた怒りを込めて、貴族の男を見た。貴族の男はそんな少年の母親の視線をひらひらと手を振ってかわすと、少年を蹴飛ばした大男から、もう一つの書類をもらった。

「ここに領主に税金を悪用されたというお前の文官の報告書がある。これを見てまだしらばっくれるつもりかな?」

父親は報告書を奪い取ると隅々まで目を通した。文字通り、穴が開くほどに。

「なんということだ...」

父親は驚愕し膝から崩れ落ちた。そんな父親を、少年の母親は少年と共に父親に寄り添うようにして近づき、その書類に目を通した。その内容に、少年の母親もまた目を見開いている。

「というわけだ、お前と妻の極刑は免れまい。息子は国の奴隷として私が貰っていこう。コイツらを連れていけ」

大男が少年の腕をつかみ外へと連れていく。

「そんな、父上ッ!母上ッ!この人を止めてください。痛い!」

少年は必死に抵抗するが鍛え抜かれた大男の膂力に勝てることが出来ずに、引きずられていく。少年の両親は、それを黙ってみている事しか出来なかった。

「貴様、騙したな」

と苦虫を噛み潰したような表情で、貴族の男を睨みながら言った。それに対し貴族の男は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「私は何も騙していませんよ、フフフ、貴方の文官が裏切ったのでは」

「貴様ァ!!」

少年の父親が貴族の男に飛び掛かろうとするが、後ろに控えていた護衛に抑え込まれてしまう。

「そうですねぇ、貴方の息子さんは死者奴隷スレイデッドにでも堕とすといいでしょうかねぇ、フフフ。もう用は済みました。早く自分の領に戻って祝杯でも挙げましょうかねぇ」

貴族の男は笑いながら少年の家を後にした。

それから数日後、貴族の男が提出した証拠により、少年の父親と母親は宮廷裁判へ。判決は死刑。
残された少年は死者奴隷スレイデッドとして一生グラム帝国で使役されることになった。そう、ここから少年の死者奴隷スレイデッドとしての地獄の生活が始まるのだった。

そして現在に至る。

あの日から俺は何も変わっていない
この腐った世界を変えられる日は来るのだろうか・・・

少年は瞑想を終えると静かに眠りについた。
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