黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

柊木榎流

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prologue 『死者奴隷』

第7話 命の感触

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「ア"ァァァァ!!!!」

天幕の方から耳を裂くような甲高い叫び声が聞こえた。

この方向はミリアかッ!? 一体何が!

ソランはこの上ない不安を胸に、全力へ声の下へと駆けていった。

「ミリ───」

そう言おうとして、口を噤んだ。
ソランの目の前で10人程の大柄な兵士達が、ミリアを囲んでいる。
囲まれているせいでミリアは見えないが、集団から少し離れているここでさえ乾いたが聞こえてくる。

「せっかく使ってやってんだからよっ!しっかり働け!ガキッ!」

「ごめんなさい、ごめんな、がっ─────」

土下座にも近い体勢で謝るミリアを無慈悲にも兵士達は殴り続ける。
その光景に、底知れぬ憤りを覚えた。
身体の奥底から嘔吐感ではない、熱い何かが込み上げてくる。ソランには初めての感覚だった。

「クソッ!人を玩具のように・・・俺たちだって人間だろ。何だと思っているんだ」

兵士逹は全員、ミリアに夢中になって周りを気にしていないな。考えろ、俺にはできることがあるはずだ。翼のない俺にでも。考えろ、見つけ出せ、今を、変えろ!

そう、状況を把握したその時、鮮明にとある日の記憶がフラッシュバックした。

───短剣で敵を暗殺する時は、首の側面か心臓のある左胸を狙うといい。

ある日、見世物として連れていかれた兵士訓練場での話だ。
丁度あの時は、目の前で兵士達が訓練をしていたため、そんな話をしていた。
ここに兵士がいるという事は・・・
ソランは辺りを見渡した。

「あった」

ソランが近寄った壁際には、推測通り短剣が立て掛けられていた。何という事は無いただの短剣だ。
ソランはそれを、音の鳴らないよう静かに持ち上げた。それでもソランには長剣の様に感じられる。
込み上げてくる得体の知れない感情を、黒光りする短剣に込め、顔を上げた。

確かに重いが、俺がやらなければ...そう思えば、身体の奥底から力が沸き上がっていく気がする。

そして、素早く一人の兵士に近づいた。
大人と子供、身長差はあるが決して届かない訳ではない。
ソランは軽やかに飛び上がると兵士の口元を抑え、首に得物を突き立てた。

「ングッ!」

声にならない苦悶の声を上げると、兵士はダラリと後ろに倒れ込んだ。

意外とあっさりだったな。人を殺すことに何か感じるかと思ったが、そうでもなかったな。

命の感触は、余りにも感じなかった。

そう思いながら他の兵士を見るが、ソランに気が付いている者は居ないようだ。
まだミリアの方を見て卑下た笑みを浮かべている。

「次!」

小さく呟くと、ソランは隣の兵士の後ろに立ち、短剣を構える。
今度は、後ろから心臓の位置を見据え、一思いに突き刺し。
こちらは、刺された心臓に手を当てると直ぐに崩れ落ちた。

「まだまだ!」

ソランは残りの兵士達を強い眼差しで見据える。
まだ気がついていない。
止まることはできない。進み続けるだけだ。
そうして、兵士が離れたところや後ろに出てきた隙を狙って心臓や首筋を刺していくこと3回

残りの兵士5人になるまで、よく気づかれなかったな。ミリアを助けるまでは気が抜けない。

ソランは感嘆のため息を吐く。

「オイッ!次のヤツ!」

「・・・」

「オイッ!次・・・って、どこへいった!?」

兵士の一人が異変に気付き、辺りを見回す。
そこには立っている兵士はおらず、息絶えた者達、返り血を浴び、汚れた薄暗い紅の瞳を持つウェーブのかかった髪の少年だけだった。

「テメェッッ!!!」

兵士は剣を掴もうとするが、そこに剣はない。

兵士たちの武器を遠離けておいてよかったな。

気付かれた時の事を考え、先にソランが剣を遠くに離しておいたのだ。
剣がない事にたじろぐ兵士達に、ソランはすかさず飛びかかる。

「グァッ!」

間髪入れず一番近い兵士を襲う。

「クソッ!ガキの癖のにっ、グハァ!」

「まだだァ!!!」

ソランは怒号を上げ、3人目の兵士の心臓に短剣を突き立てた。
兵士がソランの腕を掴み、心臓に刺さった短剣を抜こうとする。」

ミリアのために、ミリアを守るために、ミリアを返せッ!
こんなところでっ───

「負けて堪るかァッ!」

ソランは短剣を持つその手に、一層力を入れる。
鍛えられた大人とそうでない子供、その差は歴然だ。直ぐに短剣を抜かれてしまう。
しかし、抜けた瞬間に吹き出た血は、軽く致死量を越えていた。
ソランを殴ろうと拳を振り上げるが、限界を迎えたようで、振り上げた拳を痙攣させながらその場に崩れていった。

「ハァハァ、あと2人」

「ガキがァ!くたばりやがれッ!」

剣を取った兵士2人はソランを挟み込むような陣形を取る。

兵士は剣を構え、ソランの心臓めがけ突っ込んでくる。

挟まれた!? 何か、何かないのか?まだ死ねないんだ!

剣がソランの肌に触れる瞬間、ソランは咄嗟にしゃがみこんだ。死んだ、そう思った刹那、

「ウッ、グハッ!」

兵士の1人が血を吐いた。
驚きに顔を上げると、そこには交差する2本の剣がある。
俺は、助かったのか? でも一体?

よく見ると片方の剣の先端が一人の兵士の心臓を貫いていた。それは偶然か、身長が低いため視界から消えたようになったソラン。驚いた片方の兵士が手元が狂ったのだ。

「クッ、ガキがッ!死ねッ!」

邪魔だ、と言わんばかりに痙攣する兵士から剣を抜き取ると、ソランに斬りかかる。
しかし、日頃の鍛練の差、防戦一方になってしまう。

「まだっ、まだァァァ!」

唇を噛み締め、兵士に斬りかかろうとするがどうしても守るしか手がなくなってしまう。

やはり今まではミラクル、剣が弾かれるのも時間の問題か。

「だが、まだ───」

───バシィィィ!

遂に短剣が弾かれてしまった。
短剣が弾かれたせいで自分の腹を兵士に晒す体勢になってしまっている

此処までか、俺はミリアを...

そう覚悟を決め、再度目を閉じようとした瞬間、何かがソランの目の前に飛び込んできた。
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