黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

柊木榎流

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prologue 『死者奴隷』

第9話 誰かの声

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「俺に、夢を?」

そう問い返すソランのその声は、震えていた。

「...でき、る。よ。ソラン、なら...だって、優しくて強いもの」

いつかもそんなこと言われたな。

そんなデジャヴ感に、沸き上がる怒りや哀しみも何もかもが混ざり合い、泣き笑いという不格好な顔になった。

「は、ははは!そうだな。ミリアが言うなら出来るかもな」

「うん...大丈夫。私が...付いているもの。それに、ソラ、ン。初めて笑った」

そう微笑むとソランを抱き締める手をダラリと下げた。
その目に光はない。
遂に、ミリアのその命の炎が終わりを迎えたのだ。

地面が揺れ、二つに割れた兵士の身体が飛んでくる。
グラム帝国の前線が遂に限界を迎え、決壊したようだ。

「『戦姫』だっ!逃げ─グハァ!」

「クソッ、クソっ!」

「今だ!アルステラ軍、進め!」

「「「「「おぉぉぉぉ!!!」」」」」

そんな悲鳴と怒号がソラン達の周りを包み始めた。

「ミリア?...ミリア、起きろ。なあ、まだ逝っちゃ駄目だ...」

だが、ミリアはもう答えない。
押し下げられていく前線。ここも両軍が混ざり合い混沌と化していく。
しかしソランには、そんなことどうでも良かった。
ミリアを失った悲しさだけが、ソランの心を揺らし続ける。罅が入り、遂に...
遂にそれは、粉々に砕け散った。

「あぁぁぁぁ!!!」

「貴様!何者だ?」

敵兵が、ソランの素性を聞いてくる。

そんなこと、どうでもいい。もう、何も知らない、分からない。

ソランは、唯々泣いた。泣き続けた。何も頭に入ってこない程に。
そんな様子を見た敵兵は、

「奴隷か。アトラ様から、奴隷は殺すなという命が出されているからな。先に進むか」

そう言って立ち去っていった。
残るのは、大きな声を上げて泣く少年のみ。あっという間に前線は過ぎ去った。
ソランは泣いた。
泣いて、泣いて、泣き続けた。自分も分からなくなるほどに。
だからこそ、気付かなかった。ソランの頭に響いている声に。いや、ソランは無理矢理聞かなかった、無視したのだ。
涙も枯れて、ようやく落ち着いてきた頃、ソランは自分の状況を改めて確認する。

「俺を繋ぐ鎖は、もうないのか...」

此処には誰もいない。何もない。
ソランを縛り付ける物。ソランを痛め付ける者。その何もかもが。
それは今を生きる誰かには小さくて、過去に縛られたソランには大きな事だ。

俺を縛るものはもうどこにもない。俺が望んだ未来、叶わないと何時かに棄てた夢。でも、そこにはミリアはいない。

「俺は...どうすれば」

そこにミリアはいなかった。ミリアとなら、何処へでも行ける思った。でもいない。俺には、だえ一人居なくなった。分からない、見えない、此処に居たくない、早く死んでしまいたい。

「ミリア、俺は...どこへ行けばいい? どうすればいい?」

それに答える声はない。ないはずだった。

《大丈夫、ソランなら。君は強い。運命を引き寄せる力がある。だから、大丈夫。さあ、ソラン、一歩踏み出して》

それはミリアの声だった。否、少しだけ違う。ミリアの声なのだが、不思議とソランには沢山の人の声があるように感じたのだ。

誰だ?...ミリア? でも、ほかにも誰かいるような...忘れちゃいけない何かが。

しかし、ソランにはそんなことよりももっと大きな事があった。暖かいのだ。背中が、心が。まるで誰かが背中を押しているように力が沸き上がってくる。

「ミリア?」

振り返るがそこには誰もいない。でも、ミリアが微笑んだような気がした。

「そうだ────」

一度崩れたものが重力を無視して浮き上がっていく。

「ここに居なくても、ミリアは此処にいる───」

それはかつての姿をかたどっていく。

───俺を縛る物はもうどこにもない。

───ならば、翼は無くともこの足でどこへだって行ける。

───この腐った世界を変える事も出来る。

───そう、変えるんだ。

「そうだッ、変えてやるッ! 俺は、俺はこの世界を這い上がる!」

ソランは座ったまま、冷たくなったミリアを抱え、吠える。

「そして、この腐った世界を変えて見せるッ!」

血で紅く汚れた姿で。

「皆が笑って過ごせる世界に!もう俺の様に悲しむ者がいないように!」

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

謳う、謳う、謳う。

祈る、祈る、祈る。

この世界の理不尽を。
この世界の不条理を。

「アアアァァッッ!!!!」

ソランは必死に叫んで、謳って、祈り続けた。
喉が張り裂ける位に。
声が枯れる位に。
そこに残るは静寂のみ。

「君、その意気込みは本当?それとも、ただの戯れ言?」

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