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第1章 『動き出す世界』
第10話 魔人
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───あれは100年頬前の話。
当時からグラム帝国は非道の限りを尽くしていた。しかしながら、その時の人間族|《ヒューム》が序列第4位だったことにその非道さが関係していないと言えば嘘になる。
そんなグラム帝国の辺境に一人の辺境伯が居た。その男はグラム帝国の中でも『民を大切にする領主』として領民にとても親しまれている。
その辺境伯には妻と息子2人がいて民と共に、質素に幸せに暮らしていたそうだ。
しかし、それは長く続く事は無かった。グラム帝国は民に情けをかけ増長させるのを嫌った。民による謀反を恐れていたのだ。だから、その辺境伯が国は気に入らなかった。だから、辺境伯を消し去る計画を立てた。
在りもしない謀反の計画書を作り出し、そして巧妙な手口で辺境伯のサインをそこに書かせた。
それは偽物だが、言葉よりも強い効力のある証拠だ。
そして、偽造された計画書を証拠に辺境伯を帝国裁判にかけた。
もちろん、顔見知りの貴族も、国の王すら敵だ。その裁判に味方などいなかった。
結果は有罪。
詳しいことは分からないが、辺境伯の妻と子供は処刑されたとされている。
同じく辺境伯も処刑されるはずだったが、当時のアルステラ王によって護送車は襲撃、辺境伯は助け出された。
「───ここまでが話の前半だ」
アルグレットはキリの良い所で一度話を切った。
見回せばアトラが難しい顔をしている。その非道を6年も受けて来たソランを救った身だ。無理もないだろう。祖父の話からも、グラム帝国が建国された約1000年も前からその所業は何一つとして変わっていないという。
「グラム帝国はその時から既に腐っていたのか」
「そんな強気な国だ。曾お爺様も滅ぼすに滅ぼせなかったのだろう。此処で我々が止められたのは行幸だった。ソランの話は聞いたが、幾ら何でも酷過ぎる。」
アトラからソランがこれまでにグラム帝国から受けていた無道な仕打ちは聞かされていた。そのどれもが、聞くのも耐え難い程の暴虐。それは、拷問など生温く思えてしまうものだった。一国の王子として、数々の拷問にあったスパイたちの話を聞いてきたアスクレートでさえ、吐き気がするようなものだった。
「……ソラン、よく精神、保っていられる」
そんなレゼリアの発言。話を聞いているだけで吐き気がし、悪寒がする程だ。実際に受けた本人に、どれ程の肉体的、精神的ダメージがあったあだろうか。それを考えれば、よくソランは6年も堪えたものだ。いや、何故6年も壊れることなく生き抜くことが出来たのか、まるで分らない。
「それ故にソランは危ないかもしれないな。さて、何故辺境伯が魔人と呼ばれるまでになったか、続きを話そう。全ての答えはそこにある」
───当時のアルステラ王によって助け出された辺境伯は、そのままアルステラ王の下でアルステラのとある辺境の辺境伯となった。勿論、グラム帝国からは反対側の比較的落ち着いた辺境でだ。グラム帝国から解放され、静かに暮らしていけると思った矢先、一大事が起きる。
なんとグラム帝国の国王は全く関係のない辺境の人々を、その辺境にいたと言う理由で、全員処刑した。大衆の目の前で。言ってしまえば見せしめだ。
辺境伯は、普段の穏やかな性格からは考えられない程に怒りを露わにしたという。
苦しみ、悲しみ、怒り狂った。
怒りに身を任せ、込み上がる感情を全て、負の魔力に変えながら。
辺境伯の中で膨れ上がり、体中に蓄積された魔力は、人間族|《ヒューム》が、いや、あらゆる生命が保有できる魔力を優に超えていたという。
普通の人間がオドの保有できる魔力以上の魔力を保有し続けると身体が崩壊し、確実に死に至る。
その日、辺境伯は確かに死んだ。
だが怒りに呑まれた辺境伯の魂は、死の世界に行くことなく、その肉体に縛り付けられ、この地に残った。
その結果、魔人と呼ばれる人智を超えた生命体が生まれたという。
その魔人は我々人間族|《ヒューム》より、遥かに強かった。
人間族《ヒューム》は直ちに世界に10人いるsランクの冒険者を集め、その討伐に当たった。sランク冒険者の迅速な対処により、討伐することが出来なかったものの、ある地に封印することに成功する。
その時に負った被害により、人間族|《ヒューム》は十二傑大戦から手を引くことになり、序列も最下位に落ちることとなった。
「───これが、辺境伯が魔人になるまでの話だ。
その辺境伯の心の状態に、今のソランは限りなく近い。心を失っている。普通の様に見えて心はバラバラ、ミリアラナーとの約束という名の縄でぐるぐる巻きに巻いて何とか形を保っているだけの物だ」
「バラバラ?じゃあどうすれば......」
「だからアトラティーナ、お前が最後の柱になってやれ。それが偽物でも良い。もしソランがその柱を本当の心の芯にしたとき、ソランの心はもとに戻る。お前はソランの心を取り戻すきっかけになれ」
そう言って、アトラの目を覗き込むアルグレットの目は、何時になく鋭かった。
当時からグラム帝国は非道の限りを尽くしていた。しかしながら、その時の人間族|《ヒューム》が序列第4位だったことにその非道さが関係していないと言えば嘘になる。
そんなグラム帝国の辺境に一人の辺境伯が居た。その男はグラム帝国の中でも『民を大切にする領主』として領民にとても親しまれている。
その辺境伯には妻と息子2人がいて民と共に、質素に幸せに暮らしていたそうだ。
しかし、それは長く続く事は無かった。グラム帝国は民に情けをかけ増長させるのを嫌った。民による謀反を恐れていたのだ。だから、その辺境伯が国は気に入らなかった。だから、辺境伯を消し去る計画を立てた。
在りもしない謀反の計画書を作り出し、そして巧妙な手口で辺境伯のサインをそこに書かせた。
それは偽物だが、言葉よりも強い効力のある証拠だ。
そして、偽造された計画書を証拠に辺境伯を帝国裁判にかけた。
もちろん、顔見知りの貴族も、国の王すら敵だ。その裁判に味方などいなかった。
結果は有罪。
詳しいことは分からないが、辺境伯の妻と子供は処刑されたとされている。
同じく辺境伯も処刑されるはずだったが、当時のアルステラ王によって護送車は襲撃、辺境伯は助け出された。
「───ここまでが話の前半だ」
アルグレットはキリの良い所で一度話を切った。
見回せばアトラが難しい顔をしている。その非道を6年も受けて来たソランを救った身だ。無理もないだろう。祖父の話からも、グラム帝国が建国された約1000年も前からその所業は何一つとして変わっていないという。
「グラム帝国はその時から既に腐っていたのか」
「そんな強気な国だ。曾お爺様も滅ぼすに滅ぼせなかったのだろう。此処で我々が止められたのは行幸だった。ソランの話は聞いたが、幾ら何でも酷過ぎる。」
アトラからソランがこれまでにグラム帝国から受けていた無道な仕打ちは聞かされていた。そのどれもが、聞くのも耐え難い程の暴虐。それは、拷問など生温く思えてしまうものだった。一国の王子として、数々の拷問にあったスパイたちの話を聞いてきたアスクレートでさえ、吐き気がするようなものだった。
「……ソラン、よく精神、保っていられる」
そんなレゼリアの発言。話を聞いているだけで吐き気がし、悪寒がする程だ。実際に受けた本人に、どれ程の肉体的、精神的ダメージがあったあだろうか。それを考えれば、よくソランは6年も堪えたものだ。いや、何故6年も壊れることなく生き抜くことが出来たのか、まるで分らない。
「それ故にソランは危ないかもしれないな。さて、何故辺境伯が魔人と呼ばれるまでになったか、続きを話そう。全ての答えはそこにある」
───当時のアルステラ王によって助け出された辺境伯は、そのままアルステラ王の下でアルステラのとある辺境の辺境伯となった。勿論、グラム帝国からは反対側の比較的落ち着いた辺境でだ。グラム帝国から解放され、静かに暮らしていけると思った矢先、一大事が起きる。
なんとグラム帝国の国王は全く関係のない辺境の人々を、その辺境にいたと言う理由で、全員処刑した。大衆の目の前で。言ってしまえば見せしめだ。
辺境伯は、普段の穏やかな性格からは考えられない程に怒りを露わにしたという。
苦しみ、悲しみ、怒り狂った。
怒りに身を任せ、込み上がる感情を全て、負の魔力に変えながら。
辺境伯の中で膨れ上がり、体中に蓄積された魔力は、人間族|《ヒューム》が、いや、あらゆる生命が保有できる魔力を優に超えていたという。
普通の人間がオドの保有できる魔力以上の魔力を保有し続けると身体が崩壊し、確実に死に至る。
その日、辺境伯は確かに死んだ。
だが怒りに呑まれた辺境伯の魂は、死の世界に行くことなく、その肉体に縛り付けられ、この地に残った。
その結果、魔人と呼ばれる人智を超えた生命体が生まれたという。
その魔人は我々人間族|《ヒューム》より、遥かに強かった。
人間族《ヒューム》は直ちに世界に10人いるsランクの冒険者を集め、その討伐に当たった。sランク冒険者の迅速な対処により、討伐することが出来なかったものの、ある地に封印することに成功する。
その時に負った被害により、人間族|《ヒューム》は十二傑大戦から手を引くことになり、序列も最下位に落ちることとなった。
「───これが、辺境伯が魔人になるまでの話だ。
その辺境伯の心の状態に、今のソランは限りなく近い。心を失っている。普通の様に見えて心はバラバラ、ミリアラナーとの約束という名の縄でぐるぐる巻きに巻いて何とか形を保っているだけの物だ」
「バラバラ?じゃあどうすれば......」
「だからアトラティーナ、お前が最後の柱になってやれ。それが偽物でも良い。もしソランがその柱を本当の心の芯にしたとき、ソランの心はもとに戻る。お前はソランの心を取り戻すきっかけになれ」
そう言って、アトラの目を覗き込むアルグレットの目は、何時になく鋭かった。
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