黄昏と黎明の死者奴隷《スレイデッド》

柊木榎流

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第1章 『動き出す世界』

第9話 ミリアラナー

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ソランが謁見室から出て行ったあと、まだ4人は謁見室に残っていた。

「陛下、リーダでございます。至急、お伝えしたい事が」

「入れ」

扉を開け、リーダが入って来た。その姿は何時か見た時より元気がないように見える。

「リーダ、ソランに歴史を教えるという話になっているはずだが、一体どうしたのだ?」

たった今、ソランにこの世界の歴史を指導しているはずのリーダが、何故か此処にいる。そんな状況に疑問を覚えたアトラが此処へ来た理由を聞いた。

「申し訳ございませんアトラ姫様。しかし、先の戦争でソラン殿が抱いていた少女について、重大な事実が判明したとの報告を受け、大至急此処へ来た所存でございます」

「ティゼリアが居ないが...まあいい。アトラ、少女とは?先の戦争、よく知っているのはお前だろう。詳しく説明してくれないか?」

アルグレットに事の経緯を聞かれたアトラは、何処から話すか、と少し悩んだ後、戦争で見つけたソランの話、その時ソランが抱いていた銀髪の少女の話を事細かに鮮明に話した。
アルグレットは、終始真剣な顔で話を聞き、所々で相槌を打ったりしていた。
全てを話し終わった後、アルグレットは静かに口を開いた。

「その少女が、ミリアラナーに似ていると。しかし、ミリアラナーが誘拐されたのは3年も前の話だぞ。
一国の王女となれば即処刑でも可笑しくないはずだが」

アルステラ王国第四王女、ミリアラナー=ルール=アルステラ。
母エルゼリアに似た銀の髪に、父アルグレットに似た碧い瞳の心優しい少女だ。
ある日、町に行くといったきり、帰って来る事は無かった。
当時アルステラ王国と敵対していたのはグラム帝国のみ。国の者はグラム帝国の仕業だとグラム帝国の動向を洗いざらい調べたが、大した成果を得ることがなかった。
それから3年。彼女は未だに行方が分かっていない。
ミリアラナー王女は何処か人目につかない所で殺され、その死を隠蔽されたと思われている。

「少女についてですが、随分と痩せていましたし、身に着けているものもなかった為、身元を判断するのが難しかったのですが、先日、ソラン殿の居たところの周辺でこの様な物を見つけました」

そう言ってリーダは懐から碧い首飾りを取り出した。
その首飾りは、翼の片翼を模した形をしている。その中心には、碧い石がはめ込まれている。
石にはアルステラの竜の家紋が彫られている。

「それは...私が、ミリアラナーにあげた...」

今まで物静かだったレゼリアが目を見開いた。

「えぇ、そうです。レゼリア姫様がアトラ姫様、ミリア姫様にあげた首飾りの一つで間違いありません。
それに、ソラン殿もあの少女を『ミリア』と呼んでいたので間違いないでしょう。彼女は、ミリアラナー様です。」

「リーダ、間違いないのだな?」

突然の事だ。此処にいる誰も頭で理解しきれていないのだろう。
アルグレットですら半信半疑でリーダにその真意を聞いたのだ。
リーダは目を伏せると、

「残念ながら......」

顔を伏せ、首を振りながら絞り出すように答えた。
分かっていた。分かっていたのだ。
アトラを含め、此処にいる者達は分かっていた。ミリアがもう戻ってこないことを。
ミリアが姿を消してから早3年、それでも、あの向日葵のような優しい笑顔を忘れる事は無かった。
だから皆涙する。

「そんな、まだミリアラナーとは話すことがたくさんあった。これから、これからみんな笑える世界を作るって言っていたのに」

「まだ、ペンダントのお返し...貰って...ない」

アトラ、レゼリアが目じりを赤くし泣いている。
アスクレートも、目頭に指を当て、泣いてる。
リーダ迄《まで》もが、泣いている。
俯くリーダの肩に、アルグレットは手を置いた。

「それでも、ミリアの所在を見つける事が出来た。ミリアの身体迄持ち帰ってくれた。
リーダ、感謝している」

「いえ、感謝するのはソラン様ですよ。最後までミリアラナー様を、いえ、今でもミリアラナー様をお気になさっているのです。ミリアラナー様の御身体を持ち帰ったのは、紛れもなくソラン様です」

きっぱりと、強い意志を持ってリーダは答えた。
そうか、とアルグレットは小さく溢すと、大きく笑った。その頬にはまだ、涙が流れている。

「そうか、そうかそうか。ミリアを連れ帰ったのはあの少年、ソランであったか。
恩が出来てしまったな。アトラ、ソランを頼むぞ。まだ悲しみから立ち直れてはおらんだろうからな」

「父上に頼まれずともそのつもりだが、立ち直れていないとは? 確かにソランが負った心の傷は大きいが...」

「目を見ればわかる。彼奴|《あやつ》の心の奥底には、未だ悲しみが燻っておる。人間、そう簡単に立ち直れるものではない」

アルグレットは鋭く答える。

「彼奴《あやつ》の悲しみは下手をすれば、取り返しの付かない程の憎悪と成り得る。
若《も》しそう成ると...そうだな、お前達には何故人間族|《ヒューム》が此処迄力を落としたのか、話さねばなるまい」

「人間族《ヒューム》が序列最下位になった理由、ですか?」

歴史好きの血が騒いだのだろう、アスクレートが興味を示した。
何故、今その話が重要なのか解らなかったが、人間族|《ヒューム》が十二種族の中で最弱の種族なのは事実である。アトラもその話を聞く姿勢だ。

「あれは俺の祖父の代の話だ───」


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