偽りの満月の姫

仲室日月奈

文字の大きさ
2 / 14
第一章 奪われた秘宝

1

しおりを挟む
 空の鏡がまばゆい光を放っている。
 満月の王国では、真昼であっても太陽が姿をさらけ出すことはない。あるのは変わらず、漆黒の空を彩る月のみだ。
 月光の都は常に仄暗い。そんな中、王国民を優しく包むのは精霊石の灯りだ。時間によって赤にも青にも色を変える不思議な石は、眠った精霊が宿っていると言われている。

「まーた、無意味なことをやってんのか?」

 呆れ声が降ってきて、ディアナは自分を見下ろす少年をにらんだ。

「ほっといて。集中できない」

 再び瞼を閉じ、目の前の札に意識を向ける。
 特殊な和紙で描かれた崩し文字に霊力を流しこむと、文字は一度鈍く光ったものの、すぐに黒い文字に戻る。

(反応はあるのに、やっぱり呼びかけには応じてくれない……)

 下級精霊を呼び出す精霊札でさえ、ディアナは満足に使いこなせない。何がいけないというのか。いくら考えても答えは見つからない。
 少年はベンチの前に回りこみ、銀色の短髪をぐしゃぐしゃにした。

「お前のことを悪く言うやつのことなんて、いちいち気にするなよ」
「……セシルにはわからないのよ。私のみじめさが」

 月宮殿での唯一の味方は姉だけだ。しかし、流行病で両親が他界し、先代に代わって女王となった姉は遠い存在になってしまった。会いたいときに会うこともできない。

「わかった、また陰口でも言われてたんだろ。気にしなきゃいいのに」
「違うわよ」
「だったら何だよ?」

 ディアナはとっさに答えが返せない。
 心の中のもやもやした気持ちは複雑で、うまく表現できそうになかった。

(私はあの頃のまま、何ひとつ変わっていない)

 一人で解決できる問題じゃないのに、頑になってしまうのは悪い癖だ。迷惑をかけたくない思いが歯止めをかけ、いつも素直になれない。
 そんな葛藤を見透かしたように、セシルは諭すように言う。

「ここにはお前の仲間がいるだろ。それとも、俺らじゃ不満か?」
「そんなわけないでしょ! 私を受け入れてくれる人たちに、不満なんて抱くわけないわ」
「じゃあ、別にいいだろ。無理に変わろうとしなくたって」

 まっすぐな瞳に自分の情けない顔が映り、ディアナはうつむいた。

(でもこのままだと……この先もずっと、お姉様の負担になってしまう)

 誰の目から見ても、女王は立派に責務を果たしている。そして、数少ない時間を妹のために割き、そのせいで謂われのない非難を浴びることも少なくない。
 本人がいくら気にしないとはいえ、自分のせいだと責めずにはいられなかった。

「今どき、精霊が使えないやつなんて珍しくないだろ」

 蓮の形をしたランプに囲まれた下町は、薄紅の光に満ちている。半永久的に光り続ける石以外にも、精霊の力はあらゆる場面で重宝されている。精霊を直接使役できない者は、特殊加工された札から霊力を借りて日常を営んでいた。
 しかし、励ましの言葉はディアナの心に冷たく滲むだけだった。自然と声色も沈む。

「精霊札を作ってるセシルに言われても、説得力は皆無なんだけど」
「うっ……」
「何よ、その困った顔。別に慰めてほしいわけじゃないのよ、私は。……修行を続けていたら、いつかは成果があるかもしれない。少しでも可能性があるんだったら、私は諦めたくないだけ」

 精霊札を木のテーブルの上に置くと、横で見ていたセシルが口を開く。

「そうやって、努力し続けるところは嫌いじゃないぜ。俺も付き合ってやるよ」
「仕事の途中なんじゃないの? 別に一人でも十分よ」
「うわ、可愛げがないやつだな。道理で、嫁の貰い手も寄ってこないわけだ」

 感慨深げにつぶやく声に、ディアナの両目がきらりと光った。それから見事な反射神経で正義の鉄槌を食らわす。

「お、お前なあっ……言葉より足が先に出る癖、何とかしろよ!」
「大きなお世話よ!」
「割と本気で痛いんだぞ、これ!」

 足蹴りを受けた膝をさするセシルは涙目だ。

(ふんだ。これを機に、年頃の乙女にかける言葉を勉強したらいいんだわ)

 自分を疎む目から逃げるように、月宮殿を抜け出して下町へ訪れるようになったのは数年前のことだ。そこで出会った初めての友達だからこそ、本音でぶつかり合える。
 そのことに感謝しながらも、ディアナはお説教を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...