相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴

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26 恋愛初心者

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「なあ、月島はさ。俺の何処が好きなんだ?」


 手を繋いだまま星空を眺め、溢れ出した感情も落ち着きを見せた頃。俺は軽い気持ちでそんな疑問を投げかけた。

「全部だ」
 問われた月島は表情一つ変えずに即答する。

「ぜ、全部?」
「そう、君の全てを愛している」

 気障な台詞と共に、手の甲に口付けが落とされる。
 あまりにも芝居がかり過ぎた仕草だが、この男には嫌味なくらい似合っていた。

「う、わっ」

 不意に、繋いだ手を引かれて体勢を崩す。履物が落ちる音で、俺は月島に抱き上げられていることに気が付いた。
 至近距離に迫った顔が、俺の髪や頬に次々と口付けを降らせていった。

「君の目が好きだ、意志の強そうな釣り目が蕩ける瞬間を見るのが堪らない。どれだけ撫でていても飽きない柔らかな髪が心地よい、 たまに寝癖が付きっぱなしになっている姿が愛おしい。匂いも好きだ、香水なんて要らないほど甘やかで蠱惑的な香りがする」
「ちょ、ちょっと、待て」

「そうして愛されると動揺する様がいじらしい。何処までも甘やかしたくなると同時に、意地悪して怒らせたくなる。睨み付けられている時でさえ、少し上目遣いになっている様に目を奪われる。君との身長差を割と気に入っていてね、自分が体格に恵まれていて良かったとしみじみ思っているんだ」
「つ、月島……!」

 逃げることも出来ないまま月島の囁きに襲われる。耳朶を打つ声は甘く蕩けていて、俺の胸を高鳴らせた。
 月島は俺を抱えたままベッドルームに向かって歩を進める。

 そして、広々としたキングベッドに俺を下ろすと、尚も語り続けた。

「浴衣から見えるうなじが色っぽいな。君は自分で知っているか? 気持ち良くなると、ここから肩まで赤くなるのだ。最中に必死で私にしがみつこうとする指先も愛おしい、引っ掻き傷さえ君に求められた証のようで誇らしい。陽の光を知らない腹や太ももは白く艶めかしくて赤い跡がよく映える」
「もう、充分だ。充分わかったから……!」

 指先でなぞりながら、月島は丹念に俺の身体を愛でていく。
 膝元まで降りたその指が浴衣の内に侵入するのを見て、思わず脚がびくりと動いた。

「このしなやかな脚でしがみつかれると堪らなく嬉しくなる。時たま蹴られることもあるけれど、君にだったら悪くないかな。君の愛情表現は些か暴力的なところもあるが可愛らしく思うよ」

 そっと浴衣の裾がめくり上げられ、ひやりと夜風が太もも尾撫ぜる。
 月島は、強張った俺の脚を恭しく抱き上げると、膝に口付けた。そのまま唇を這わせながら、足の甲まで滑り落ち、つま先を舐め上げる。

 背徳的過ぎる光景だ。

「や、やめろよ、汚いだろ!?」

 裏返った声で制止するが、月島はまるで意に介さずくるぶしに歯を立てる。

「君の身体で汚いところなど無いよ」

 月島は恍惚とした表情で俺の足を抱いて、頬を寄せた。
 ……もはや、身じろぎすら出来ない。されるがままである。

「もっと、君を愛させてくれ」
「っ、お前なぁ……!」

 焦れったいほどの手付きで裾を掻き分けられ、浴衣の帯に手をかけられた瞬間、俺は突然の羞恥心に襲われた。
 散々裸を見せ合った仲だというのに、今は何故か途轍もなく恥ずかしい。
 それもこれも、月島のせいだ。コイツがあまりにも熱を帯びた目で俺を見るからだ。

「……ッ」

 帯を解かれる様子を直視していられず、両腕で顔を隠す。それでも、衣擦れの音がやけに大きく聞こえて耳を塞ぎたくなった。
 浴衣の中には、下着だけしか身に付けていない。
 ほぼ裸体に近い俺の身体を眺めて、月島は小さく息を吐いた。

「いつ見ても、綺麗だ。篠崎君、顔も見せてくれ」
「ぐ……」

 熱を帯びた吐息が首筋にかかる。腕を固く組んでささやかな抵抗を試みたが、その手首にすら吸いつかれて渋々腕を下ろした。
 おずおずと目を開けば、軽く頬を上気させた月島と目が合う。

「ふ、真っ赤だな」
「誰のせいだと思っていやがる……!」

 充分に自覚のあることをわざわざ指摘され、更に顔が熱くなる。
 月島は悪戯っぽく笑うと、全然悪びれていなさそうな声色で言った。

「悪かったね。君があまりにもいじらしい質問をするものだから」
「お前にそんなことを聞いた俺が馬鹿だったよッ」

 揶揄うような響きにむっとして睨み返すと、宥めるように軽いキスを落とされる。

「私としてはまだまだ言い足りないところなのだが」
「もう勘弁してくれ、恥ずかしくて死にそうだ……!」
「ふふ、君が慣れるまでは少しずつ伝えていくとしよう」

 そして月島は口を閉じ、今度は全身に跡を残していく。あっという間に俺の身体は、所有の証だらけとなった。
 月島の唇の感触がこそばゆくて身をくねらせるが、感じているのはくすぐったさだけではなかった。
 じりじりと迫るような熱が背筋を這い上がってくる。思わず背を反らしたら、突き出す形になった胸をかぷりと食まれた。そのまま胸の飾りを舌で弄ばれ、吐息が零れる。

「ん、あ……」

 もう片方も軽く引っかくように刺激され、肩が跳ねる。
 胸なんて刺激されてもそんなに感じなかったハズなのに。何故か今日は全身がひどく敏感で仕方がない。じゅる、と吸い上げる音にも感じ入ってしまい、自分が淫乱な人間に思えて恥ずかしくなる。
 月島も俺の反応がいつもと違うことに気付いたのか、こちらを見上げてにやりと笑った。

「今日は一段と可愛らしい反応だな」
「う、るせ……!」

 緩んだ眼光で精一杯睨みつけるが、向こうは嬉しそうに笑うだけだった。
 そんな僅かな抵抗も、下着に手をかけられて簡単に制されてしまう。俺が身を強張らせる中、月島は殊更時間をかけて下着を抜き取り、それをベッドの下へと放った。

「……っ」

 浴衣の上に身一つで寝転がっているのは心もとなくて、意味もなく膝を擦り合わせる。
 月明りさえも明るすぎるように感じられて、無意識のうちに浴衣の裾に縋り付いていた。

「随分と初心な反応をしてくれる」
「……っう」

 揶揄うようなセリフとは裏腹に、真剣な表情の月島を見て言葉が詰まる。恥じ入る俺の姿が琴線に触れたのか、目に焼き付けんばかりにこちらを見つめていた。
 月島に見られている。ただそれだけで鼓動が早まっていく。
 息を飲んで身を強張らせていると、月島は少し眉根を垂らして俺の腰を撫でた。そのまま身をかがめ、少し反応を示している俺の性器に舌を寄せる。

「う、あ」
「そんなに緊張することはない、今日は優しくする」

 口には含まず舌先だけで刺激され、緩い快感に身体の力が抜けていく。ぴくりと震える度に宥められながら、ゆっくりと月島に身を委ねていった。

 緊張が幾分か和らいだ頃を見計らって、月島はベッドサイドへと手を伸ばした。
 節くれ立った指先でローションを絡め取り、水音を立てながら温めている。そんな仕草を眺めつつ、ふと思う。


 ――これから好きな男に抱かれるのか、と。


「……!」

 急激に胸が高鳴り、顔が紅潮していくのを隠そうと腕を持ち上げる。
 そうか、緊張の理由はそれか。
 もう月島はただのセフレではない。これから共に過ごす、パートナーなのだ。

「指、入れるぞ」
「あ、ちょっと、ま……っ!」
「まだ冷たかったか?」

 月島の指が体内へと入り込んだ瞬間、湧き上がる衝動に堪え切れずに跳ね起きた。そんな俺を、月島は丸い目をして見つめている。
 その顔がどこか申し訳なさそうな雰囲気を湛えているのを感じて、適切な返答が思い浮かばないまま口を開閉させる。

 やばい。

 何がやばいのか俺もよく分からんが、とにかくやばい。
 何だこの胸の高鳴りは。散々繰り返してきた行為だ。もはや互いの裸体も見慣れた仲である。

 それなのに、こんなにも心臓がうるさくて仕方がない。心が通じ合うというのは、こんなにも感じ方を変えてしまうものなのか。

「篠崎君?」
「だっ、大丈夫だ。続けてくれ」

 心の準備が出来ていないことは明白だが、今さら初々しく恥じらうこともためらわれて動揺を押し殺す。

 しかし、月島には俺の心境などお見通しのようだった。
 明らかにいつもよりもゆっくりと、浅い所から徐々に慣らされていく。痛くないように、怖くないように、そう気遣われているのが伝わってきた。

 まるで本当に初夜を迎えたばかりのように優しく扱われ、嬉しさと気恥ずかしさで胸が一杯になる。

「月島……」
「ん……」

 乞うように名前を呼べば、俺の意図を敏感に察した月島が顔を寄せる。
 その背に腕を回して、深く深く口づけた。

「ふっ……あ……」

 絡み合う舌の熱さに恍惚としている内に、体内を探る月島の指が増えていく。
 ばらばらに動く指先はそれぞれ快楽を生み出していくが、いつものような性急さはない。
 これまでのように俺の全てを奪いつくすような手つきではなく、内側からどろどろに溶かさんばかりの甘やかさだ。
 緩やかな快感を愉しむ余裕も生まれてきて、陶然と目を細める。

「きも……ちい……」
「……!」

 思わず口から滑り落ちた呟きに、月島の喉仏が大きく上下した。
 指の動きが僅かに早められる。感触を確かめるように内壁を押し広げられ、ぐちゃりと鳴った水音に顔を逸らした。

「篠崎君……挿れてもいいか……?」
「うん……」

 余裕の無い低く掠れた声に、小さく頷きを返す。
 承諾を受けて身を起こした月島は、自分の浴衣の帯を邪魔そうに解いて前を寛げると、袖の袂からゴムを取り出して口の端で封を噛み切った。

 もどかしそうに中身を取り出し、すっかり硬くなっているモノに被せようとしているのを眺めながら、ふと思い立って消え入りそうな声で囁く。

「なあ……お前さえ良ければ、付けなくてもいいよ」
「な、に?」

 俺の言葉を受けた月島は、目を丸く見開いてぴたりと動きを止めた。

「だから……そのまま、中に出してもいいって言ってるんだよ……!」
「本当にいいのか?」
「二度は言わないぞ……!」

 月島の言葉を切って捨て、口を閉ざしたまま返事を待つ。
 恥ずかしさで滲む視界には、変な顔をして真っ赤に染まっている月島が写っていた。
 困ったように垂れる眉毛と真ん丸な目、そして必死で緩むのを抑え込んでいるような口元。初めて見る顔でどういう感情かは分からないが、とにかく一杯一杯になっていることは伝わってきた。

「君が、受け入れてくれるなら――」
 月島はゴムを捨て、先走りで濡れたソレを俺へと押し当てる。

「直接、感じたい」
「……」

 無言で頷くと同時に、つぷりと分け入られる感触がして強くシーツを握り締めた。
 一気に突き上げられるかとも思ったが、余裕の無さとは裏腹に、月島はゆっくりとした動きで自身を埋めていく。

 体内を焼く熱がいつもより熱い気がして脚が強張る。
 きっとそんなものはただの勘違いだ。けれども、たった一枚隔てる物が無くなっただけで生娘のように緊張しているのも事実だった。
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