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第1話
しおりを挟む「え、まじか。」
思わず声が出てしまった。
昨日の記憶と重ね合わせ、よく考える。うん、やっぱりそうだ。いや、というかあの言動そうだとしか思えない。
(あの子が、アイドル・・・)
ーーー高2、春。新学期を迎えた。つい最近入学したばかりだと思っていたが、気がつけばもう1年経っていた。早い。
今日はクラス発表があるせいか、浮足だった生徒が多い。クラス発表なんてどうでもいい・・・なんて言えたらかっこいいんだろうけど、そんなの無理だ。俺はめっちゃ気になるし、気にするタイプだ。
誰か1人でも仲のいい奴がいればいいんだけど・・・
「おーい!ハル!お前俺と同じクラスだってよ!!」
背中に急な重みを感じると共に元気な声が聞こえた。
「シュウ・・・重い・・・」
「なんだよー!せっかく一緒のクラスになれたのに嬉しくねぇのかよー!」
こいつはシュウ。元気で、バスケが好き。身長小さくてバカだけど、本当にいい奴で一緒にいて飽きない。1年の時も同じクラスで、たまたま委員会が一緒で仲良くなった。
「不貞腐れんなよ、知ってる奴がいて嬉しいって。」
そういうと一気に顔がパァっと明るくなって、
「だろー!改めてよろしくな!」
眩しい笑顔を向けられた。お前は輝いてるな。早く降りろと促したが、渋るシュウに少しイラッとしつつも、こいつと一緒で良かったと思った。シュウといれば楽しいし、何よりぼっち生活はもうしたくないからな。
「この後ホームルームだよな?一緒に行こーぜ!あ、他のクラスメイト見に行く?ハルまだ発表見てないんだろ?」
「いや、いいよ。教室行ったらわかるし。」
「おっけ。なら行こーぜ!俺ら2組な!」
「はいよ。」
元気なシュウに連れられ、自然と笑顔になれる。
高2のスタートはいい感じに始まった。
教室に着くと知ってる奴がちらほらいた。俺たちが来たのに気づき声をかけてくれる。シュウほど仲良くはないが、これから同じクラスなんだ。少しずつ仲良くなれるだろう。
「えーっと、シュウくんとハルくんだね、よろしくね。」
そう声をかけ、名簿に丸をつけているのは俺らの担任、らしい。見かけた事はあるが全然知らない先生だった。第一印象はすごく優しそう。
「来た人からくじを引いて貰ってるんだ。席のね。どうぞ引いて。」
そう言って教卓に無造作に並べられた小さい紙達を指差した。シュウは迷わず引き、開いた。
「うげっ、1番前じゃん!」
「やったな。」
「ハルまじひどい。」
しゅんとしたシュウを見て思わず家の犬を思い出し、笑ってしまう。
「ハルも早く引けって!笑ってやるから!」
そう言われて適当に1枚引く。
「・・・あー、残念だ。」
「何!?ハルも1番前か!?」
「1番後ろだ。」
「なんだよそれぇー!ずりーな!」
いかにも不満だ!という顔をしているシュウを見て余計に笑えてくる。
「まぁ、そのうちまた席替えするだろ。どんまい。」
「くそー。次こそは1番後ろ引いてやる!」
そんなシュウの言葉を背にして自分の席に向かった。
席は最高の席だった。廊下側ではなく、窓側から2列目。隙間風もなく、直接日光が当たるわけでもなく、本当にちょうどいい席。
今年の運は使い切ったか?高2のスタートまじで良すぎる。これ以上の運は無いだろう。これからは下り坂か、やばいな・・・なんて事を考えているとホームルームが始まった。そこでふと気づいた。隣の席、窓側の1番後ろが空いている。教室には人数分しか机を置かない。まさか新学期早々から遅刻か?この空気はもう入りづらいだろ。そんな心配をよそに、担任はどんどん話を進めていった。
担任は国語担当の先生で佐々木先生と言うらしい。国語担当だからかは分からないが話し方が柔らかくてとても聴きやすい。すごく上品なおじさん先生って感じだ。女子からの人気が高そう。
そして最初のホームルームの名物、自己紹介の順番がやってきた。中学の時はこれが嫌で仕方なかった。人前で話す事が嫌いな人間にとっては地獄以外の何者でも無い。まぁ、今ならそつなくこなせるだろう。簡単に済ませる人、笑いを交えて話す人、声が小さすぎて何言ってるかわからない人さまざまだった。俺も名前と部活、簡単に挨拶をして終わった。次は隣の席だが、いない。前の席の子が迷っている。それに気づいた佐々木先生が話し出した。
「あぁ、そうだったね。今日は彼女お休みだから、飛ばして前の子お願いね。」
一つ前の席の子が戸惑いながら自己紹介を始める。新学期初日から休みか・・・
中学の時を思い出し、嫌な気持ちになる。やめよう、せっかくいいスタートが切れたんだ。俺には関係のない話、のはずなんだけど、昔の自分と重なってどうしても気になる。
明日は流石に来るだろうし、挨拶ぐらいはしようと心に決めた。
結局隣の席の子は翌日も来なかった。彼女が来られたのは初日から3日後の午後だった。昼休みに教室に入ってきて、隣の席に座った。ちらりと横を見る。長い黒髪が綺麗な女子だった。顔は眼鏡をかけているし、俯いててよく見えない。でも何となく、綺麗なんだろうなという感じがした。
そんな事を考えていて気がつかなかったが、いろんなところでひそひそと話すのが聞こえてきた。恐らくこの隣の席の女子の事だろう。無意識に近くの女子達の会話に耳を傾けていた。
「あの子病弱らしくって、1年の時もなかなか学校来れてなかったよ。声かけても反応薄いからあんまり話しかける子もいなかったし。」
「ふーん、1人の方が好きなのかな?」
「なんか悪いよね、そういう子に話しかけるの。」
「うん、なんて声かけるのが正解かわかんないし。」
「だよねー。」
そう言って普通の会話に話を戻していた。なんていうか、あぁ・・・というなんとも言えない気持ちになった。
初日家に帰ってからふと挨拶ぐらいはしようとか思ったけど、普通に友達多い子だったらって事を考え、俺めっちゃ上からじゃん!とひとり恥ずかしくなっていた。
だけど、これは流石に、いやでも・・・迷っているとシュウに声をかけられた。
「なぁハル!暇ならちょっと付き合えよ!」
「は?どこに?」
「体育館でバスケしよーぜ!」
「またかよ。」
「いーじゃん!先行くぞ!」
そう言ってシュウは走っていってしまった。
どうするかな、これ。迷ってそっと彼女に目線をむけた。彼女は本を取り出し読んでいた。その姿がどうにも切なくて、一瞬自分に見えて、気がついたら、
「俺、ハル。隣の席だから。よろしくな。」
口が勝手に動いていた。彼女は少しびっくりしたような表情をしてこちらを見た。とても綺麗な目をしていた。
「・・・よろしく、です。」
小さく呟くようにそう言って、目線を本へと戻した。そのまま俺もシュウの待つ体育館へ向かった。
なんとも言い難い気持ちだった。放っておけばいいのにという感情と、素直に返事をしてくれて嬉しかったという感情が入り混じっている。
「でも、なんだろ・・・」
初めて会ったはずなのに、俺はどこかで彼女を見たことがあるような気がしていた。
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