婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃

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証拠

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「ただいま戻りました」

 その後すっかり遅く、夕食の時間もすっかり過ぎた後に私は帰宅した。一応私の屋敷も王都の近くにあるため、時間はかかるものの歩いて帰ることも出来たのは幸いだった。クローム家の前に馬車を放ったらかしにしてほっつき歩いていたことを怒られるかと思ったが、何も言われなかった。もはや怒るほどの関心もないということだろうか。
そう言えば、私が怒られるのはいつもマリー関連の時だけだった気がする。とはいえそうと分かれば一週間後も堂々と外出できるので儲けものだ。
 心身ともに疲れ果てていた私は自室に帰るなり深い眠りに落ちた。

 そしてその翌々日のことである。いつものように私が屋敷内で出来るだけ目立たないように過ごしていると、マリーがいつになく機嫌よさそうにおめかししている姿を見かける。私の知る限りでは今日はマリーが家の用事で他家に出向いたり、パーティーやお茶会に参加したりする予定はなかったはずだ。

 しかし彼女はふんふんと鼻歌を歌いながら侍女たちに手伝ってもらっておしゃれをしている。その様はまるで恋人に会いに行く前のようであった。

 そこまで考えて私はぴんときた。そう言えば一昨日オリバーは私が体調を崩したと誤解していた。そして心の中でマリーと会える、などと言っていたが本当に会うつもりなのだろう。
 思い返せば、これまでも二、三度ではあるがマリーがやけに機嫌良さそうにしている日があった。それらはいずれもどこかに出かける前か後だった。ということはその時も今日と同様オリバーと会っていたということだろう。
 気づいていなかったのは私だけだったということだ。それを知って暗澹たる気持ちにはなったが、ある意味好機でもある。

 私は慌てて具合が悪い振りをして自室に引きこもった。するとマリーは私などいないかのようにご機嫌で出かけていった。

 その後、私は部屋から起き出すとマリーの部屋に向かう。
 掃除や片付けという面倒な行為を嫌うマリーはいつも、部屋を開けっ放しにして外出し、自分がいない間にメイドに掃除をさせている。マリーの機嫌を損ねればどうなるか分からないため、部屋で不穏なことをする使用人はいない。

 そのため彼女の部屋には簡単に入ることが出来た。なんてことない女の子らしい可愛い部屋だが、ベッドも布団も調度品も全て私の部屋にある物よりも数段高級品だ。同じ姉妹なのになぜここまで差があるのだろうか、と暗い気持ちになりかけたが今はそれを気にしている暇はない。

 私はマリーの机の引き出しを開けようとするが、鍵がかかっている。しかし私は以前、彼女が鍵をユニコーンの置物に隠していたのをたまたま見かけたことがある。机の上にあるユニコーンを見ると、下が開くようになっていた。中をのぞくと、確かに鍵が入っている。そしてその鍵で引き出しを開けることが出来た。

 そこには貴重品に混ざって、オリバーからの手紙が保管されていた。中を見ても気分が悪くなるだけだと思った私は日付が古いものだけを一通選ぶ。昔から浮気していたという証拠が欲しかったのと、古いものの方がなくなっても気づかれにくいと思ったからだ。

 ちらっと中を見るとそこにはオリバーからの愛の言葉と、次の密会の日付が書かれていた。ご丁寧にも「エレナにばれないように」などと書いているので「ただ会っただけ」という言い訳も効かず、証拠としては十分だろう。

 一通だけ手紙をポケットに入れて私はふと気づく。
 私をこれを手に入れて一体どうしようと言うのだろう。

 思えば、この時から私は無意識のうちにオリバーとの婚約を破棄することを考えていたのかもしれない。
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