婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃

文字の大きさ
18 / 30
封印の儀

伯爵の陰謀

しおりを挟む
 マルスリウスを摂政に任命してからのクリストフはますます王宮に籠りきりの時間が増えた。外に出れば次々と厄介な事件を持ち込む者たちがやってくるし、皆内心では自分のことを馬鹿にしている。最近は様々な者が自分の陰口をたたいているという噂もよく聞く。
 それなら外のことは摂政に一任して、自分はアイリスと愛を語らっている方がよほど有意義だった。

「アイリス、今日も君は美しいね」
「殿下も今日は一段と凛々しいお姿でございます。しかし外が騒がしいですね」

 言われてみれば今日は何か騒がしい。マルスリウスは全て任せて欲しいなどと言っていた割にきちんと仕事をしていないのではないか。

「分かった、静かにさせる故少し待っていてくれ」

 クリストフは室内に設置された魔法の呼び鈴を押す。これは対になる呼器をマルスリウスが持っており、クリストフがボタンを押すと彼はどんな仕事中でもすぐに駆け付けた。元々マルスリウスが持ってきたものだが、外に出たくないクリストフは愛用していた。

「お待たせいたしました殿下、本日は何用でございましょう」

 数分後、マルスリウスは満面の笑みを顔に貼り付けて二人の前に伺候する。クリストフはそんなマルスリウスの忠義を高く買っていた。

「最近の調子はどうだ」
「軍隊を増やし、民衆の動揺は鎮めております。また、殿下を誹謗中傷する者たちは皆領地へ追い返しました。おかげで今では王宮は皆忠臣になっております」
「おお、やるではないか」

 クリストフは感心した。有能な者に政治を任せるのもまた王家の者として重要なことである、と彼はマルスリウスを摂政に任命した自身をも正当化する。

「しかしその割には外が騒がしいようであるが」
「申し訳ございません、このところ地震や火事が多いもので気の弱い者が右往左往しているのでございますが、すぐに静かにさせます」

 ちなみにこの建物は王族の安全を守るため魔法による防御が整っており、滅多なことがなければ災害が起こってもクリストフやアイリスに被害が及ぶことはない。そのため彼は外で何が起こっているのか知るよしもなかった。

「そうか、そんな大変な中よくやってくれているな」
「いえ、殿下のためならこれぐらい当然でございます」

 そう言ってマルスリウスはうやうやしく頭を下げて部屋を出る。
 そしてクリストフは再びアイリスとむつみ合い始めたのだった。



 その数日後、アイリスが体調を崩した。クリストフはすぐに医者を呼ばせたものの、しばしの間安静にさせろと言われたので彼は珍しく一人きりになった。
 一人になると狭い自室に籠っているのはかなり退屈だ。頼めば使用人が必要なものは何でも持ってきてくれる上に、マルスリウスが面倒ごとは全て片付けてくれるため、彼はもう一週間ほども自室に籠っていた。

「でもせめて父上のお見舞いぐらいは行くか」

 国王は厳格な人物で王としても有能だったが、一人息子であるクリストフにだけは甘かった。クリストフが欲しいものは何でもくれたし、国政に関わらないことであれば大体の願いを叶えてくれた。
 唯一聞いてくれなかったのが婚約相手のことだった。この件に関しては公爵家との関係を持ち出して首を振ってくれなかったのでクリストフは腹を立てていたが、それ以外については良い父親だと思っていた。

 そのためクリストフは珍しく自室を出て父親の病室がある離宮へと向かった。
 が、一歩部屋を出て彼は何かがおかしいことに気づいた。

 廊下のあちこちには物々しく武装した兵士が立っており、これまで歯牙にもかけなかった下級貴族たちがふんぞり返って歩き、これまで公爵にしか許されなかったような勲章を身に着けている。
 逆にこれまで力を持っていた貴族たちは全く姿を見かけなかった。下級貴族たちはクリストフの姿を見ると慌ててかしこまって頭を下げる。まるでいばっていた子供がガキ大将が現れてへこへこするかのようであった。
 不審に思ったクリストフはその辺の下級貴族を見つけて声をかける。

「おい、ここ最近で何があった? なぜそんなものをつけている」
「こ、これは摂政閣下に許されたものでございます」
「そうか」

 多少疑問に思ったものの、クリストフはそれを聞くと納得した。マルスリウスが許したのならこいつには何か功績でもあったのだろう。
 そして当初の目的通り国王の病室へ向かう。すると離宮の門には武装した兵士たちがずらりと立っていた。いくら世間が騒がしいとはいえいささか過剰では、とクリストフが思うほどの厳重さであった。

「僕だ、中へ入れろ」

 が、クリストフの命令にも兵士たちは動かない。
 すると兵士長らしき男が困った顔で答える。

「すみません、伯爵様から陛下は危篤のため誰であれ入れるなと言われているので」
「何だと!? ふざけるな、僕は第一王子であるぞ!? お前たちには常識というものがないのか!?」

 クリストフは激昂した。どう考えてもそれは言葉の綾ではないか。
 しかし兵士は困った顔をするばかりでその場をどかない。

「命令に逆らうと、死を賜ることもあるので何卒ご容赦を……」
「おのれ貴様……伯爵を呼んでクビにしてくれる」

 そう言ってクリストフは再びマルスリウスを呼びつけようとした。

 が、そこへよろよろと歩いてきたのはアイリスだった。顔色は真っ青で足元は震えており、侍女に支えられてようやく立っているという有様だった。どう考えても病気が治ったようには見えない。しかし彼女は蒼白な表情でクリストフの方へ歩いていく。

「アイリス!? なぜこんなところに? 自室に戻るのだ!」

 思わずクリストフは声を上げる。
 するとアイリスは青い顔で目を潤ませながら上目遣いで言った。

「殿下、私一人で寝ていたら急に不安になってしまいまして……お側にいてもらえないでしょうか?」

 それを聞いてクリストフはしまった、と思う。医者には安静にさせろと言われたが、だからと言って病気で気持ちが弱っているところを一人きりにするというのは何と愚かなのだろう。
 自分は王子である前に男だ。だとしたら愛を誓った相手の側にいてやるべきではないか、とクリストフは反省する。この時早くも彼の脳裏からはアイリス以外のことは全て消えていた。

「すまなかったアイリス! さ、早く寝室に戻ろう! 今度こそそなたが寝ている間もずっと側についていよう」
「ありがとうございます、殿下」

 それを聞いたアイリスはほっとしたように言い、クリストフの肩を借りて病室へと戻っていく。






 そして連れ立って病室に戻っていく二人を遠目に見ながらマルスリウスはため息をついた。
(危ない危ない、もし殿下が陛下に会えばわしが陛下に嘘を伝えていることがばれてしまう)

 この時マルスリウスは、現在王国はアルュシオン公爵が摂政として問題なく治めていると国王に伝えさせていた。国王は公爵や王子が会いに来ないことに多少不信感を抱いてはいるものの、体調が悪いため深くは追及しなかった。
 そのため自身の息がかかった者以外を国王と会わせる訳にはいかず、王の病室を封鎖していたのである。

(しかも殿下がいない間にわしが好き勝手していることに気づきかけていた。急いでアイリスに殿下を迎えに行かせて今回は誤魔化せたが、今後はアイリスを片時も殿下の傍から離してはならぬな)

 マルスリウスは与えられた摂政の権限を使って王宮の兵士を私物化し、騎士団長らが文句を言えば容赦なく辺境へ左遷させてきた。その兵士の力を使ってアルュシオン公爵らこれまで力を持っていた貴族が文句を言いに来たときに強引に追い返してきたのだ。

(せっかく手に入れたこの権力、絶対に手放してやるものか)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます

タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。 領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。 奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)
恋愛
エレナは一度死に戻り、二度目の人生を生きることになった。 一度目は親友のマリアンヌにあらゆるものを奪われ、はめられた人生。 今回は関わらずにいこうと、マリアンヌとの初めての顔合わせで倒れたのを機に病弱と偽り王都から身を遠ざけることにする。 人生二度目だから自身が快適に過ごすために、マリアンヌと距離を取りながらあちこちに顔を出していたら、なぜかマリアンヌの取り巻き男性、死に戻り前は髪色で呼んでいた五人、特に黒いのがしつこっ、……男たちが懐いてきて。 一度目の人生は何が起っていたのか。 今度こそ平穏にいきたいエレナだがいつの間にか渦中に巻き込まれ――。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

処理中です...