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駆け落ちⅡ
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そしていよいよ、父上の誕生日パーティー当日が訪れた。
普段はおんぼろなところが目立つ屋敷も、この日のためにきれいに掃除され、壁紙が剥がれているところ、欠けている食器や庭が荒れているところなどは全てきれいにされていた。
そしていつもは家族と少数の使用人しかおらず、広く見える屋敷だが今日はたくさんの来客があって久しぶりに狭く見えた。
「こ、こんにちは」
私も来客の対応に大わらわになっている中、不意に少し遠慮がちに声を掛けられる。
振り向くと、そこに立っていたのはジェニーの婚約者であるレオルだった。
彼は他の貴族たちと比べると、どこか表情が暗くて冴えない雰囲気を漂わせている。また、背があまり高くない上に少し小太りに見える。
ジェニーが嫌がるのも何となく分かってしまった。
「こんにちは、レオルさん」
「お、お義姉さん、今日はよろしくお願いします」
そう言って彼はぺこりと一礼する。
礼儀正しいのはいいことなのだが、彼は自信なさげにしゃべる上に言葉を少しどもらせるので、礼儀正しいよりも卑屈が勝って見えてしまう。
態度や話し方を変えたらまた違った印象に見えるのだろうか。
「よろしく。レオルさんはうちにとって重要な方なのだからもっと堂々としていればいいのに」
「え?」
私が言うと、レオルは戸惑ったように首をかしげる。
「どうして戸惑うの?」
「い、いえ、そんなことを言われたのは初めてなので……恥ずかしながら父上にはいつも『お前は出来損ないなのだから大人しくしてろ』と言われていて……」
「レオルさん!」
私は慌てて彼の会話を遮る。
彼はただ自虐しているだけなのだろうが、ジェニーが聞けば「自分は出来損ないと婚約させられたのか」と怒るだろう。
「仮に自分でそう思っていても、そういうことを言ってはいけないわ。そういうことを言い続けていては余計にそういう風になってしまうもの」
「お義姉さん……」
「だから、多少無理にでも堂々として明るく振る舞った方がいい」
「分かりました、やってみる」
そう言って彼は少しだけ背筋を伸ばして歩いていく。そのせいか、先ほどまでより少し背が高く見えた。
そしてそんなレオルの前にジェニーが歩いて来るのが見えた。
そんな彼女にレオルは勇気を振り絞って挨拶するのが見える。
「こんにちは、ジェニー」
「こんにちは」
が、ジェニーは遠めに見ても分かるぐらい素っ気ない態度をとると、レオルの元を去っていく。仮にも婚約者に対する態度とは思えない。
そんな彼女の態度に対して呆然としてレオルは再び元のような自信なさげな雰囲気に戻り、とぼとぼと歩いていくのだった。
「ラインハルト様!」
一方、少し離れたところからジェニーの弾んだ声が聞こえてくる。
そちらを見ると、来客としてやってきたラインハルトに対してジェニーは嬉し気に声をかけている。
「やあジェニー、今日も可愛いね」
「嫌ですわ、そんなこと言われたら照れてしまいます」
一方のラインハルトはいつも通りと言えばいつも通りだったが、ジェニーは明らかに彼を意識している。
さすがに割って入って声をかけた方がいいのではないか、と思った時だった。
「すみませんカトリナ様、受付の人手が足りないので手伝ってください!」
そう言って執事がやって来たので私はそちらに向かわざるを得ないのだった。
普段はおんぼろなところが目立つ屋敷も、この日のためにきれいに掃除され、壁紙が剥がれているところ、欠けている食器や庭が荒れているところなどは全てきれいにされていた。
そしていつもは家族と少数の使用人しかおらず、広く見える屋敷だが今日はたくさんの来客があって久しぶりに狭く見えた。
「こ、こんにちは」
私も来客の対応に大わらわになっている中、不意に少し遠慮がちに声を掛けられる。
振り向くと、そこに立っていたのはジェニーの婚約者であるレオルだった。
彼は他の貴族たちと比べると、どこか表情が暗くて冴えない雰囲気を漂わせている。また、背があまり高くない上に少し小太りに見える。
ジェニーが嫌がるのも何となく分かってしまった。
「こんにちは、レオルさん」
「お、お義姉さん、今日はよろしくお願いします」
そう言って彼はぺこりと一礼する。
礼儀正しいのはいいことなのだが、彼は自信なさげにしゃべる上に言葉を少しどもらせるので、礼儀正しいよりも卑屈が勝って見えてしまう。
態度や話し方を変えたらまた違った印象に見えるのだろうか。
「よろしく。レオルさんはうちにとって重要な方なのだからもっと堂々としていればいいのに」
「え?」
私が言うと、レオルは戸惑ったように首をかしげる。
「どうして戸惑うの?」
「い、いえ、そんなことを言われたのは初めてなので……恥ずかしながら父上にはいつも『お前は出来損ないなのだから大人しくしてろ』と言われていて……」
「レオルさん!」
私は慌てて彼の会話を遮る。
彼はただ自虐しているだけなのだろうが、ジェニーが聞けば「自分は出来損ないと婚約させられたのか」と怒るだろう。
「仮に自分でそう思っていても、そういうことを言ってはいけないわ。そういうことを言い続けていては余計にそういう風になってしまうもの」
「お義姉さん……」
「だから、多少無理にでも堂々として明るく振る舞った方がいい」
「分かりました、やってみる」
そう言って彼は少しだけ背筋を伸ばして歩いていく。そのせいか、先ほどまでより少し背が高く見えた。
そしてそんなレオルの前にジェニーが歩いて来るのが見えた。
そんな彼女にレオルは勇気を振り絞って挨拶するのが見える。
「こんにちは、ジェニー」
「こんにちは」
が、ジェニーは遠めに見ても分かるぐらい素っ気ない態度をとると、レオルの元を去っていく。仮にも婚約者に対する態度とは思えない。
そんな彼女の態度に対して呆然としてレオルは再び元のような自信なさげな雰囲気に戻り、とぼとぼと歩いていくのだった。
「ラインハルト様!」
一方、少し離れたところからジェニーの弾んだ声が聞こえてくる。
そちらを見ると、来客としてやってきたラインハルトに対してジェニーは嬉し気に声をかけている。
「やあジェニー、今日も可愛いね」
「嫌ですわ、そんなこと言われたら照れてしまいます」
一方のラインハルトはいつも通りと言えばいつも通りだったが、ジェニーは明らかに彼を意識している。
さすがに割って入って声をかけた方がいいのではないか、と思った時だった。
「すみませんカトリナ様、受付の人手が足りないので手伝ってください!」
そう言って執事がやって来たので私はそちらに向かわざるを得ないのだった。
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