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Ⅲ
即位十年記念式典
その後私はアーノルド家でこれまでとは別世界のような幸せな日々を送りました。これまで実家にいたときは家事は押し付けられて学問などはほぼ教わらなかったのですが、ブラッドと結ばれる以上政務もある程度は出来るようにと政治や領地のことなども勉強するよう言われました。家事を覚えたときも思いましたが、自分で新しいことを学ぶのは楽しいものです。
そして時々アーノルド家の仕事を手伝ったり、ブラッドに案内されて領地を見学したりしました。
そんな穏やかな日々が続き、二か月ほど経ったある日のことです。いつものように私たちが夕食のテーブルを囲んでいると、男爵が告げます。
「一か月後、王都にて現陛下が即位十年式典を開くらしい。即位の時は王国中が飢饉で苦しんでいたということもあって、このたびは盛大な式典を開きたいとのことだ。そこで国中の貴族への召集がかかり、当然わしも呼ばれている」
ここアークライト王国の現国王、チャールズ陛下は今年で即位十年になります。前にアーノルド家が即位式典の費用を支援して、それで貧しくなったと聞きましたが、それがチャールズ陛下です。
私の家やアーノルド家はそうでもないので実感はないですが、王国自体は繁栄を取り戻しているようです。
「もうそんなに経つのね。十年でどのくらい成長されているのか楽しみだわ」
男爵夫人もそう言って目を細めます。
「もっとも、その間我が家は成長どころか貧しくなる一方だが」
男爵はそう言って苦笑します。
「それで、話というのはブラッドもわしらと一緒に王都に来ないか、ということだ」
「もちろん行けるのであれば行きたいですが、大丈夫だろうか?」
ブラッドは遠慮がちに言います。すると男爵は大きく頷きました。
「もちろんだ。お前もそう遠くないうちにこの家を継ぐだろう。そうなればこれからはお前が陛下や他の貴族たちと渡り合うことになるのだ。その前に一度ぐらい大舞台に出ておいた方がいいだろう」
「でも我が家の台所事情では……」
「大丈夫だ。王都近くには我が家と縁がある商家がいくつかある。陛下が盛大に即位記念式典を行うというのであればいくらかは融通してくれるだろう」
「なるほど、そういうことならば。それで、キャロルは?」
「いえ、私はまだ正式に結婚した訳でもありませんし」
私は慌てて辞退しようとします。夫妻とブラッドが王都に向かうだけでもかなりの金額になるというのに、妻でもない私が同行することは出来ません。
が、男爵は首を横に振りました。
「何を言うんだ。貴族がパーティーに婚約者を伴ってやってくるのは当然のことだ。それに、我が家はもはや陛下や他貴族との縁ぐらいしか取り柄がない。ここで顔を繋いでおかずにどうするというのだ」
「なるほど、しかし私のような見すぼらしい服しか持っていない者がそのような場に参加する訳には」
「それも懇意の商人に用立ててもらえるはずだ。それにこういう場所での縁は後々必ず役に立つ」
「だそうだ。そなたはしっかりしているが、父上もこう言っていることだし、たまには嫁ぎ先に甘えてもいいのではないか?」
確かに、私は物心ついたころから他人に甘えるということを忘れ去っていたような気がします。
それをしてもいい、と言われたことで私はほっとしました。
「分かりました……でしたらよろしくお願いします。しかしそんな懇意の商人がいるなどすごいですね。うちの実家では商人に会うと返済を迫られるから出来るだけ顔を合わさないようしているというのに」
私の言葉を聞いて男爵は驚きます。
「何と! 返済を迫られるということは借金を返していないということか?」
「そうですね」
「それで夫人は夜な夜な遊び歩いていたのか。言っては悪いが、話を聞くたびに信じられないという気持ちになってしまう家だ。いくらパーティーや茶会に出ても日ごろから悪評を作るようなことをしていては意味がないというのに」
そう言って男爵は大きなため息をつきます。おそらくアーノルド家では商人に対しても他の貴族と同じように丁重に接しているのでしょう。
改めて私はこちらの家にきて良かったと思うのでした。
そして時々アーノルド家の仕事を手伝ったり、ブラッドに案内されて領地を見学したりしました。
そんな穏やかな日々が続き、二か月ほど経ったある日のことです。いつものように私たちが夕食のテーブルを囲んでいると、男爵が告げます。
「一か月後、王都にて現陛下が即位十年式典を開くらしい。即位の時は王国中が飢饉で苦しんでいたということもあって、このたびは盛大な式典を開きたいとのことだ。そこで国中の貴族への召集がかかり、当然わしも呼ばれている」
ここアークライト王国の現国王、チャールズ陛下は今年で即位十年になります。前にアーノルド家が即位式典の費用を支援して、それで貧しくなったと聞きましたが、それがチャールズ陛下です。
私の家やアーノルド家はそうでもないので実感はないですが、王国自体は繁栄を取り戻しているようです。
「もうそんなに経つのね。十年でどのくらい成長されているのか楽しみだわ」
男爵夫人もそう言って目を細めます。
「もっとも、その間我が家は成長どころか貧しくなる一方だが」
男爵はそう言って苦笑します。
「それで、話というのはブラッドもわしらと一緒に王都に来ないか、ということだ」
「もちろん行けるのであれば行きたいですが、大丈夫だろうか?」
ブラッドは遠慮がちに言います。すると男爵は大きく頷きました。
「もちろんだ。お前もそう遠くないうちにこの家を継ぐだろう。そうなればこれからはお前が陛下や他の貴族たちと渡り合うことになるのだ。その前に一度ぐらい大舞台に出ておいた方がいいだろう」
「でも我が家の台所事情では……」
「大丈夫だ。王都近くには我が家と縁がある商家がいくつかある。陛下が盛大に即位記念式典を行うというのであればいくらかは融通してくれるだろう」
「なるほど、そういうことならば。それで、キャロルは?」
「いえ、私はまだ正式に結婚した訳でもありませんし」
私は慌てて辞退しようとします。夫妻とブラッドが王都に向かうだけでもかなりの金額になるというのに、妻でもない私が同行することは出来ません。
が、男爵は首を横に振りました。
「何を言うんだ。貴族がパーティーに婚約者を伴ってやってくるのは当然のことだ。それに、我が家はもはや陛下や他貴族との縁ぐらいしか取り柄がない。ここで顔を繋いでおかずにどうするというのだ」
「なるほど、しかし私のような見すぼらしい服しか持っていない者がそのような場に参加する訳には」
「それも懇意の商人に用立ててもらえるはずだ。それにこういう場所での縁は後々必ず役に立つ」
「だそうだ。そなたはしっかりしているが、父上もこう言っていることだし、たまには嫁ぎ先に甘えてもいいのではないか?」
確かに、私は物心ついたころから他人に甘えるということを忘れ去っていたような気がします。
それをしてもいい、と言われたことで私はほっとしました。
「分かりました……でしたらよろしくお願いします。しかしそんな懇意の商人がいるなどすごいですね。うちの実家では商人に会うと返済を迫られるから出来るだけ顔を合わさないようしているというのに」
私の言葉を聞いて男爵は驚きます。
「何と! 返済を迫られるということは借金を返していないということか?」
「そうですね」
「それで夫人は夜な夜な遊び歩いていたのか。言っては悪いが、話を聞くたびに信じられないという気持ちになってしまう家だ。いくらパーティーや茶会に出ても日ごろから悪評を作るようなことをしていては意味がないというのに」
そう言って男爵は大きなため息をつきます。おそらくアーノルド家では商人に対しても他の貴族と同じように丁重に接しているのでしょう。
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