弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃

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精霊姫ミリア

王都の異変

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「本日は賢者の石完成式典にお集りいただきまことにありがとうございます。今回は陛下の病中につき、私エレナが主催を務めさせていただきます」

 エレナが壇上で言うと、王宮の広間に集まった貴族たちの拍手が響く。中には「なぜ王太子ケインではなくエレナが主催しているのか」と疑問を持つ貴族たちもいたが、すでにエレナに歯向かった下級貴族が一人失脚し、仲が悪いと噂されていたミリアは失踪したため難が及ぶことを恐れて誰も口にはしなかった。
 実際には自分で出ていったミリアだが、貴族たちの間では「エレナに歯向かって追放された」「消された」などとまことしやかに噂されていた。

「まず我が王国は~」

 エレナがとうとうと長々とした祝辞を述べる。

「……以上が賢者の石発明の意義でございます。ではクルト、どうぞ」
「はい」

 エレナの話が終わり、呼びかけられたクルトは石を入れた小箱を持って壇上に上がる。そして貴族たちの方へ向き直り、小箱を開いて中の石を見せた。拳大の大きさだったが、石が放つ妖しい輝きは遠くからでもただものではないということが分かった。
 石の輝きを見て貴族たちはおお、とどよめきを上げる。王族ほどではないが貴族たちにも魔法の素養がある者が多いため、彼らも石の凄さを理解した。

「ただ今より石の効果を解放し、国全体に加護をもたらそうと思います。ご覧あれ」

 そう言ってクルトが魔力を注ぎ込むと、石はひときわ大きく輝き、周囲に魔力を放つ。見たことのない魔力であったが、貴族たちには膨大な力が動いていることが分かった。これでもう魔物の侵攻がなくなる。広場の誰もがそう思った。

 人によっては魔物が侵攻してこなくなるのであればアルスだろうがクルトだろうが構わない、と思う者もいた。
 こうしてエレナとクルトは満座の貴族たちの支持を集め、順調な滑り出しを見せた。
 しかしこれが順調な滑り出しではなく二人の絶頂期になるのはすぐのことであった。

数日後
「クルト様、石の様子がおかしいです」

 映画を極め、毎日パーティー三昧をしていたクルトの元に一人の兵士が駆け込んでくる。今日も彼はまだ昼間だというのにエレナ派の貴族たちと酒宴に興じていた。すでに酔っていたクルトはそれを聞いて一瞬面倒そうな顔になるが、他の貴族をちらりと見て

「大丈夫だ、任せておけ」

 とすぐに取り繕う。賢者の石発明の手柄を奪った以上、石についてはわずかな失敗も許されなかった。そしてクルトは会場を出て、石のもとへ向かう。

 石は貴族たちにお披露目した後、王宮の最深部である王族以外の出入りを禁じられている部屋に安置されていた。クルトは王族以外で唯一出入りを認められていた。

「何だこれは」

 部屋に近づいたクルトは眉を顰めた。王宮の中では廊下のところどころに豪華な美術品が飾ってある。美術品の中では由緒あるマジックアイテムや魔法を使った工芸品なども飾られているが、それらが軒並み黒ずんでいる。近づいてみると元々少しでも魔力を持っていた品々は軒並み魔力を失っていた。

「何だこれは?」

 クルトは首を捻りながら石がある部屋の前に走る。
 部屋のドアは物理的な施錠だけでなく、魔術的な防壁も作られて厳重に守られていた……はずだった。しかし現在は部屋の魔術防御は消滅し、ドアは水を失った野菜がしおれるように、黒ずんでひしゃげていた。

「もしや」

 クルトはとある可能性に思い至り、血相を変える。そして急いでドアを開けると中に入った。
 すると起動したときは怪しい輝きを発していた賢者の石はすっかり光を失い、黒ずんだ色で鎮座していた。

「まさか、魔力切れか?」

 そう考えたクルトは急いで自分の魔力を注ぎ込む。
 すると石が輝き、クルトは全身の魔力を吸われるような感覚に陥る。能動的に魔力を注ぎ込むと魔力を吸われるのは全く違う。自分の全てを吸い取られるような感覚。

「まずい!」

 このままではドアや美術品のように干からびた残りかすになってしまう、と思ったクルトは本気で抵抗する。するとやっとのことで石との魔力の接続は解けた。そして石は元の輝きを取り戻す。それを見てクルトは少しだけほっとした。

「ふう、とりあえずこれで何とかなったか。しばらくの間は大丈夫だろう」

 そう考えたクルトはドアの建て替えだけ依頼してパーティーに戻り、貴族たちに「問題なかった」と報告する。

 が、賢者の石の底無しの魔力吸引はクルト一人の魔力で収まるものではなかった。間もなく、王宮内のマジックアイテムや魔法が次々と魔力を失っていくという事態が起こるのであった。
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