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魔王の娘 マキナ
久し振りの肉料理
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「あれは……どういうことだ?」
「あのゴブリンたちを見てから、わらわは何となく命令できるような気がしたのだ。そこで試しに脳内で出ていけと念じてみたら彼らは出ていった」
「それは前から出来たのか?」
「いや、魔王軍にいた時はそんな力はなかった。おそらく昨日のあれが原因だと思う」
元々マキナには魔王の力が遺伝していたが、覚醒していなかったのだろう。それが憤怒をきっかけに覚醒し、力の一部が使えるようになったという訳か。
「おそらくだが、今のわらわであれば下級魔族だけでなく動物にも命令できるような気がする」
「そうなのか?」
「ああ……」
そう言ってマキナが目をつぶる。とはいえ近くに動物がいるようには見えず、俺は何が起こるのか少しどきどきする。森に隠れている小動物が反応するのか、それとも他の何かがあるのか。
待つこと十数分、俺たちの元へ一頭の牛が何かに導かれるようにしてやってくる。そしてようやくマキナは目を開いた。
「何だこの牛は。近くにいたのか?」
「いや……おそらく大分離れたところにいた。だが、相手が動物で、かつ無理のない命令であれば操ることは可能そうだ。逆に相手が魔族で、自分のために戦わせるというような命令だと相当近くでないと難しい気がする」
なるほど。一般的に魔法は術者から近ければ近いほど効果が大きい。
今回は何となくこっちに来させる、という動物にとってあまり抵抗のない命令だったからこそ言うことを聞かせられたのだろう。
「すごい力だな」
基本的に他人の精神に干渉する魔法は難度が高い。これは魔法とは違う種類の力のような気はするが、何にせよすごい。
「わあ、久しぶりに牛を見ました」
そこへ家の外に出てきたミリアが牛の姿を見て驚きの声をあげる。
「ああ、どうもマキナの力を使えば集められるみたいだ」
「なるほど! すごいです、牛がいれば牛乳料理や肉料理も作れますよ!」
そんな牛を見て眼をきらきらさせるミリア。
「言われてみれば俺も新鮮な肉料理が食べたかったんだ」
「そうだな、わらわもやはり野菜より肉の方が好きだ。せっかく来てもらったところ悪いが……」
そう言ってマキナは牛の方へ歩いていくと、鉤爪を振るう。マキナの攻撃になすすべもなく牛はその場に倒れた。さすがは一部とはいえ魔王の力だ。
「任せてくれ、これでも動物の解体は慣れている」
そう言ってマキナはその場で牛を解体する。魔族は狩った獲物をその場で食べていると言っていたが、この様子を見ると本当だったらしい。しかしドレスを纏ったマキナが返り血を浴びながら牛を捌いているというのはなかなかにすごい光景だ。
「というかマキナは魔族軍の中で偉い立場じゃなかったのか?」
「うむ。ただ、魔族軍は完全に実力主義でな。最初はわらわも大して強くなかったから、下級魔族と同じところからスタートしたのだ」
そういうところは世襲の王族や貴族と、彼らにコネがある人々だけで世界が回っている人間社会よりも風通しはいいのかもしれない。
そんなことを言っている間にマキナはいくつかの肉を切り終える。ミリアはミリアでそれを受け取ると、台所に持っていき、料理する分と保存する分に分ける。
「でも牛一頭分の肉なんて一日じゃ食べきれないぞ」
食べきることは出来るかもしれないが、さすがにもったいない気がする。
「ご安心ください……ウンディーネ」
ミリアは精霊を呼び出すと、肉をしまった箱の中に一緒に精霊を詰める。
「これで大丈夫なはずです」
「精霊ってそんな使い方して大丈夫なのか?」
「はい、後でウンディーネ用にもお料理を作っておくので」
相変わらずミリアの気配りはすさまじかった。
「とはいえ、今はお肉を焼く方が先ですね。それっ」
そう言ってミリアは軽く下処理をして塩を振り、フライパンで肉を焼き始める。最近久しく聞いていなかったじゅうじゅうという肉の焼ける音が聞こえて来て、一、二時間ほど前に朝食を食べたばかりだというのに早くも俺はお腹が空いてくる。
ぐぅ~
音がした方を見ると、そこではマキナが顔を赤くしていた。
「こ、こっちを見るな。魔族たちはろくに調理しないで肉を食べるからちゃんと焼いているだけでおいしそうなのだ」
「はい、出来ました。ちゃんとした料理は夕飯の時にするとして、とりあえずこれはただのステーキです」
そう言ってミリアは熱々のフライパンから三つのステーキを食卓によそってくれる。
見た感じ油と塩胡椒しか振られてないが、それでも目の前に置かれているステーキはのどから手が出るほどおいしそうだった。
「「いただきます」」
俺とマキナは競うようにフォークとナイフを手に取る。ナイフを入れると、切ったところからじゅわっと肉汁が溢れ出す。口の中に入れると肉が溶けていくようだった。
「うまい……」
「こんなものを食べてしまったらもう魔族には戻れぬ」
「それは良かったです。では私も……これはなかなか」
焼いてくれたミリア本人も一口口に入れて目を丸くする。こうしてしばらくの間俺たちは無言でフォークとスプーンを動かすのだった。
「あのゴブリンたちを見てから、わらわは何となく命令できるような気がしたのだ。そこで試しに脳内で出ていけと念じてみたら彼らは出ていった」
「それは前から出来たのか?」
「いや、魔王軍にいた時はそんな力はなかった。おそらく昨日のあれが原因だと思う」
元々マキナには魔王の力が遺伝していたが、覚醒していなかったのだろう。それが憤怒をきっかけに覚醒し、力の一部が使えるようになったという訳か。
「おそらくだが、今のわらわであれば下級魔族だけでなく動物にも命令できるような気がする」
「そうなのか?」
「ああ……」
そう言ってマキナが目をつぶる。とはいえ近くに動物がいるようには見えず、俺は何が起こるのか少しどきどきする。森に隠れている小動物が反応するのか、それとも他の何かがあるのか。
待つこと十数分、俺たちの元へ一頭の牛が何かに導かれるようにしてやってくる。そしてようやくマキナは目を開いた。
「何だこの牛は。近くにいたのか?」
「いや……おそらく大分離れたところにいた。だが、相手が動物で、かつ無理のない命令であれば操ることは可能そうだ。逆に相手が魔族で、自分のために戦わせるというような命令だと相当近くでないと難しい気がする」
なるほど。一般的に魔法は術者から近ければ近いほど効果が大きい。
今回は何となくこっちに来させる、という動物にとってあまり抵抗のない命令だったからこそ言うことを聞かせられたのだろう。
「すごい力だな」
基本的に他人の精神に干渉する魔法は難度が高い。これは魔法とは違う種類の力のような気はするが、何にせよすごい。
「わあ、久しぶりに牛を見ました」
そこへ家の外に出てきたミリアが牛の姿を見て驚きの声をあげる。
「ああ、どうもマキナの力を使えば集められるみたいだ」
「なるほど! すごいです、牛がいれば牛乳料理や肉料理も作れますよ!」
そんな牛を見て眼をきらきらさせるミリア。
「言われてみれば俺も新鮮な肉料理が食べたかったんだ」
「そうだな、わらわもやはり野菜より肉の方が好きだ。せっかく来てもらったところ悪いが……」
そう言ってマキナは牛の方へ歩いていくと、鉤爪を振るう。マキナの攻撃になすすべもなく牛はその場に倒れた。さすがは一部とはいえ魔王の力だ。
「任せてくれ、これでも動物の解体は慣れている」
そう言ってマキナはその場で牛を解体する。魔族は狩った獲物をその場で食べていると言っていたが、この様子を見ると本当だったらしい。しかしドレスを纏ったマキナが返り血を浴びながら牛を捌いているというのはなかなかにすごい光景だ。
「というかマキナは魔族軍の中で偉い立場じゃなかったのか?」
「うむ。ただ、魔族軍は完全に実力主義でな。最初はわらわも大して強くなかったから、下級魔族と同じところからスタートしたのだ」
そういうところは世襲の王族や貴族と、彼らにコネがある人々だけで世界が回っている人間社会よりも風通しはいいのかもしれない。
そんなことを言っている間にマキナはいくつかの肉を切り終える。ミリアはミリアでそれを受け取ると、台所に持っていき、料理する分と保存する分に分ける。
「でも牛一頭分の肉なんて一日じゃ食べきれないぞ」
食べきることは出来るかもしれないが、さすがにもったいない気がする。
「ご安心ください……ウンディーネ」
ミリアは精霊を呼び出すと、肉をしまった箱の中に一緒に精霊を詰める。
「これで大丈夫なはずです」
「精霊ってそんな使い方して大丈夫なのか?」
「はい、後でウンディーネ用にもお料理を作っておくので」
相変わらずミリアの気配りはすさまじかった。
「とはいえ、今はお肉を焼く方が先ですね。それっ」
そう言ってミリアは軽く下処理をして塩を振り、フライパンで肉を焼き始める。最近久しく聞いていなかったじゅうじゅうという肉の焼ける音が聞こえて来て、一、二時間ほど前に朝食を食べたばかりだというのに早くも俺はお腹が空いてくる。
ぐぅ~
音がした方を見ると、そこではマキナが顔を赤くしていた。
「こ、こっちを見るな。魔族たちはろくに調理しないで肉を食べるからちゃんと焼いているだけでおいしそうなのだ」
「はい、出来ました。ちゃんとした料理は夕飯の時にするとして、とりあえずこれはただのステーキです」
そう言ってミリアは熱々のフライパンから三つのステーキを食卓によそってくれる。
見た感じ油と塩胡椒しか振られてないが、それでも目の前に置かれているステーキはのどから手が出るほどおいしそうだった。
「「いただきます」」
俺とマキナは競うようにフォークとナイフを手に取る。ナイフを入れると、切ったところからじゅわっと肉汁が溢れ出す。口の中に入れると肉が溶けていくようだった。
「うまい……」
「こんなものを食べてしまったらもう魔族には戻れぬ」
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