弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃

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ダークドワーフのオルギム

ドグラの街

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 こうして俺たちは魔族領を歩いてゴルゴールが現在拠点としているドグラの街に向かった。ダークドワーフたちは人間を超える体力を持っていたし、マキナも超人的な肉体の強さがある。ミリアは疲れるとシルフの力を借りて飛行していたため、結果的に俺が一番行軍の足を引っ張ることになってしまった。

「こんなことになるなら移動用の魔道具を造っておくべきだった」
「そんなものがあるんですか?」
「ないけど、造ろうと思えば何か造れるだろう。馬は馬で疲れるから、空飛ぶ椅子のようなものがいいな」
「造れるなら見てはみたいですが」
「俺も本来は、魔族の動向を見張りつつそういう必須ではないけどあるとちょっと嬉しいみたいな魔道具を造りつつゆっくり暮らしたかったんだがな」
「気持ちは分かるが、それは魔族領の隣では無理だろう」

 そんなしょうもない会話をしつつ、時々遭遇した下級魔族たちを倒しながら俺たちはドグラに向かった。

 俺はこれまで魔族領の端っこの方にしか入ったことがなかったので魔族領は全て荒れ地が広がっているのかと思ったが、別にそんなことはない。沼地、森、草原など様々なところに棲息する魔族がいるためところどころにそれらの魔族棲む地形があり、彼らはおおむね種族ごとにまとまって棲んでいる。
 まあ、人間領に比べると圧倒的に荒れ地は多かったが。

 そして人間より少ないとはいえ、魔族たちが集まって暮らす街もある。基本的に魔族は野生に近い暮らしをしている者が多いが、今回のゴルゴールのように上位の魔族が配下を引き連れて街を形成することはたまにあるようだ。

 街の外観は様々で、大体はその街のトップにいる魔族の意向が反映される。人型魔族であれば人間の街に近いし、トロールの街は洞窟のような石造りの家が並び、近くに攫ってきたと思われる家畜をぎゅうぎゅうに詰め込んだ牧場のようなものがあった。

「ちょっと待ってくれ」

 そんな魔族領の中でも山間の地を歩いていると、突然オルギムが足を止める。

「どうした?」
「いや、この辺りの洞窟が少し気になってな」

 言われてみれば付近は自然の地形で出来た洞窟がいくつかある。オルギムは俺たちの列を離れるとそれらの洞窟を順番に見て回る。そしてそのうちの一つを覗いて声を上げた。

「どうした?」
「おい、仲間がいたぞ!」
「本当か!?」

 オルギムの叫びにダークドワーフの仲間たちが歓喜の声を上げる。
 そちらに向かうと、洞窟の中に縮こまって身を寄せ合っているダークドワーフの幼子と女たちがいるのが見える。
 この辺りは魔物があまりいなかったので、ここに避難してきたはいいもののここからどうしようもなく途方に暮れていたのだろう。
 見つけられたダークドワーフたちはオルギムにしきりに礼を言っている。

「礼ならこちらの方々にも言ってくれ」

 そう言ってオルギムが急に俺たちに視線を向ける。それを見て彼らは戸惑った様子を見せる。

「この方々は?」
「人間の中でわしらに協力してくださる方々だ」
「ありがとうございます」

 オルギムの言葉を聞いて彼らは頭を下げる。俺たちもそれに対して簡単に自己紹介を行う。
 ひとしきり挨拶が終わったところで尋ねる。

「俺たちは人質を助けにいくわけだが、皆はどうするんだ?」
「それなんだが、人間領に匿ってもらうことは可能か?」

 オルギムの問いに俺はちらりとミリアを見る。

「はい、でしたら私が手紙を書きますので、それを持ってザンド砦というところに向かっていただければ大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」

 ミリアの言葉に女たちは頭を下げる。そんな彼女らにミリアは手紙を渡す。

「ではお前たち、彼女らの護衛を頼む」
「分かった」

 オルギムは自分と一緒にやってきた三人のダークドワーフたちに依頼すると、彼らは頷いた。そして女子供を護衛して来た道を戻っていく。

「人数が減ってしまって済まないが、彼らはそこまで戦闘が得意という訳ではないんだ」
「大丈夫だ。人質救出は人数が多ければいいというものでもないからな」

 こうして途中ダークドワーフの救出はあったものの、俺たちは山伝いにドグラの街周辺に出た。

 そしてドグラの街は遠目に見ると人間の街とそんなに変わらなかったが、オーガという種族が大柄なため、よく見ると人間の建物の倍近い大きさをしている。最初は遠近感がおかしくなったのかと思ってしまったほどだ。

「あれは壮観だな」
「おそらくあの城にドワーフたちは捕われているのだろう」

 オルギムが険しい表情で街の中央にある城を指さす。人間の城のように、城壁に囲まれ、中に塔が立ち並び、その中央に高層の城郭がそびえたっている。周辺の岩質のせいか、全体的に黒々としており少しそれが不気味だ。
 ちなみに街を見るとオーガが普通に行き来しており、人間を襲ってくるオーガしか見たことのない俺からは少し違和感がある。

「よし、ならば作戦を決めよう」
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