弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~

今川幸乃

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魔王の娘 マキナ

マキナと牧場Ⅱ

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「クリエイト・フェンス!」

 俺は牧場を囲む木の柵をイメージしながら魔法を唱える。すると伐ったばかりの木はたちどころに柵へと変化していった。

「おお、そんなことまで出来るのか。おぬしは本当に何でも出来るのだな」
「そうだな。料理と生物以外なら何でも作れるぞ」

 もちろん実際には材料があって作り方が分かることが前提だが。
 こうしてマキナが連れてきた猪と牛は広い柵によって囲まれる。それでも木は余っていたので、一応猪と牛のエリアが分かれるように真ん中も区切る。

 が、そこへばたばたという足音とともに何体かのオークが走ってくるのが見えた。反射的に俺は剣を構えてマキナの前に出る。
 オークは俺たちを見てぎゃあぎゃあと汚い声で何かをまくし立てる。
 それをマキナは真剣な表情で聞いていたが、ぽつりと言う。

「うむ……どうもこの動物たちは彼らが放牧していたものだったらしい」
「もしかして言葉が分かるのか?」
「ああ。元々魔族のところにいた時に覚えはしたんだが、それとは別にこの力を使っているとまるでネイティブだったかのように意味が理解出来るのだ」

 そう言ってマキナは変異した腕をひらひらと振ってみせる。確かに動物や魔族を操れる以上、言葉が分かっても何もおかしくない。

「まあ彼らの対処は任せてくれ」

“この動物たちはわらわたちがもらう。お前たちは大人しく帰れ”

 マキナはオークたちのような汚い言葉で何かを言う。
 するとオークたちはマキナに恐れをなしたように頭を下げ、逃げるように去っていった。

「そう言えば下級魔族も操ることが出来るんだったな」
「いや、今のはただ奴らの言葉で帰るように言っただけだ。帰ったのは、魔族の本能でこの力を察したからだろう」

 要するにマキナの力があればこれからは雑魚魔族とは戦わなくていいということか。それは楽だ。こうして牧場作りが終わったころにはすでに夕方になっており、再び俺たちはお腹を空かせていた。

「ご飯出来ましたよ……すごい牧場ですね」

 俺たちに夕食が出来たことを報告に来たミリアは半日で出現した牧場を見て驚く。

「とはいえ俺たちは牧畜の経験は全くないからとりあえず囲っただけだ。必要な草を生やすことは出来るだろうか?」
「多分大丈夫だと思います。でも、この数だと繁殖ペースは大分遅いですね」
「そもそも牛や猪ってどのくらいで繁殖するんだ?」
「さあ……」

 俺の言葉にミリアもマキナも沈黙する。

「ま、まあ足りなくなればまた連れてこればよい」

 マキナの言葉から俺は彼女が魔族の価値観から抜けきっていないことを察してしまったが、朝に食べたステーキの味を思い出すとこればかりは否定出来なかった。
 俺たちが家に戻ると相変わらずキッチンからはいいにおいがする。ただ、今日は今までと違ってシチューやカレーではない。

「今日の料理は何だ?」
「今日はですね、牛肉と野菜の煮物です」

 そう言ってミリアはミトンをはめて食卓に鍋ごと料理を持ってくる。中には牛肉を始めとしてポテト、キャロット、オニオンといった野菜が煮られている。

「これはただ野菜と肉を一緒に煮ただけではないか?」

 マキナが素朴な疑問を口にする。もしかしたら彼女の中ではミリアの料理に対する期待値が上がりすぎて若干物足りなく思えたのかもしれない。
 が、ミリアは特に気にする様子もなく言う。

「まあまあ、そう言わずに食べてみてください」

 そう言って深皿に煮物を取り分ける。シチューやカレーと違い、煮汁はしょうゆを使ったさらさらしたもののようだ。

「ではいただきます」

 俺とマキナはふぅふぅと息を吹きかけながら野菜を口に入れる。
 すると、肉汁が染みた煮汁がしみ込んだ野菜が口の中で溶けていく。シチューやカレーの時はルウの味が濃厚でともすれば具材の味が負けていたが、この料理はあっさりとした味付けのため野菜の甘味もきちんと残っている。
 次に肉を口に入れると、肉も煮汁と合わさっていい具合になっていた。

「さっぱりした味付けなのにこんなにおいしいなんて……」

 マキナも驚きながら夢中で具を口に運んでいる。

「あまり見ない料理だが、これはミリアが作ったのか?」
「はい、もしかしたら他に同じ料理を考えた人もいるかもしれませんが」
「おかわり」
「どうぞ」

 マキナは早くも一杯目を食べ終えてお代わりを口に運んでいる。
 これからは食べたいときにおいしいお肉が食べられる、と思うと俺は大分満足した。
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