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父の憤慨
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「リッタ!」
クリフトンが帰った翌日、私の部屋に憤怒の形相をした父上が駆け込んできます。もしかして私は何かまずいことをしてしまったでしょうか。
何も心当たりがなくても思わずどきりとしてしまうような形相でした。
「何でしょう、父上」
「オレット家に出していた質問状が帰って来たんだ!」
「何と」
それを聞いて私は思わず唾を飲みます。
父上は私の婚約破棄に関してオレット男爵家にその真意を尋ねる質問状を出していました。その結果がついに分かったようです。
もっとも、父上の表情からおおよそ推測は出来ますが。
「いかがでしたか」
「それが、許せんことに金を出すから内密にしてくれないか、などと言ってきたのだ!」
「何と」
私はそれを聞いて驚きました。
確かにバートが私に婚約破棄を言い渡した理由は到底擁護出来るものではありません。オレット家の対応としては非を認めて平謝りするか、もっともらしい理由をつけるかのどちらかだと思っていましたが、まさか金で解決しようとするとは。
「しかし内密と言っても、すでにこのことは周囲に知れ渡っていますが」
「それについては、両家合意の上だったことにして欲しいとのことだが……事前にそのことを申し出るのならともかく、こんなことになった後から言ってくるとは! しかも金で買収などと我が家を侮っているとしか思えん!」
そう言って父上は怒りのあまり手に握っていた手紙をびりびりに破ります。金で言うことを聞くだろう、と思われていることに心底憤慨しているようでした。
余りの怒りようにオレット家から来た手紙をそのように破り捨てていいのでしょうか、とつい心配してしまいます。
とはいえ、父上の言っていることはその通りでした。
「結局オレット家はバート本人も、オレット男爵も、我が家との婚約よりも商会の金の方が大事だったということでしょうか」
「そうだ! 大体、金が大事なのはまだ分かるが、だからといってなぜ婚約破棄なのだ! 否定しないところを見るとやはり商会の娘をバートと結婚させるつもりか!?」
私もそうですが、父上からしても自分の娘よりも商人の娘を優先されたとなれば屈辱を覚えざるをえないでしょう。
「もういい、かくなる上はオレット家の狼藉をあますことなく打ち明け、その上で新たな婚約を決めてくれる!」
「しかし新たな婚約先とは?」
父上の言葉に私は疑問が浮かびます。
確かに婚約破棄された以上、新たな婚約相手を決めなければなりませんが、それにしても性急すぎないでしょうか。
そのように急いで相手を決めてまた今回のようなことがあれば元も子もありません。
「セネット家だ」
「え?」
クリフトンの家が出てきて私は困惑します。
確かに先日も彼とは意気投合しましたが、それはそれとしてうちは貧乏男爵家。セネット伯爵家とは爵位にも家の大きさにもかなりの差があります。
常識的に婚約出来るとは思えません。
仮にクリフトンが望んでくれてもセネット伯爵が断るだろう。
「大丈夫だ、実はセネット伯爵とは知らぬ仲でもないからな。それに、リッタもクリフトンとは幼馴染なのだろう?」
「まあ、幼馴染と言えなくもないですが……」
私たちの関係を幼馴染と言っていいのかは疑問ですが。もちろん私からすればクリフトンとの婚約は願ったりかなったりではあります。
「よし、ならばわしの力で二人の婚約をまとめてみせる!」
「は、はい、そうしてもらえるのであれば嬉しいです」
「任せておけ!」
こうして婚約破棄の話は思わぬ方向へと向かっていくのでした。
クリフトンが帰った翌日、私の部屋に憤怒の形相をした父上が駆け込んできます。もしかして私は何かまずいことをしてしまったでしょうか。
何も心当たりがなくても思わずどきりとしてしまうような形相でした。
「何でしょう、父上」
「オレット家に出していた質問状が帰って来たんだ!」
「何と」
それを聞いて私は思わず唾を飲みます。
父上は私の婚約破棄に関してオレット男爵家にその真意を尋ねる質問状を出していました。その結果がついに分かったようです。
もっとも、父上の表情からおおよそ推測は出来ますが。
「いかがでしたか」
「それが、許せんことに金を出すから内密にしてくれないか、などと言ってきたのだ!」
「何と」
私はそれを聞いて驚きました。
確かにバートが私に婚約破棄を言い渡した理由は到底擁護出来るものではありません。オレット家の対応としては非を認めて平謝りするか、もっともらしい理由をつけるかのどちらかだと思っていましたが、まさか金で解決しようとするとは。
「しかし内密と言っても、すでにこのことは周囲に知れ渡っていますが」
「それについては、両家合意の上だったことにして欲しいとのことだが……事前にそのことを申し出るのならともかく、こんなことになった後から言ってくるとは! しかも金で買収などと我が家を侮っているとしか思えん!」
そう言って父上は怒りのあまり手に握っていた手紙をびりびりに破ります。金で言うことを聞くだろう、と思われていることに心底憤慨しているようでした。
余りの怒りようにオレット家から来た手紙をそのように破り捨てていいのでしょうか、とつい心配してしまいます。
とはいえ、父上の言っていることはその通りでした。
「結局オレット家はバート本人も、オレット男爵も、我が家との婚約よりも商会の金の方が大事だったということでしょうか」
「そうだ! 大体、金が大事なのはまだ分かるが、だからといってなぜ婚約破棄なのだ! 否定しないところを見るとやはり商会の娘をバートと結婚させるつもりか!?」
私もそうですが、父上からしても自分の娘よりも商人の娘を優先されたとなれば屈辱を覚えざるをえないでしょう。
「もういい、かくなる上はオレット家の狼藉をあますことなく打ち明け、その上で新たな婚約を決めてくれる!」
「しかし新たな婚約先とは?」
父上の言葉に私は疑問が浮かびます。
確かに婚約破棄された以上、新たな婚約相手を決めなければなりませんが、それにしても性急すぎないでしょうか。
そのように急いで相手を決めてまた今回のようなことがあれば元も子もありません。
「セネット家だ」
「え?」
クリフトンの家が出てきて私は困惑します。
確かに先日も彼とは意気投合しましたが、それはそれとしてうちは貧乏男爵家。セネット伯爵家とは爵位にも家の大きさにもかなりの差があります。
常識的に婚約出来るとは思えません。
仮にクリフトンが望んでくれてもセネット伯爵が断るだろう。
「大丈夫だ、実はセネット伯爵とは知らぬ仲でもないからな。それに、リッタもクリフトンとは幼馴染なのだろう?」
「まあ、幼馴染と言えなくもないですが……」
私たちの関係を幼馴染と言っていいのかは疑問ですが。もちろん私からすればクリフトンとの婚約は願ったりかなったりではあります。
「よし、ならばわしの力で二人の婚約をまとめてみせる!」
「は、はい、そうしてもらえるのであれば嬉しいです」
「任せておけ!」
こうして婚約破棄の話は思わぬ方向へと向かっていくのでした。
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