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オレット男爵の絶望
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「大変です、アストリー家は我が家の提案を断り、我が家が商家の娘を嫁に迎えるために婚約破棄したと触れ回っているようです」
「何だと」
家臣からの報告を聞いたオレット男爵は眉をひそめた。
「全く、アストリー男爵も存外器が小さいな。この話を飲めば我が家がシーモア商会から利益を得た金を分け与えることが出来るのに。これからの時代、つまらない貴族の面子などよりも金の方が役に立つということが分からぬのか」
「ですが、周辺では我が家を金に目がくらんだ家として非難する雰囲気になりつつありますが」
「まあいい、そこまで言うなら言わせておけ!」
男爵は吐き捨てるように言う。
シーモア商会を庇護することにより彼らから収められる税や献金は大層な金額になる。一方、他家から娘を嫡男の嫁に迎えれば確かに貴族同士の交流は強化されるが、それで家の収入が増える訳でもない。むしろ面倒なパーティーやら茶会やらで交際費がかさむだけだ。
その点、商人との付き合いであれば向こうは接待に金を使うがこちらが金を使う必要は全くない。効率的なことこの上なかった。
それを知った以上貴族との関係などもはやどうでもよくなった。
「まあいい、一時的に評判が悪くなかったところで金さえあればいずれ奴らもそのうち金を貸してくれと頭を下げて泣きついてくるだろう」
「どうかしたのですか、父上」
そこへ上機嫌なバートが騒ぎを聞きつけて部屋にやってくる。
「婚約破棄の件だ。古い考えの奴らは救いがたいな」
「はい、そんな名誉などよりも金の方が大事だということをそのうち他の者も分かるでしょう。そう言えばお金と言えばついにオルメタ鉱石を確保することが出来ました」
「オルメタ鉱石?」
そんなものを大量に仕入れろ、という命令を出した覚えも許可を出した覚えもない。そのため男爵は思わず眉をひそめる。
そう言えば少し前にバートが鉱石がどうとか言っていた気がするが。
が、バートは怪訝そうに眉をひそめる。
「はい、以前レベッカが教えてくれた値上がり必至の鉱石です」
「その話なら、裏はとっておくように言っておいたはずだが」
「はい、レベッカからは資料も送られてきたのでそれを確認して買っておきました」
「馬鹿者! 誰が買っていいと言った!?」
「え? 確認したら買っていいということではないのでしょうか?」
男爵が怒鳴るとバートは首をかしげた。
「レベッカ、というよりはシーモア商会以外からは値上がりの情報を聞いたことはあるのか!?」
「いえ、それは……」
バートは口ごもる。
それを見て男爵の怒りはさらにヒートアップしていく。
「商会は我らに鉱石を売りたいから値上がりするという話をするだろう。その情報の真偽を確認せずに鉱石を買うとはなんて愚かな!」
「そんな……」
「とりあえず取引は保留にしろと急ぎ伝えるのだ、それからお前は急ぎその資料の裏をとれ」
「で、ですがレベッカがこの僕に嘘をつく訳が……それにこのことは絶対に他言無用と言われていて……」
そんなバートの態度に男爵はさらに激怒する。
「お前とレベッカの仲などは知らん! そもそもレベッカが嘘つかなかったとしても正確な情報を持っているのかは分からないのだ!」
「は、はい……」
鉱石を早急に買い集め、褒められるかと思いきや、これまでにない勢いで怒られ、バートは心が折れた。
それにそう言われてみれば確かに父からは裏をとれと言われただけで裏をとったら買ってもいいと言われた記憶はない。しかしレベッカが「早い方がいい」としきりにささやくのでつい急いでしまったところがある。
とはいえ、それもこれも全てレベッカの手の平の上で転がされていた……とやがてバートは気づくことになるのだった。
翌日
「大変です、男爵様! シーモア商会がも抜けの空です!」
「何だと!?」
それを聞いて男爵は驚愕する。
しかし心のどこか、万に一つではあるが、こうなるのではないかと予想していたところはあった。
この大量の鉱石が本当に値上がりするならわざわざうちに売りつけずとも商会が自分で売りさばけばいいのではないか。
そうしないということはそれは嘘だった。
そしてバートを騙すようなことをした以上、こうなるのは必然かもしれない。
そこへしゅんとした表情のバートが帰ってくる。
「すみません父上、どうもレベッカから聞いたことは、他の者は誰も知らなかったようです。しかしこれはレベッカの情報収集能力が高かったからで……」
「馬鹿者! そのレベッカならとうの昔に逃げ去ったわ!」
「そ、そんな……」
それを聞いてバートは崩れ落ちる。
が、男爵の方が暗澹たる気持ちであった。バートがレベッカに逃げられたのはどうでもいい。問題はバートが勝手に役に立たない鉱石を大量に買ってしまったことである。それで大金を使ってしまった上、商会という金づるも失ってしまった。
これでは自分が見下していた周りの貴族たちに馬鹿にされるだろう。
それは男爵にとって堪えがたいことだった。
そう思うと目の前で不甲斐ない顔で立っている息子が憎らしく思えてくる。
「……出ていけ」
「え?」
「出ていけと言っているんだこのバカ息子! 今回の不始末は全部お前がやったことだ! わしは何一つ許可しておらぬ!」
「そ、そんな……」
「つまみ出せ!」
激昂した男爵に命じられるがままに、家臣たちは困惑しているバートを屋敷から追い出すのだった。
「何だと」
家臣からの報告を聞いたオレット男爵は眉をひそめた。
「全く、アストリー男爵も存外器が小さいな。この話を飲めば我が家がシーモア商会から利益を得た金を分け与えることが出来るのに。これからの時代、つまらない貴族の面子などよりも金の方が役に立つということが分からぬのか」
「ですが、周辺では我が家を金に目がくらんだ家として非難する雰囲気になりつつありますが」
「まあいい、そこまで言うなら言わせておけ!」
男爵は吐き捨てるように言う。
シーモア商会を庇護することにより彼らから収められる税や献金は大層な金額になる。一方、他家から娘を嫡男の嫁に迎えれば確かに貴族同士の交流は強化されるが、それで家の収入が増える訳でもない。むしろ面倒なパーティーやら茶会やらで交際費がかさむだけだ。
その点、商人との付き合いであれば向こうは接待に金を使うがこちらが金を使う必要は全くない。効率的なことこの上なかった。
それを知った以上貴族との関係などもはやどうでもよくなった。
「まあいい、一時的に評判が悪くなかったところで金さえあればいずれ奴らもそのうち金を貸してくれと頭を下げて泣きついてくるだろう」
「どうかしたのですか、父上」
そこへ上機嫌なバートが騒ぎを聞きつけて部屋にやってくる。
「婚約破棄の件だ。古い考えの奴らは救いがたいな」
「はい、そんな名誉などよりも金の方が大事だということをそのうち他の者も分かるでしょう。そう言えばお金と言えばついにオルメタ鉱石を確保することが出来ました」
「オルメタ鉱石?」
そんなものを大量に仕入れろ、という命令を出した覚えも許可を出した覚えもない。そのため男爵は思わず眉をひそめる。
そう言えば少し前にバートが鉱石がどうとか言っていた気がするが。
が、バートは怪訝そうに眉をひそめる。
「はい、以前レベッカが教えてくれた値上がり必至の鉱石です」
「その話なら、裏はとっておくように言っておいたはずだが」
「はい、レベッカからは資料も送られてきたのでそれを確認して買っておきました」
「馬鹿者! 誰が買っていいと言った!?」
「え? 確認したら買っていいということではないのでしょうか?」
男爵が怒鳴るとバートは首をかしげた。
「レベッカ、というよりはシーモア商会以外からは値上がりの情報を聞いたことはあるのか!?」
「いえ、それは……」
バートは口ごもる。
それを見て男爵の怒りはさらにヒートアップしていく。
「商会は我らに鉱石を売りたいから値上がりするという話をするだろう。その情報の真偽を確認せずに鉱石を買うとはなんて愚かな!」
「そんな……」
「とりあえず取引は保留にしろと急ぎ伝えるのだ、それからお前は急ぎその資料の裏をとれ」
「で、ですがレベッカがこの僕に嘘をつく訳が……それにこのことは絶対に他言無用と言われていて……」
そんなバートの態度に男爵はさらに激怒する。
「お前とレベッカの仲などは知らん! そもそもレベッカが嘘つかなかったとしても正確な情報を持っているのかは分からないのだ!」
「は、はい……」
鉱石を早急に買い集め、褒められるかと思いきや、これまでにない勢いで怒られ、バートは心が折れた。
それにそう言われてみれば確かに父からは裏をとれと言われただけで裏をとったら買ってもいいと言われた記憶はない。しかしレベッカが「早い方がいい」としきりにささやくのでつい急いでしまったところがある。
とはいえ、それもこれも全てレベッカの手の平の上で転がされていた……とやがてバートは気づくことになるのだった。
翌日
「大変です、男爵様! シーモア商会がも抜けの空です!」
「何だと!?」
それを聞いて男爵は驚愕する。
しかし心のどこか、万に一つではあるが、こうなるのではないかと予想していたところはあった。
この大量の鉱石が本当に値上がりするならわざわざうちに売りつけずとも商会が自分で売りさばけばいいのではないか。
そうしないということはそれは嘘だった。
そしてバートを騙すようなことをした以上、こうなるのは必然かもしれない。
そこへしゅんとした表情のバートが帰ってくる。
「すみません父上、どうもレベッカから聞いたことは、他の者は誰も知らなかったようです。しかしこれはレベッカの情報収集能力が高かったからで……」
「馬鹿者! そのレベッカならとうの昔に逃げ去ったわ!」
「そ、そんな……」
それを聞いてバートは崩れ落ちる。
が、男爵の方が暗澹たる気持ちであった。バートがレベッカに逃げられたのはどうでもいい。問題はバートが勝手に役に立たない鉱石を大量に買ってしまったことである。それで大金を使ってしまった上、商会という金づるも失ってしまった。
これでは自分が見下していた周りの貴族たちに馬鹿にされるだろう。
それは男爵にとって堪えがたいことだった。
そう思うと目の前で不甲斐ない顔で立っている息子が憎らしく思えてくる。
「……出ていけ」
「え?」
「出ていけと言っているんだこのバカ息子! 今回の不始末は全部お前がやったことだ! わしは何一つ許可しておらぬ!」
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