22 / 34
王子の後悔
しおりを挟む
※前話、チャールズではなくチャーリーでした。申し訳ありません。
「殿下、チャーリー殿下から書類が届いていますが」
「何だ?」
チャーリーは第二王子、つまり僕の弟だ。
彼はこれまでどちらかというと僕よりも前に出るのは申し訳ない、とどちらかというと僕の後ろに回ることが多い人物であった。そのため何となく、彼は僕のことを立ててくれているのだろう、と思っていた。
しかしどうも今回の騒動を聞くに、チャーリーこそが大臣や将軍の背後で糸を引いているという話もある。
もしやこの時のために彼は虎視眈々と機を窺っていたのだろうか。
正直今はそんな弟からの書類など見たくもなかったが、一応訊くだけ訊いてみる。
「一体何の書類だ?」
「それが、ヒューム伯他、殿下にお味方している方々の真の目的について調べたものだと」
「何だと!?」
ちょうどそのことについて疑っていたところだったので僕は驚く。
少し前の僕であればチャーリーの書類など「くだらない」と一蹴していたかもしれない。しかし先ほどヒューム伯の書類に目を通した僕は、チャーリーの言っていることが必ずしも事実無根ではないのではないかと思い始めたのだった。
「見せてくれ」
僕は書類を受け取ると、ページをめくり始める。
そこにはヒューム伯を始めとする、僕に味方する貴族たちについての情報が事細かに書かれている。
中でも、ヒューム伯のところには日頃から領地では汚職が横行しているとか、領民からも腐敗についての怨嗟の声が漏れている、など様々な悪口が書かれている。
しかし伯爵自体がそのような行為を悪いと思わない人物であることは分かってしまった。
また、他の貴族たちもアシュリーの実家であるヘイウッド家と領地争いをしている者、大臣のアダムに汚職を見つかって咎められた者、グレッグと将軍の地位を争って敗北した者など様々な事情が書かれていた。
要するにチャーリーは、彼らは僕に忠義を尽くしているのではなく、自分たちの利益のために僕を利用していると言いたいらしい。
「いや、そんなはずはない。彼らこそが真の忠臣だ」
僕は口にしてみたものの、前ほどはっきりと確信を抱くことは出来なかった。
「誰か!」
僕は家臣を一人呼ぶ。
「はい、何でしょう」
が、やってきたのは王家の者ではなくカミラが手配したヒューム伯爵家の家臣だった。彼に調査を依頼したとして、ヒューム伯一派のまずいところなど見つけてくる訳がない。
もしかして僕は知らぬ間にヒューム伯爵とその一派によって周辺を囲まれてしまっていたのか?
それに気づいて僕は愕然とする。
これまで僕はアシュリーや大臣たちが僕から王子の権力を奪っていくのではないかと思っていた。
が、実際はどうも逆で、僕を操って好き勝手しようとしているのは伯爵一派のようだった。
もしかして本当に僕をいいように利用していたのはアシュリーではなくカミラだったのか?
確かにアルベルトやアシュリー、大臣や将軍たちは口うるさいし僕をないがしろにしていると思うこともあるが、僕に黙って何かを決めたり、僕を騙して自分に都合のいい書類を決裁させたりするようなことはなかった。
となるとそういう者たちを遠ざけて伯爵一派で周りを囲ってしまったのは取り返しのつかないミスなのではないか。
それに気づいて僕は目の前が真っ暗になる。
彼らこそ真の味方だと思っていたのにただ僕を利用していただけなんて。
「あの、何のようでございますか?」
そうだった、僕はこいつを呼び出したんだった。
僕はすーっと大きく息を吸う。
そして意を決した。
「おい、アルベルトを連れてこい」
「あの、アルベルト様は謀叛の罪で牢に入っていますが……」
「いいからアルベルトを呼べ、彼に訊きたいことがあるのだ!」
「は、はい!」
僕が叫ぶと彼は首をかしげながらも牢へと向かっていくのだった。
「殿下、チャーリー殿下から書類が届いていますが」
「何だ?」
チャーリーは第二王子、つまり僕の弟だ。
彼はこれまでどちらかというと僕よりも前に出るのは申し訳ない、とどちらかというと僕の後ろに回ることが多い人物であった。そのため何となく、彼は僕のことを立ててくれているのだろう、と思っていた。
しかしどうも今回の騒動を聞くに、チャーリーこそが大臣や将軍の背後で糸を引いているという話もある。
もしやこの時のために彼は虎視眈々と機を窺っていたのだろうか。
正直今はそんな弟からの書類など見たくもなかったが、一応訊くだけ訊いてみる。
「一体何の書類だ?」
「それが、ヒューム伯他、殿下にお味方している方々の真の目的について調べたものだと」
「何だと!?」
ちょうどそのことについて疑っていたところだったので僕は驚く。
少し前の僕であればチャーリーの書類など「くだらない」と一蹴していたかもしれない。しかし先ほどヒューム伯の書類に目を通した僕は、チャーリーの言っていることが必ずしも事実無根ではないのではないかと思い始めたのだった。
「見せてくれ」
僕は書類を受け取ると、ページをめくり始める。
そこにはヒューム伯を始めとする、僕に味方する貴族たちについての情報が事細かに書かれている。
中でも、ヒューム伯のところには日頃から領地では汚職が横行しているとか、領民からも腐敗についての怨嗟の声が漏れている、など様々な悪口が書かれている。
しかし伯爵自体がそのような行為を悪いと思わない人物であることは分かってしまった。
また、他の貴族たちもアシュリーの実家であるヘイウッド家と領地争いをしている者、大臣のアダムに汚職を見つかって咎められた者、グレッグと将軍の地位を争って敗北した者など様々な事情が書かれていた。
要するにチャーリーは、彼らは僕に忠義を尽くしているのではなく、自分たちの利益のために僕を利用していると言いたいらしい。
「いや、そんなはずはない。彼らこそが真の忠臣だ」
僕は口にしてみたものの、前ほどはっきりと確信を抱くことは出来なかった。
「誰か!」
僕は家臣を一人呼ぶ。
「はい、何でしょう」
が、やってきたのは王家の者ではなくカミラが手配したヒューム伯爵家の家臣だった。彼に調査を依頼したとして、ヒューム伯一派のまずいところなど見つけてくる訳がない。
もしかして僕は知らぬ間にヒューム伯爵とその一派によって周辺を囲まれてしまっていたのか?
それに気づいて僕は愕然とする。
これまで僕はアシュリーや大臣たちが僕から王子の権力を奪っていくのではないかと思っていた。
が、実際はどうも逆で、僕を操って好き勝手しようとしているのは伯爵一派のようだった。
もしかして本当に僕をいいように利用していたのはアシュリーではなくカミラだったのか?
確かにアルベルトやアシュリー、大臣や将軍たちは口うるさいし僕をないがしろにしていると思うこともあるが、僕に黙って何かを決めたり、僕を騙して自分に都合のいい書類を決裁させたりするようなことはなかった。
となるとそういう者たちを遠ざけて伯爵一派で周りを囲ってしまったのは取り返しのつかないミスなのではないか。
それに気づいて僕は目の前が真っ暗になる。
彼らこそ真の味方だと思っていたのにただ僕を利用していただけなんて。
「あの、何のようでございますか?」
そうだった、僕はこいつを呼び出したんだった。
僕はすーっと大きく息を吸う。
そして意を決した。
「おい、アルベルトを連れてこい」
「あの、アルベルト様は謀叛の罪で牢に入っていますが……」
「いいからアルベルトを呼べ、彼に訊きたいことがあるのだ!」
「は、はい!」
僕が叫ぶと彼は首をかしげながらも牢へと向かっていくのだった。
61
あなたにおすすめの小説
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
妹のせいで婚約破棄になりました。が、今や妹は金をせびり、元婚約者が復縁を迫ります。
百谷シカ
恋愛
妹イアサントは王子と婚約している身でありながら騎士と駆け落ちした。
おかげでドルイユ伯爵家は王侯貴族から無視され、孤立無援。
「ふしだらで浅はかな血筋の女など、息子に相応しくない!」
姉の私も煽りをうけ、ルベーグ伯爵家から婚約破棄を言い渡された。
愛するジェルマンは駆け落ちしようと言ってくれた。
でも、妹の不祥事があった後で、私まで駆け落ちなんてできない。
「ずっと愛しているよ、バルバラ。君と結ばれないなら僕は……!」
祖父母と両親を相次いで亡くし、遺された私は爵位を継いだ。
若い女伯爵の統治する没落寸前のドルイユを救ってくれたのは、
私が冤罪から助けた貿易商の青年カジミール・デュモン。
「あなたは命の恩人です。俺は一生、あなたの犬ですよ」
時は経ち、大商人となったデュモンと私は美しい友情を築いていた。
海の交易権を握ったドルイユ伯爵家は、再び社交界に返り咲いた。
そして、婚期を逃したはずの私に、求婚が舞い込んだ。
「強く美しく気高いレディ・ドルイユ。私の妻になってほしい」
ラファラン伯爵オーブリー・ルノー。
彼の求婚以来、デュモンの様子が少しおかしい。
そんな折、手紙が届いた。
今ではルベーグ伯爵となった元婚約者、ジェルマン・ジリベールから。
「会いたい、ですって……?」
=======================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました
星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。
第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。
虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。
失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。
ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。
そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…?
《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます!
※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148
のスピンオフ作品になります。
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
地味だからいらないと婚約者を捨てた友人。だけど私と付き合いだしてから素敵な男性になると今更返せと言ってきました。ええ、返すつもりはありません
亜綺羅もも
恋愛
エリーゼ・ルンフォルムにはカリーナ・エドレインという友人がいた。
そしてカリーナには、エリック・カーマインという婚約者がいた。
カリーナはエリックが地味で根暗なのが気に入らないらしく、愚痴をこぼす毎日。
そんなある日のこと、カリーナはセシル・ボルボックスという男性を連れて来て、エリックとの婚約を解消してしまう。
落ち込むエリックであったが、エリーゼの優しさに包まれ、そして彼女に好意を抱き素敵な男性に変身していく。
カリーナは変わったエリックを見て、よりを戻してあげるなどと言い出したのだが、エリックの答えはノーだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる