王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

今川幸乃

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王子の後悔

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※前話、チャールズではなくチャーリーでした。申し訳ありません。

「殿下、チャーリー殿下から書類が届いていますが」
「何だ?」

 チャーリーは第二王子、つまり僕の弟だ。
 彼はこれまでどちらかというと僕よりも前に出るのは申し訳ない、とどちらかというと僕の後ろに回ることが多い人物であった。そのため何となく、彼は僕のことを立ててくれているのだろう、と思っていた。

 しかしどうも今回の騒動を聞くに、チャーリーこそが大臣や将軍の背後で糸を引いているという話もある。
 もしやこの時のために彼は虎視眈々と機を窺っていたのだろうか。
 正直今はそんな弟からの書類など見たくもなかったが、一応訊くだけ訊いてみる。

「一体何の書類だ?」
「それが、ヒューム伯他、殿下にお味方している方々の真の目的について調べたものだと」
「何だと!?」

 ちょうどそのことについて疑っていたところだったので僕は驚く。
 少し前の僕であればチャーリーの書類など「くだらない」と一蹴していたかもしれない。しかし先ほどヒューム伯の書類に目を通した僕は、チャーリーの言っていることが必ずしも事実無根ではないのではないかと思い始めたのだった。

「見せてくれ」

 僕は書類を受け取ると、ページをめくり始める。
 そこにはヒューム伯を始めとする、僕に味方する貴族たちについての情報が事細かに書かれている。
 中でも、ヒューム伯のところには日頃から領地では汚職が横行しているとか、領民からも腐敗についての怨嗟の声が漏れている、など様々な悪口が書かれている。

 しかし伯爵自体がそのような行為を悪いと思わない人物であることは分かってしまった。
 また、他の貴族たちもアシュリーの実家であるヘイウッド家と領地争いをしている者、大臣のアダムに汚職を見つかって咎められた者、グレッグと将軍の地位を争って敗北した者など様々な事情が書かれていた。

 要するにチャーリーは、彼らは僕に忠義を尽くしているのではなく、自分たちの利益のために僕を利用していると言いたいらしい。

「いや、そんなはずはない。彼らこそが真の忠臣だ」

 僕は口にしてみたものの、前ほどはっきりと確信を抱くことは出来なかった。

「誰か!」

 僕は家臣を一人呼ぶ。

「はい、何でしょう」

 が、やってきたのは王家の者ではなくカミラが手配したヒューム伯爵家の家臣だった。彼に調査を依頼したとして、ヒューム伯一派のまずいところなど見つけてくる訳がない。
 もしかして僕は知らぬ間にヒューム伯爵とその一派によって周辺を囲まれてしまっていたのか?

 それに気づいて僕は愕然とする。
 これまで僕はアシュリーや大臣たちが僕から王子の権力を奪っていくのではないかと思っていた。
 が、実際はどうも逆で、僕を操って好き勝手しようとしているのは伯爵一派のようだった。
 もしかして本当に僕をいいように利用していたのはアシュリーではなくカミラだったのか?

 確かにアルベルトやアシュリー、大臣や将軍たちは口うるさいし僕をないがしろにしていると思うこともあるが、僕に黙って何かを決めたり、僕を騙して自分に都合のいい書類を決裁させたりするようなことはなかった。
 となるとそういう者たちを遠ざけて伯爵一派で周りを囲ってしまったのは取り返しのつかないミスなのではないか。

 それに気づいて僕は目の前が真っ暗になる。
 彼らこそ真の味方だと思っていたのにただ僕を利用していただけなんて。

「あの、何のようでございますか?」

 そうだった、僕はこいつを呼び出したんだった。
 僕はすーっと大きく息を吸う。
 そして意を決した。

「おい、アルベルトを連れてこい」
「あの、アルベルト様は謀叛の罪で牢に入っていますが……」
「いいからアルベルトを呼べ、彼に訊きたいことがあるのだ!」
「は、はい!」

 僕が叫ぶと彼は首をかしげながらも牢へと向かっていくのだった。
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