悪役令嬢、二度目の人生は「愛」が痛い。〜冷酷王子の執着から逃れるために国外追放(スローライフ)を目指します〜

りい

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第一章 転生悪役令嬢は冷酷だったはずの王子に溺愛されています

第四話 騎士団長は女嫌いのはずでは?

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「はぁ……。私の推しカプ、どこに行ったのよ……」

豪華な天蓋付きベッドの上で、私は特大のため息をつきました。 前世の私は、このゲーム『聖女の祈りと、銀の誓い』の熱烈なファンでした。特に、氷のように冷徹なアルフレッド殿下が、清らかな聖女マリアちゃんにだけ心を開いていく過程が大好きで、二人の絡みを見るためだけに何度周回プレイをしたことか。

(リナリアを処刑する時のあの冷酷な瞳……あれこそがアルフレッド殿下の『美学』だったのに!)

それがどうでしょう。今、目の前にいるのは、私の指先に触れるだけで顔を赤らめたり、他の男と話しただけで国を滅ぼしかねない勢いで嫉妬したりする、キャラ崩壊したヤンデレ王子。 私がリナリアに入り込んでしまったせいで、聖女マリアちゃんとの尊い絡みが見られないどころか、マリアちゃんの存在自体が消されかけている。

「推しの幸せが見られないなんて、転生した意味がないじゃない……。おまけに私の命も危ういし」

こうなったら、最終手段です。 攻略対象の一人、騎士団長カシウス・ディードリヒ。 彼は極度の「女嫌い」で、ゲーム内ではリナリアがどれだけ色仕掛けをしても「不潔だ、寄るな」と一蹴し、最終的に彼女を捕縛する役回りでした。 でも、聖女マリアにだけは「忠犬」のように懐くという、ギャップ萌えキャラだったはず。

(カシウス様なら、今の『バグったアルフレッド様』から私を引き離してくれる。彼に嫌われて『こんな女、国外追放すべきだ』と進言してもらえれば、私の勝ちよ!)

決意を固めた私は、翌日、重いドレスを脱ぎ捨てて、動きやすい(といってもお嬢様風の)外出着に身を包みました。

第五話:鋼鉄の騎士団長なら、私を嫌ってくれるはず!
王宮の端にある、騎士団演習場。 そこには、むせ返るような汗の臭いと、木剣がぶつかり合う鈍い音が響いていました。

「……いたわ。鋼鉄の壁」

演習場の中央で、一際鋭い覇気を放ちながら部下をしごいている男。 短く刈り上げられた銀髪に、傷跡のある精悍な顔立ち。カシウス様です。 彼は女性が近づくだけで露骨に不快感を示すため、この演習場は実質「女人禁制」の聖域。

(よし、ここで思いっきり『嫌な女』を演じて、彼に軽蔑されるわ!)

私はわざとらしく扇子を広げ、護衛を振り切って演習場のど真ん中へと突き進みました。

「あら、むさ苦しいところね。カシウス団長、お忙しいかしら?」

演習が止まり、騎士たちの視線が突き刺さります。 カシウス様がゆっくりと振り返りました。その瞳は、まさに「汚物を見るような目」。

(そう、それよ! その目が欲しかったの!)

「……リナリア様か。ここは貴女のような令嬢が来る場所ではない。速やかに立ち去れ」

「ふふっ、冷たいのね。殿下が私を構いすぎて退屈なんですもの。少しは私を楽しませてくださらない?」

私はカシウス様にわざと近づき、彼の鍛え上げられた胸板に指を這わせようとしました。 ゲームのリナリアなら、ここで彼に激怒され、突き飛ばされるはず。

ところが。

「……貴女は、何をしている?」

カシウス様は私の手首を掴みましたが、そこには嫌悪感というより、困惑……あるいは「観察」するような色がありました。

「えっ……? い、いやだわ、突き放さないの?」

「…………。殿下が貴女に固執する理由が分からなかったが。……貴女、瞳の奥が死んでいるな」

「は!?」

予想外の指摘に、私の悪役令嬢スマイルが凍りつきました。

「……怯え、逃げ場を探し、絶望している。……今の殿下に愛されることが、それほど苦痛か」

(ちょ、ちょっと待って! あなた、女嫌いの無愛想キャラでしょ!? なんでそんなに察しがいいのよ!?)

カシウス様は私の手首を離さず、低く呟きました。

「……いいだろう。貴女が殿下の手から逃れたいというなら、俺が稽古をつけてやる。自分の身を守る術がないから、そうやって震えているのだろう」

「……え、ええええええ!? 稽古!? 追放じゃなくて!?」

私の作戦が根底から崩れ始めたその時。 背後から、演習場全体の空気が一瞬で凍りつくような、凄まじい「殺気」が押し寄せました。

「——カシウス。私のリナリアに、その汚い手で触れる許可をいつ出した?」

振り返ると、そこには抜剣したアルフレッド様が立っていました。 その瞳は、もはや人間のものではありません。 「あ……あああ……」 私は膝から崩れ落ちそうになりました。

カシウス様は、私をかばうように前に出ると、あろうことか王子に向かって剣を構えたのです。

「殿下。この令嬢は、貴殿の歪んだ愛に悲鳴を上げておられる。……騎士として、これを見過ごすわけにはいきません」

(違うのーーーー!! 私が欲しかったのは追放なの!! 王子と騎士団長の全面戦争じゃないのよーーーー!!)

私のスローライフへの道は、さらに血なまぐさい方向へと猛スピードで加速し始めたのでした。
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