『ハッピーエンドを綴じ直す:絶望図書館の脱出ゲーム』

りい

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第一章 シンデレラの救出

第三話 ガラスの靴の謎

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「……馬車も、ドレスも。こんなに綺麗になったのに……」

シンデレラが、自分の片方だけの裸足を見つめて呟いた。黄金に輝くカボチャの馬車の前で、彼女はまた、絶望の淵に沈みかけていた。

「もう片方の靴がないわ。これじゃあ、お城の階段を登ることさえできない。……やっぱり、私は選ばれない運命なのね」

「待って、諦めるのはまだ早いよ!」

葵がシンデレラの肩を掴んで励ます。僕、創は手の中の本を広げた。真っ白だったページに、雨が染み込むように新しい文字が浮かび上がってくる。

『絶望の主(ぬし)は、希望の歩みを止めるため、輝きを三つの破片に砕き、影の屋敷へと隠した。破片を繋ぎ合わせぬ限り、舞踏会への道は開かれない』

「三つの破片……。つまり、パズルみたいにバラバラにされたってことか」

僕はメガネを指で押し上げ、背後にそびえ立つ継母の屋敷を見上げた。そこは、僕たちが最初にいた場所――シンデレラが地下室に閉じ込められていた、呪われた場所だ。

「……あそこから、強い『不協和音』が聞こえる」 奏太がヘッドホンを耳に押し当て、屋敷の二階、不気味に赤く光る窓を指差した。 「靴の欠片が、泣いてるみたいだ。あそこに行けば、見つかる」

僕たち三人は、再びあの暗い屋敷へと足を踏み入れた。

第一のパズル:『虚飾の間』

屋敷の広間に足を踏み入れると、床一面が奇妙なモザイクタイルで埋め尽くされていた。 タイルの一枚一枚には、継母や姉たちの「自慢話」が彫り込まれている。

「何これ、全然進めないんだけど!」 葵が一歩踏み出そうとすると、タイルがガタガタと震え、彼女を弾き飛ばした。

「……床が『正しい形』になってない」 奏太が這いつくばって、タイルの模様を観察し始めた。 「これ、スライドパズルだ。全部のタイルの模様を繋げて、『自分を美しく見せたい継母の自画像』を完成させないと、奥の扉が開かない仕掛けになってる」

「えっ、あんな嫌な女の顔を作るの!? 最悪なんだけど!」 葵が顔をしかめるが、やるしかない。

「奏太、指示をくれ。僕と葵でタイルを動かす!」 「了解。……まず、右から二番目を下へ。次に、中央の『宝石の模様』を左へ。……リズムよくいこう、鐘の音が止まる前に」

奏太の的確な指示に従い、僕と葵は重い石のタイルを押し動かした。パズルが組み上がるたび、屋敷全体が嫌な軋み声を上げる。最後に、継母の不気味な微笑みが床に完成した瞬間、カチリと音がして、タイルの中央から**「透明なガラスの破片」**が一つ、せり上がってきた。

「一つ目、ゲット!」 葵がそれを掴んだ瞬間、広間の明かりが消え、僕たちは二階へと続く階段を駆け上がった。

第二のパズル:『反転した時計の部屋』

たどり着いたのは、無数の時計が壁に並んだ奇妙な図書室だった。 時計の針はすべてバラバラな方向を向き、あべこべに回っている。部屋の中央にある台座には、二つ目のガラスの破片が浮いていた。

「これ、そのまま取れるんじゃない?」 葵が手を伸ばそうとしたが、僕はそれを止めた。 「待って。壁の時計を見て。一つだけ、逆回転じゃなくて『止まっている』時計がある」

壁の古い大時計。そこには、一つの問いが刻まれていた。 『真実のハッピーエンドとは、何時(いつ)に始まるか?』

「何時って……12時の鐘が鳴り終わった時じゃないの?」 葵が答えるが、時計は動かない。

僕は棚の本をひっくり返し、本来の『シンデレラ』の物語を思い出した。 「いや、違う。この『絶望図書館』でのバッドエンドは、12時に始まったんだ。……だったら、ハッピーエンドはその『一分前』に始まらなきゃいけない。絶望が確定する前に、運命を変えるんだ!」

僕は止まっている時計の針を掴み、**「11時59分」**へと合わせた。

その瞬間、部屋中の時計が狂ったように激しく鳴り響き、台座を囲んでいた見えない壁が砕け散った。 「……当たり。創、ナイス」 奏太が二つ目の破片を拾い上げ、僕に手渡した。

第三のパズル:『鏡の迷宮と影の罠』

最後の一片は、屋敷の最上階にある鏡張りの回廊にあった。 そこには「黒いモヤ」が渦巻き、僕たちの姿を不気味に映し出している。

「どれが本物の出口か分からない……!」 葵が鏡に手を触れるが、それはただの冷たいガラスだった。

最後の一片は、回廊の突き当たりにある「巨大な手鏡」の中にあった。しかし、その手鏡に近づこうとすると、鏡の中から「黒い影の僕たち」が現れ、同じ動きで道を塞いでくるのだ。

「鏡合わせの動きをしてる……。僕たちが右に動けば、あいつも右に。絶対に追い越せないようになってるんだ」 僕は焦った。このままでは、また鐘が鳴り響いてリトライになってしまう。

「……じゃあ、鏡が見えないくらいの『光』があればいいんでしょ?」 葵がニヤリと笑い、リュックからスマホを取り出した。 「創、奏太! 目を閉じて!」

葵はスマホのカメラアプリを起動し、フラッシュを「強制発光」に設定した。 「……いっけえええ!!」

真っ暗な回廊に、現代の強烈なLEDフラッシュが炸裂した。 パァァァン! と白い光が鏡の世界を埋め尽くす。 この世界の住人には未知の光に、鏡の中の影たちが怯んで顔を背けた。

「今だ、奏太!」 「……捉えた」

奏太は光の残像の中で、精密ドライバーの先を鏡の枠にある「小さなネジ」に差し込んだ。 鏡の物理的な仕掛けを無力化し、裏側に隠されていた最後の一片を奪い取る。

「三つ、揃ったわね……!」

屋敷を飛び出し、シンデレラの元へ戻った僕たちは、三つの破片を彼女の足元に並べた。 僕が持っている本が、眩い銀色の光を放つ。

『修復(リペア)を開始せよ。心の欠片を、あるべき形へ』

僕たちが三つの破片をそっと近づけると、それらは磁石のように吸い寄せられ、光の中で一つに融合していった。 継ぎ目一つない、完璧で、世界で一番美しいガラスの靴。

「……私の、靴……」

シンデレラが震える手でそれを履いた瞬間、彼女の瞳に、宿命を打ち破る「意志の光」が宿った。 泥だらけだった彼女の足元から、清らかな光が波紋のように広がり、降りしきる冷たい雨を黄金の粉へと変えていく。

「ありがとう、不思議な旅人さんたち。……私、行ってくるわ。今度は、逃げ出すためじゃなく、私の手で運命を掴み取るために!」

彼女がカボチャの馬車に乗り込むと、馬たちが力強く嘶いた。 お城へ向かって走り出す馬車の轍(わだち)が、暗闇の中に光の道を作っていく。

僕の手の中の本に、新しい一節が刻まれた。

『第一章:修復完了まで、残り一工程。城の門を開け、真実の舞踏会へ導け。』

「よし……! 次はお城だ。葵、奏太、準備はいい?」 「あったりまえじゃん! 最高のダンスパーティーにしてやろうじゃない!」 「……お城のセキュリティ、結構厳しそう。また知恵を絞らないとね」

僕たちは、光の道を追いかけて走り出した。 夏休みが終わるまでに、この物語を完結させるために。
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