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ある男の話

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 欲望に忠実な男。

 女神の声が聞こえなくなり、水晶玉に触れて名前を登録する。男は欲望をかなえるためにオークから人間に変更した。前世の姿は思いだせないが、このままでもイケメンと呼ばれる類ではあるが、納得できない男はさらにポイントを使って姿を変えていく。

 少し癖のある髪質に耳が隠れる程度の長さ、タレ目の右側にホクロを付けて身長を125㎝に変更した。息子の大きさは普段は皮をかぶっており、興奮すれば体に似合わない大きさになるように設定している。

「子供を甘やかしていると思えば、最終的にひぃひぃ泣かされる大人の女性とか、燃えないわけないよな!」

 子供の姿をした男はダンジョンを飛び出していく。装備を整えて戦闘スキルや必要な知識もしっかりと獲得してポイントは使い切っていた。

「待ってろよ。俺だけのハーレム!」

 魂に従った男の話。

 名前の登録が終わり、オークから人間に姿に変えた男はさらに髪を腰まで伸ばして体をスレンダーに筋肉は少なくしていく。どちらかと言えば女性に近い、しかし息子は大きく変更した。

「まあ悪くないかな。声も高く設定できたし、男には見えないよね。化粧も買えるみたいだしこれで十分でしょ。後は最低限の知識と攻撃魔法に回復魔法、杖に白いローブも買えばどこからどう見てもヒーラーね。これで男の子も女の子も、ふふ」

 2人の男がパーティーを組むのは別のお話。

 さらに勇者を目指す男。最強を目指す男。戦いを求める男。知識を求める男。気ままな旅人になる男。様々な男たちがダンジョンを出ていく。

 そして1人の男によって世界にダンジョンの存在が認知されていく。

 商人を目指した男は、ポイントを使って世界の知識、鑑定、看破を獲得して衣服に馬と馬車、武具を購入して街に向かった。オークの姿のままで。

 当然、門番に止められ冒険者や憲兵に攻撃されそうになるが言葉が通じること、武器を持っておらず身だしなみが整っていることから街の外で武装した集団に囲まれたままではあるが、領主や冒険者、商人ギルドの長たちと話し合いが行われた。

 オークは語る。この世界にダンジョンという存在が現れたこと、ダンジョンは人間が入ることで活性化して危険は増すが得られる恩恵も増えること、自分以外にも知恵を持った存在が複数存在して規格外の力をもっていること、自分たちが女神によって召喚されたことを。

 領主はオークに質問をする。「君たちは敵なのか?」と。
 オークは笑って答えた「女神は言った。人間は殺さなくてもいい。好きなようにすればいいと。共存できるってことだ。ダンジョンは人間が必要だ。人間はダンジョンを資源に発展できる。ただし危険がないわけじゃない。人間を嫌ってるやつもいるかもしれないしな。俺は共存のためここに商売をしに来た」

 オークは街に入ることはかなわなかったが、殺されることもなかった。商人ギルドの登録もできなかったが、ギルドの長に持ってきた武具の説明を行う。

「いくらで買う?」オークは長に問いかける。オークは看破と世界に知識で相場を知っており、長が武具鑑定を使用して確認していることがわかっている。

 こちらがオークだから普通の武具価格で買い取ろうとするなら、商人ギルドは信用できないと見切りをつけて個人で商売を行うつもりでいたが、相場より少し低く買い取ろうとする長を信用して、武具をすべて売り払った。

「毎度あり。あんたは信用できる商人だ。そこで相談なんだが、奴隷と人数分の水と食料を買いたい。さっきも言ったがダンジョンは人間が必要だ。人間さえいれば何度でもそれらの武具を生み出せる。ただ、それができるのは今のところ俺だけだが」

 オークは馬車に食料と若い男女5名を連れてダンジョンに戻っていった。ダンジョンに到着したオークは女神のオススメパックを購入して部屋に奴隷を移動させる。

 本来なら奴隷を購入した時点で奴隷契約を行うのだが、契約することでオークの所有物となってポイントが加算されない可能性があったため、契約は行っておらず奴隷はオークに抵抗することが可能になっていた。

 そのためゴブリン達は入り口通路に配置して奴隷が逃げないよう、侵入者が現れても対応できるようにしておく。

 部屋に移動させた奴隷たちに食事を与えてポイントが増えているか確認を行うと1分につき20ポイントの加算が行われていた。

 1日に28800DTPが手に入るようになり、オークはダンジョンを広げながら奴隷たちが住みやすい環境を作り、逃げられたいと思わせない暮らしをさせてどんどん奴隷を増やしていき、武具の商品を充実させて1ヶ月もすれば商人として成功した。

 1ヶ月の間、世界でダンジョンは認知されてコアだけのダンジョンが複数発見されいく。誰かが試したのかコアを破壊した者には何かしらの祝福が与えられると噂が流れ、資源とならないコアだけのダンジョンは破壊対象になっていく。

 しかしモンスターや罠、宝箱が設置されているダンジョンは被害は出るが、コアのある部屋まで到達しても破壊しない方が利益になるため冒険者ギルドから破壊しないよう通達が行われた。もし破壊した者は重い罰則が科せられる。

 オークは奴隷たちとダンジョン商会を立ち上げ、全世界に店を開店していく。「長年に夢が叶った」とオークは笑う。奴隷たちとの間にたくさんの子供を残して。
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